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第27話 あくどい子豚と聖職者様の素敵な休日

「どーも。近くまで来たのでご機嫌伺いに来てやりましたよクソジジイ」


「帰れクソガキ。テメエの豚面見てるだけで飯が不味くなるぜ」


「おや?清貧をモットーとする女神教の使徒様ともあろうお方が、ステーキランチですか?いけませんねえ、教会の皆さんは質素なスープやシチューやパンと少量の野菜だけという清貧ランチを召し上がられていらっしゃるというのに、そのトップであるあなたがこの体たらくとは」


「うるせえ、こちとら老い先みじけえんだ。んなもん食ってられっかよ。で、なんの用だ?」


「いえ、特に用事はないのですが。本当にただ近くまで来たので顔出しただけなんですよ。せっかくだから、あなたに嫌がらせのひとつでもして帰ろうかなと」


「死ね!」


女神教・ブランストン王国支部長。その実態は、破戒僧丸出しの汚職神父、ガメツ・ゴーツクには最近、どうしてもぶっ殺してやりたいと感じるクソガキがいる。そいつの名は、ホーク・ゴルドという。国内でも指折りの大商会、ゴルド商会の社長のひとり息子であり、ガメツに金と不快感を運んでくる、厄介な子豚だ。


正直に言うと、最初はナメていた。公爵家の使いっ走り。バカ親に甘やかされて育ったせいで、自分はなんでもできると勘違いしている増長したクソガキだと。だが、侮った代償は小さくなく、まんまと一杯食わされてしまったという苦い記憶が残っている。


ゴルド商会の関与を口外しない、という約束を守るだけならば、なんら苦労はない。だが、いいように利用されてしまったという屈辱は忘れ難い。ましてこんな十歳のガキにだ。せっかく教会を抜け出し、行きつけの酒場で酒を飲みながら美味い肉を食っているというのに、途端に砂を噛むような苛立ちが口の中に広がるのも腹立たしい。


「まあまあ、悪党同士仲よくしましょうよ。お金しか信用できないでいると、いざお金に裏切られた時に泣くことになりますよ?」


「誰がテメエなんぞと!仲よくするにしたってテメエ以外の相手を選ぶぜ。で、なんの用だよ?」


「ですから、本当にただヴァン君の様子を見に下町の近くまで来たのでついでに立ち寄っただけですってば。ここは僕が奢りますから、そんなに邪険にしないでください」


相席の許可も出していないのに、勝手に丸テーブルの対面の席に座り、酒場のウエイトレスのねーちゃん相手にガメツが食べているものと同じステーキとベイクドポテトの盛り合わせに大盛りライス、ライムジュースまで注文するふてぶてしさときたら。親の顔が見てみたいものである。奢りでなければ蹴飛ばしてでも退席させているところだ。


この酒場の店主には少なくない口止め料を握らせているため、教会では大っぴらに楽しむことのできない豪勢な食事とひとりの時間をゆっくり楽しめる憩いの場であったのだが、この豚野郎のせいでそれをぶち壊しにされるのかと思うと無性に腹が立つ。


「んで?その割にはシケた面しやがって、またあの元公爵家のガキがなんかやらかしたのか?お?」


「そんな露骨に俺の不幸を喜ばないでくださいよ。彼自身にはなんの落ち度もないんですけど、俺が一方的に彼に苦手意識を持っているせいで、相手をしていると無性に疲れちゃうというか。なーんか苦手なんですよね、ああいうキラキラしたまっすぐな子」


「そうかい。ま、俺も気持ちは解るぜ。俺も教会の支部長なんぞやってっと、たまーにこいつ善人通り越して、ただのバカなんじゃねえか?ってレベルの善人に遭うこともあるからな」


「そう!そうなんですよ!あまりにいい子すぎて調子が狂うというか」


赤ブドウジュースを赤ワインのように飲み干したホークが、疲れた顔でガメツを見上げる。


「いい気味だ。ざまーみろ」


「ですので、あなたのような悪党の悪人面を見ることで、いかにもなキラキラ好青年オーラで眩んでしまった目を休ませようというわけです。よかったですね、人様のお役に立てて。女神様とやらもさぞお喜びになられることでしょう」


「本気でぶん殴られてえか、クソガキ!」


「わあ!暴力反対、暴力反対!」


本当に可愛げのないガキだ。だが、振り上げた拳をその顔面や脳天にブチ込んでやろうという気には不思議となれないのがなんとも腹立たしい限りである。世界中で信仰されている女神教。その王国支部の支部長を任されている、自分で言うのもなんだが大物な俺を相手に、大した度胸だと思わなくもない。


見る目のねえ無知で純朴な孤児のガキ共や教会のシスター共に囲まれて、支部長として常日頃から善人を演じなきゃなんねえストレスを適度に発散できる相手ができたというのは、まあ悪くねえ。十三使徒なんぞと偉そうに言っても、その実態は、業突く張りのガメつい、どっぷり汚職に染まったジジババ共の集まりだからな。気軽に軽口を叩いてもいい相手というのは、女神教の支部長的にはかなり希少なのだ。いや、この国に来てから初めてと言っても過言ではない。


何より言葉とは裏腹にこいつの目には、侮蔑や嘲笑の色が一切ねえ。むしろ同族に出会えて喜ぶような、妙に後ろ暗いものを感じさせる澱んだ目。おおよそ十歳のガキがするような目じゃねえ。


「あ、美味しいですね、ここのステーキ。俺も常連になろうかな」


「却下だ却下。テメエは出禁に決まってんだろうが!」


「フフ、残念ですが既に店主さんは買収済みですよ。どうしても俺を出入り禁止にしたいのであれば、俺が積んだ金額を上回る金貨をご用立てしてあげてください」


やれやれ。可愛げのねえガキだが食ってる時だけは相応の顔をしやがる。道理でコロコロ豚みてえに肥えているわけだ。まあ、俺も人のことを言えた義理じゃねえがな、とガメツ・ゴーツクは己の下っ腹をさすりながら、奢りだからと無駄に奮発して注文してやった、この店で一番高い酒を口に運んだ。

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