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第275話 春は夢の結婚式

朝。それは一日の始まり。そんなん言われんでも分かっとるわ、と思う人もいるかもしれないし、俺の一日は大体昼から始まる、という人もいるかもしれない。うーんこの、典型的な00年代ラノベ主人公みたいな無駄の多い謎の独白ムーブ。


そんなわけで、朝である。


「起きろ、坊ちゃん」


「やーだ、まだ眠い」


17歳にもなってやーだ、なんて言う男って痛々しいって思う? 俺は思う。でも、たまにはかわい子ぶっちゃったりもするのだ。なんせこの体は十歳児のそれである。男児をこよなく愛する女神の余計なお世話によってかけられた、呪いにも等しい若返りの奇跡。


後で知ったことだがアレ完全に確信犯だったらしく、だったら戻してくれない? と一度抗議したのだが、そっちの方が可愛いからイヤ、とクソみてえな返答を頂いてしまった。ただし、二度目はない、と約束をもぎ取ったので、次はない、と信じたい。


「ほら、起きろ」


「うーん……」


「うーんじゃない。今日は結婚式だろう?」


「……そうだった」


既にキッチリと礼服に身を包んでいるオリーヴにかけ布団を引っぺがされ、そのままぼんやりしているうちに髪を梳かれ蒸しタオルで顔を拭かれ、ついでに白湯の入ったマグカップを手渡してもらう。


今日は記念すべき結婚式の日。結婚、それは愛し合うふたりが永遠の愛を誓う神聖な儀式……ってコレさっきもやったような気がする。とにかく今日はめでたい結婚式の日なのだ。朝寝坊なんて許されないぞ。


「お前もいつまでもグースカ寝てるんじゃない!」


「うお!? ってえなこの野郎!」


俺に対する甲斐甲斐しさとは正反対に、雑に叩き起こされたクレソンが大あくびをしながらオリーヴに向かってファイティングポーズを取る。そういや昨夜はベッドに寝転びながら徹夜でゲームをしているうちに、どちらともなく寝落ちしてしまったのだ。


結婚式前夜に何やってるんだろうなほんと。ゲームの駒やメモ書き、10面ダイスがシーツの上に散乱しているのはそのためか。うっかり寝返りを打った時に踏み潰しちゃわなくてよかったな。


「ボサっとしてないで、さっさと身支度を済ませろ。ほら坊ちゃんも、朝食を食べに行くぞ」


「あ、うん」


「あー、俺ァパス。礼服ってのは堅ッ苦しくて窮屈でよォ、ただでさえ嫌なのにそんなカッコでお行儀よく何時間も座ってなきゃなんねえんだろ? だったらうちで留守番してる方がよっぽどいいぜ」


「そうなの? まあ、無理強いはしないけれども」


「おう、んじゃ俺ァもうひと眠りすっから後よろしくなァ!」


叩き起こされて不機嫌そうなクレソンがそのまま毛布を引っ掴んでゴロリと背中を向けてしまう。いや寝るなら自分の部屋に戻って寝ればいいのに……それすらも面倒なのか。まあ、気持ちは分からなくもない。


「お前は本当に……」


呆れた様子のオリーヴを尻目にさっさと着替えた俺は、朝食を摂るべく食堂に向かう。


「坊ちゃま、おはようございます」


「おう、おはようさん」


「おはようござい申す」


「ホークちゃーん! おはよー!」


「おはよう、ホーク」


ローリエ、バージル、カガチヒコ先生、父さんと母さん。既にみんな礼服に身を包んでおり、式場に発つ準備は万端らしい。


「クレソン殿は?」


「今日は行かないって」


「知ってた」


ローリエではないメイドが運んできた朝食を手短に済ませ、皆でゴルド家の家紋が刻まれた馬車に乗り込む。と言っても7人は乗れないので、2台に分けてだが。俺は当然と言うかなんと言うか、指定席は父さんの膝の上。


見た目が小学生だから違和感はないけどさあ、ほんとにさあこの人は……。


もうすぐ17歳になる息子に対する扱いとしてはどうなの? ってぐらいベッタベタに甘やかしてくるので教育に悪い、とぼやくのは昔からずっとそうか。母さんもやや呆れ気味にヌイグルミのように俺を抱き抱えてご満悦の夫に呆れた視線を送る。


1台目の馬車には俺たち家族3人とローリエ。残りの護衛ズは2台目の馬車に乗り込み、女神教の教会へ。やっぱ結婚式と言ったら教会だよね。


遠巻きに、時を告げる教会の鐘の音が響き渡るのが聴こえてくる。どうやら約束の時間にはかなりの余裕をもって間に合いそうだ。


「ホーク! よく来てくれた!」


「ゴリウス先輩! この度はおめでとうございます!」


「ああ、ありがとう!」


そんなわけで、無事結婚式場たる教会に到着した俺たちは、本日の主役にご挨拶。


何を隠そう今日の主役こそが彼、ラウララウラ伯爵家のご長男たるゴリウス・ラウララウラ先輩と、そこへ嫁入りすることと相成ったワッサー子爵家のキルシュ・ワッサー先輩なのである。


学生時代からとっくにゴールインを決めていたこのふたり、王立学院高等部を卒業後は揃って王国騎士団に就職を決め、そのまま職場恋愛をする前にこうしてさっさと結婚してしまったわけだ。4月からは研修が終わり、本格的にお城勤めが始まるからね。忙しくなる前に式を挙げてしまおうということらしい。


「おはようホークくん」


「おはようございます、ホーク様」


「おはようホーク! 結婚式にはもってこいのいい朝だな!」


「おっはー!」


「メルティちゃん??」


「あー、おはようございまーす!」


「もう!」


「フォフォフォ、賑やかじゃのう」


「そうですね。この子たちらしいです」


当然、ゴリウス先輩の結婚式ともなれば子豚部の面々も勢揃いである。特に明確にピクルス第3王子派閥の筆頭として認識されている、というか彼の庇護を受けなければ延命できなかった両伯爵家としては、招かない理由がないからね。恩師枠に学院長と、部の顧問であるミント先生。それからワッサー先輩とゴリウス先輩のクラスの担任だった教師も招かれているようだ。


その他招待されている客たちも当然上は貴族から下はワケアリの平民たちまで、揃いも揃って第3王子派の重鎮ばかり。つまり第3王子派閥に妨害工作を仕掛けたいのであれば、今日が絶好の機会ってワケ。


たとえば手っ取り早く式場を爆破するとかね。さすがに女神教のお膝元で爆破テロなんかやらかしたら女神教にまで喧嘩売る形になるからそこまではやらないだろうけど、でもそれぐらい何かやらかすならお誂え向きのシチュエイションなのよね今日は。


まあ、よからぬ連中がよからぬ企みをどれだけ綿密に入念に慎重に企てようが、ゴリウス先輩とワッサー元生徒会長の結婚式を邪魔させたりはしないけどさ。

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