第277話 シルバー・フラワー号殺人事件
25日(金)よりWEBコミックガンマぷらす様の公式サイトにてコミカライズ版萌え豚転生第2話(前半)が公開されました!
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シルバー・フラワー号。それは最近造船されたばかりの、世界最大の豪華客船。マーマイト帝国と聖都ベリーズを結ぶ大陸横断鉄道アズ・サニー号の登場により人類の主要な交通網はそちらに移りつつあるが、今でも機関車に比べ一度に大量の積み荷を輸送でき、飛空艇よりもコストのかからない船便は重宝されており、今なお海路は現役である。
切符代が高価だがその分早く目的地まで行けるのが鉄道、鉄道より安価だがその分時間がかかるのが船、といった感じに住み分けができているのだろう。レールがなければ走れず既存のレールを借りることも難しい上に、そもそもどうやって入手するんだという様々な問題が付き纏う列車に比べ、船ならば個人や民間企業が所有できるというメリットもあるしね。
鉄道旅行を楽しみたい人が大勢いるように、船旅を楽しみたいという人だって少なくない。そんな旅人たちの新たな憧れの的。庶民には手の届かない高嶺の花。そんな最新の豪華客船の正午の出航を一目見ようと、港には大勢の野次馬たちが詰めかけては、その豪奢なシルエットにウットリとため息をこぼしている。
正直、その気持ちは分かる。洗練された白亜の船体に魔除けの光属性魔法で祝福された聖銀の装飾が美しい外観はまるで水面を揺蕩う一輪の白銀の花。さながら海に浮かぶ最高級ホテルのような優美な佇まいだ。客室は大勢の招待客で埋まっている1等客室から、熾烈な抽選争いが起きたという3等客室まで全席満室らしく、大勢の人で港はごった返していた。
「うむ! なんとも立派な船よな! どうだホーク! そなたにもよく見えるよう、俺が担いでやろうではないか!」
「それには及びませんよイグニス殿。ホークくんは僕の大事なお客様ですから。その役目は僕が」
「はっはっは! なあに、噂に名高き英雄殿の手を煩わせることもあるまいて!」
「煩うなどとんでもない。ホークくんは僕の大切な友人ですから」
どうしよう、凄くしょーもない。
なんだってそんな最新式の豪華客船の前でイグニス様とローガン様がニッコリ笑顔で牽制し合っているのか。事の発端は遡ること数日前。シルバー・フラワー号の処女航海の招待状が送られてきたから、一緒に行かないかとイグニス様が俺の部屋に転移魔法でダイレクトインしてきた。
丁度時を同じくして、ローガン様も同じ理由で俺を誘いにお忍びでゴルド邸を訪れていた。勿論こちらは紳士的に、事前連絡ありでだ。ノックもなしにいきなり手ぶらで部屋に飛び込んできた暴君と、ご丁寧に手土産まで持参してきてくれた賢君。どちらを優先するかは言うまでもないな??
と言いたいところだが、無理を通して道理とか知らぬがたぶん全員抱いたぞ? なイグニス様。ヘソを曲げさせたら世界一の俺様野郎が柄にもなくこれ見よがしにションボリいじけてしまったのを見るに見かねて、どうせ行き先は同じですから3人で行きましょうか、などと大人な対応のできるローガン様が気を利かせてしまったが最後。
ダメですよローガン様。この手の演技派男は甘やかすとどこまでも付け上がるんですから!! 善人が損をする世の中って割と間違ってると思う反面、ああこうして悪い男が最後に勝ってしまうのね、とありがちな三角関係もののトレンディドラマなんかを思い出しながら、ちょっと遠い目になってしまう。
ちなみに俺の護衛が誰もいないのは、ローガン様が『息子さんの身の安全は僕たちが責任を持って保証します』と言ってくれたからだ。今頃みんな臨時休みを楽しんでるんだろうなー。
「あんたたち! つまんないことで張り合ってないで、さっさと行くわよ!」
「陛下、どうか一国の皇帝として恥ずかしくない立ち振る舞いを、くれぐれも! お願い致しますよ?」
皆様右手をご覧ください。一番高いのが中指でございます、じゃなくて。世界一有名な船が沈没する映画なんかで観たことのあるようなレトロな、けれどこの世界では最先端の流行りっぽい豪奢なヒラヒラフリフリの真珠色のドレスに身を包んだ白髪の犬耳美女、ゼト様 (よそ行きver.)でございます。
普段は子犬だったりケモ耳美少女だったりするこの聖獣様、ある程度自由自在に体付きを変化させられるため、ここぞとばかりにハリウッド女優のような大人の魅力たっぷりのボボボンキュッボボンな豊満美女になってやがる。その美貌はイグニス陛下が思わず初対面でナチュラルに口説き始めるぐらいだ。凄いぞゼト神!
そんなわけで右手にはヴァスコーダガマ王国が誇る精鋭騎士御一行様。左手にはマーマイト帝国が誇る精鋭軍人御一行様。お供の馬獣人の宰相キャロブさんがイグニス陛下に念を押しつつ、俺たちは乗船準備に取り掛かる。
「それでは、お手をどうぞレディ?」
「あら、気が利くじゃないの坊や」
イグニス様とローガン様のどちらにエスコートされても揉めそうだったので、ゼト様の手を取り俺たちは豪華客船、シルバー・フラワー号に乗り込む。しっかしこの状況、俺だけ異様に浮いてんな?? 周囲からの『あのガキはなんだ』『よく見りゃホーク・ゴルドじゃねーか?』みたいな視線がビシバシ突き刺さる。
「イグニス・マーマイト皇帝陛下! ローガン・ヴァスコーダガマ殿下! ヴァスコーダガマ王国の守護聖獣ゼト様! この度は高名な御三方に当シルバー・フラワー号の処女航海にお越し頂き大変光栄の至りでございます!」
そりゃそうか、今世界で最もHOTな男こと軍事国家の皇帝陛下と、今世界で最もCOOLな男こと砂漠の国の英雄殿下が揃っているのだ。お出迎えの船長さん以下スタッフ一同や船会社のお偉いさんたちがガチガチに緊張しながら挨拶を述べているのだから、無理もあるまい。
普段のワガママ黒猫と優しいおじ様の姿からして忘れがちだけどこのふたり、世間的には俺なんか足元にも及ばないぐらい物凄ーーーく偉い人たちなんだよなあ。片や一国の頂に立ちどんどん領土を拡大している皇帝陛下、片やリアル一騎当千の大英雄にして王兄殿下+この世界に残存する数少ない現役のリアル神様だもんな。
今やってる船会社の社長さんと船長さんらの仰々しい挨拶も、一手対応を間違えれば最悪国際問題に発展したりしちゃってもおかしくはない一大事なわけで。そもそもあちらさんからしたら、『なんだってこのふたりが仲よく一緒に来るんだよ!?』と内心驚愕だろう。それだけ彼らの影響力は絶大とも言える。
あのイグニス・マーマイト皇帝陛下が宿泊なさったお部屋! だの、あの大英雄ローガン・ヴァスコーダガマ様もお召し上がりになられたディナー! だの、箔付けという意味では宣伝効果は半端なかろう。だからこそこうして緊張で胃がボロボロになるリスクを冒してまでダメ元で招待状を送り付けたのだろうし。
「おいホーク、あの社長、ナチュラルにそなたのことだけピンポイントでスルーしたぞ?」
「一国の指導者と一国の指導者のお兄様と一国の神様に比べりゃそりゃ優先度は落ちるでしょうよ。そもそも、なんでそんな偉い人たちが俺みたいな得体の知れないガキを連れてきたのか分からない以上、愛想笑いだけ浮かべて無難にスルーするのが得策ですって」
そんな安っぽいBL漫画の狭量な攻め様みたいな台詞吐かれましても。まあ、イグニス様だって本気じゃないのは判りきってる。ちゃんと解ってる上で、それでもこういう軽口を叩いてくるからこの人はタチが悪いのである。でもなんやかんやそこが憎めないからズルいんだよね、ほんと。
「わー! すっごーい!!」
「ほんとに凄いですねー!」
「君たちが喜んでくれて嬉しいよ。その笑顔が見られるだけでも、遠路遥々やってきた甲斐があるというものだ」
俺たちが通されたのはVIP向けの1等客室だった。高級ホテルのスイートルームのような豪奢すぎるお部屋に窓から眺められる景色は最高のオーシャンビュー。パラソル付きの椅子やテーブルが並ぶバルコニーに設置された露天風呂には魔道具で泡が出るジャグジーまで付いてる! 凄い! これで一泊じゃ済まない船旅なんだから、宿泊料は金貨百枚はくだらないだろう。
セクシー美女フォームであることを忘れて子供のように目を輝かせてベッドに飛び乗ったゼト様と、ウェルカムドリンクの毒見をしてくれた護衛騎士さんから受け取ったグラスをこちらに渡してくれるローガン様。勿論イグニス陛下たちマーマイト帝国御一行様ははまた別のお部屋だ。
一応、俺は今回ローガン様の同伴者って扱いになってるからね。ちゃんと筋を通してお誘いしてくれた以上は、こちらに義理を尽くさねば失礼だもの。親しき仲にも礼儀あり。あなたに言ってるんですよイグニス様?? いや、実際に直接言っているわけではないのだけれども。
「お誘いありがとうございますローガン様! 俺、こんなゴージャスな船旅をするのは初めてかもしれません!」
「おや? そうなのかい? 君のことだから、てっきり慣れているものだとばかり」
「ええ。なんてったって出不精ですからね! 根が引きこもりなんです俺!」
ゴルド商会の商船はある程度内装には凝っていても速度重視だし、前に最新鋭の軍艦に乗ったことはあれど、アレは豪華客船とはまた違うジャンルの楽しさだしな。
「それでは、素敵な船旅に」
「「乾杯!」」
海のように透き通った水色が美しいウェルカムドリンクで、俺たちは祝杯を挙げる。なんだか素敵な船旅が始まる予感がするぞお!
なおタイトル





