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第252話 ミッション:インポッシブヒ

「盗まれた? あなたのハートか何かをですか?」


「いえ、潜水艦の極秘設計図です。お陰で騎士団は今頃飲み物をコタツ布団にひっくり返したような大騒ぎでしょうねェ。お正月早々ご苦労なことですな」


年明け早々、浮かれたお正月ムードが絶賛蔓延中のブランストン王国。その秘密研究所から、オークウッド博士が設計・提供した潜水艦の設計図が盗まれたというニュースが飛び込んできたのは、正月中ずっとアパートにいても暇だからと我が家にお雑煮を食べに来た当人の口からだった。


なんでも王立学院の大学院部にある研究棟とはまた別の、ブランストン王国騎士団が統轄する研究所の方で謎の爆発事故 ()があり、極秘裏に開発が進められていたその潜水艦の設計図が根こそぎ盗み出されたらしい。まあ、しょうがないよな。この国を七度滅ぼしてもまだお釣りが来そうなトチ狂った研究ばかりしているどこぞの天災博士のせいで警備があり得ないぐらいガッチガチに固められまくった大学院とは違って、騎士団の方は普通の厳重警備ぐらいしかしてなかっただろうし。


年末年始で浮かれたり、バタバタしていたり、休みを取ったりしている者たちも多かった影響なのか、幸いにも件の爆破事故で死者こそ出なかったようだが、バカにならない規模の大損害が出てしまって正月早々騎士団やそれに関係していたお偉いさんたちは正月休み返上で大騒ぎらしい。心の底からお気の毒すぎる。人様の休日を邪魔する奴は即時極刑もののギルティだからな。設計図泥棒め、社会人の貴重な休日を一体なんだと思ってやがるのか。


とにかくそんな緊急事態になってしまったからには取り急ぎオークウッド博士の身の安全を最優先で確保しようということで、王国騎士団が大慌てでアパートメントまで博士を保護しに来たそうだ。


が、正月早々お城で軟禁生活なんてされたくありませーん! 我輩のお正月休みを邪魔しないでくださーい! とまさかの博士が同行を断固拒否。いいから来い断るの押し問答を遠回しかつ丁寧な柔らかーい表現でやらかした挙げ句、認識阻害魔法を使ってアパートの玄関に立てかけてあった箒をオークウッド博士だと周囲が思い込むように仕向けてとっととうちに退散してきたのだそうだ。


「大丈夫なんですか? それ。バレたら結構な揉め事になってしまいそうですけれども」


「バレなければなんの問題もありませんから大丈夫ですとも! それに一際強烈な催眠音波を発する術式刻印を刻んだ宝石を核として刻みましたから、マーリン学院長でもない限りは見破ることは難しいでしょう! はっはっは! 王族相手に不貞腐れて口を利かずとも罰されずに済む立場というのもたまには役に立つものですな!」


「だ、そうですが?」


俺の部屋にある魔道具コタツに入り、屈託も罪悪感もない笑顔と緊張感の欠片もないどてら姿でお雑煮のお餅をのびのびと味わう博士に振り返るよう促すと、そこには実は一足先に我が家に相談に来ていたピクルス王子とローザ様とゴリウス先輩、そして元秘密諜報部隊U3勤務の縁で会話に加わっていたローリエの姿が。凄い、ジト目のフォーカードだ。ここは俺も空気を読んで加わって、ファイブカードにすればより最強だろうか?


「あー、あけましておめでとうございますですぞ皆さん! この件はどうか密に! 密に! 我輩のイメージダウンに繋がってしまっては、ただでさえ少ないスポンサーが減ってしまうやもしれませぬ故!」


「ここまで悪びれもせず開き直られてしまうと、もはや腹を立てる気力も消え失せてしまいますわ」


「あなたがエキセントリックな人物であることは存じているつもりでしたが、よもやここまでとは……」


「うーむ、諸先輩方の苦労、案ずるに余りある。卒業後は俺がそれをやらされる羽目になるのか……っ!」


「皆様、よろしければリラックス効果のあるハーブティーでもお持ち致しましょうか?」


「お願いできるかな?」


「わたくしにも是非」


「自分は遠慮させて頂くであります。お気持ちだけありがたく」


「我輩にはビールをお願い致しまするぞ! それと、お雑煮おかわり!」


     ◆◇◆◇◆


そんなわけで、お正月早々やって参りましたるるはデリゲード共和国、今回は入国審査をパスしたいので、ステルス迷彩されたヴィクトゥルーユ号を使っての空輸による密入国でこんにちゎだ。ブランストン王国から来た観光客だと今の状況柄警戒される虞があるし、かといってどっか適当な国の出身ってことにすると何かあった時に最悪その国に冤罪を押し付けてしまう可能性もあるからね。


王家直属の秘密諜報部隊U3の追跡調査によれば、ほぼ間違いなくこの国のエージェントが件の研究所に侵入し、潜水艦の設計図を盗んだ挙句一部施設を爆破してここ祖国に逃げ帰ったそうなのだが、この国はブランストン王国とはほとんど親交がなく、それどころか金属資源にまつわる領土問題で事実上の冷戦状態に長年あり、迂闊に刺激すると即開戦待ったなしという非常に面倒な状況下にあるのだそうだ。


かといって奪われた設計図をそのままに放置しておけばいずれデリゲード軍に先に潜水艦を開発されてしまう危険性があるため、なんとしても今のうちに対処しておきたいと、U3の特殊諜報部員並びに王立騎士団からは潜入捜査などの裏の仕事に長けた隠密騎士数名を秘密裏に派遣。


後はその人たちが頑張ってくれることを祈りましょ、では万一の際に不安なので、ピクルス様が個人で動ける俺に仕事を依頼してきたというわけだ。勿論ホーク・ゴルドがこれ以上第一王子やU3、王国騎士団の面子を潰してしまっては大問題なので、うちが解決してもその手柄は全てピクルス様の権限で半ば無理矢理隠密騎士の選抜メンバーに捻じ込まれたゴリウス先輩経由で騎士団に持っていかれることとなるが。


まあ、別段勲章だの爵位だのといった表彰に託けて面倒事を押し付けられる可能性が高くなる手柄や名誉の類いはこれっぽっちも欲しくないし、面倒ないざこざを回避できるのならそれに越したことはないから俺としてはその辺の大人の事情は問題ない。が、学友のよしみで無償で手助けしてやるには些か我が家には無関係すぎる案件なので、今回はあちら側もそれを承知の上で、きちんと相応の見返りを用意してきた。と言っても、ここで延々お金や商いや権利利権の話をしてもしょうがないので詳細は省くが。


「ブーヒョヒョヒョ! あけましておめでとうだブヒ! こいつはチップだから取っておくといいブヒよ!」


「え!? こ、こんなに!? あ、ありがとうございます!」


そんなわけで、今回潜水艦設計図奪還or破却ミッションに特別参加しているのは三名。リーダー俺と、SPやらせるなら一番適任なその道のプロ、オリーヴ。それに俺の召使のゴリさんことゴリウス先輩だ。筋書きとしては、バ金持ちのボンボンがお正月の海外バカンス旅行を楽しみにのんきにデリゲード王国にやってきちゃいましたー! って感じ。とはいえ今回は偽造身分での不法入国になるので観光なんてしている場合じゃないしホテルに宿泊したりもできないんだけどね。


「おいゴリ! 何をグズグズしてるんだブヒ! またお仕置きされたいブヒか!?」


「え? あ、ああ。すまない……じゃなくて! はい、すみませんご主人様!」


身なりはよいが奴隷の首輪 (にそっくりに作らせたただのお洒落首飾り)をつけられ、俺みたいなクソガキにコキ使われている召使のゴリさんと、演技とはいえゴリさんを冷ややかな眼差しで睨んでいるオリーヴ。正直辻馬車に乗るだけの段階で既にかなり悪目立ちしてしまっているわけだが、目立てば目立つほど俺たちから疑いの目は逸れるだろう。こんなスパイがいるかって話だよ。


「ブーヒョヒョヒョヒョ! ブーヒョヒョヒョヒョヒョ! ヒョッ!?」


一体何を勘違いしたのか、馬車への搭乗口の前で四つん這いになるゴリウス先輩。何? 踏めと? え? 俺に踏んで上がれと? ゴリウス先輩の中で俺のイメージってそんななの? 違うよね? ちょっと演技に熱が入りすぎちゃってるだけだよね?? そんなさあどうぞ! みたいな目で見られても困るんですけど!!


しょうがないのでそのまま召使奴隷のゴリさんの背中を土足で踏んで馬車に乗った俺に、周囲から嫌悪感強めの非難するような視線が突き刺さるがいいもん! これも作戦のうちだもんきっと!


「演技は不慣れだが、どうだっただろうか? あまり棒読みにはなっていないとよいのだが」


「あー、うん。演技に関しては大丈夫でしたよ。でもさすがにあそこで四つん這いになられるのはちょっと……」


「ひょっとして、やりすぎてしまっただろうか? すまない、これまで奴隷というものにほとんど触れたことがなくて、加減が判らなかったのだ」


「そういうことは先に……いえ、配慮を欠いた俺の落ち度ですね。なんかすみません、却って」


「いやいや、俺の」


「いーや俺の」


「ふたりとも、仲よしなのは構わないが、一応は敵地のただ中なのだからあまり気を緩めすぎるなよ」


「はーい」


「申し訳ありません、オリーヴさん」


そんな話をしていると、直に馬車の車窓から目的地が見えてきた。デリゲード共和国が誇る高層シンボルタワー、デリゲード・セントラルズだ。このファンタジー世界にはあまり似付かわしくない高さ三十階立てのガラス張りの高層ビルは、最上階が大統領の執務室となっており、以下政治・司法・行政・医療・軍部などが一堂に会したまさにこの国の中枢部と呼べる最重要施設である。


俺たちの目的はあのビルに潜入し、密かに持ち込まれた潜水艦の設計図を回収もしくは破却すること。正直ステルス迷彩で姿を消したヴィクトゥルーユ号で爆撃してあのビルを根こそぎ瓦解させた方が手っ取り早い気もするのだが、そんなことをしたらどんな余波が起きてしまうか知れたものではないので、今回は潜入の痕跡すら残さない水面下での解決が望ましい。


まあなあ、ブランストン王国の陰謀だと決め付けられて報復の開戦とかされても困るし、元はと言えばそもそもがブランストン王国で潜水艦を造ることになったらしいのはマーマイト帝国海軍の新造軍艦隊が世界中の度肝を抜いたせいで早急にそれに対処するための手段が必要だ! ってなったかららしいし、そう考えると巡り巡ってこうなった原因の根っこの部分にいるのは俺だもんな。


戦争は時計の針を加速させるとは言うが、その針をぶん回しているのが世界中の誰よりも負けず嫌いで一番先を突っ走りたがりのあのお騒がせ黒獅子陛下と、そんな陛下とメチャクチャ意気投合してとんでも珍兵器から洒落にならないレベルの実戦兵器まで、適当な閃きと思いつきを確かな知識と技術で実現していく大迷惑熊博士なわけで。しかも元を辿ればあの人らに異世界チートという名の余計な翼を授けてしまったのは他ならぬこの俺だし、まさに因果応報って奴なんだぜ全く。

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