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第223話 長女・長男は損って風潮だけど

面白いものが手に入ったので遊びに来ませんか、とオークウッド博士から連絡があったので、なんだろうと思って行ってみたら、王立学院初等部の制服を着たあからさまに双子っぽい美少女姉妹が檻の中に座っていた話する??


「初めまして、私はフォヴィア・ベイ。ベイ男爵家が長女にございます」


「初めまして、私はフィリア・ベイ。ベイ男爵家が次女にございます」


「どうですホークくん、なんとも面白いでしょう?」


「博士、事案ですぞ??」


「あー、誤解なきように言っておきますが、我輩は彼女らを助けるべくここに連れてきたのですぞ?」


「その言い分が既に犯罪者の供述のそれなんですがそれは……いやまあ、ここまで近付けばどんな鈍感でも判りますけどね?」


ステレオ音声でフィリアと名乗った誰からも愛されそうな可愛らしい顔立ちをした優しそうな妹と、フォヴィアと名乗った地味な顔立ちと言いつつ洒落っ気がない上にボサボサの髪型と制服の着こなしが野暮ったいだけで、磨けば光るんだろうな露骨に、みたいな可愛げのない姉がひとつの長椅子に並んで座る檻に近付いた瞬間、バチバチと俺の目の前で何かが弾けて常人には見えない呪いの火花が散る。


有害な魔法やデバフを自動で弾いてくれるタイプの自動迎撃魔法が反応したってことはつまり、このふたりに近付くと……いや、姉のフォヴィアの方に近付くと、自動的に近付いた人間に妙な呪いが悪さをするわけか。


「さっすがホークくん! これまた随分と厄介な呪いをかけられたものですな!」


「やはり呪いなのですか?」


「やはり呪いなのですね?」


双子の美少女姉妹は見事にハモりながら互いに手を取り合って頬を寄せ合って、檻の前に立つ俺たちを見上げ……見下ろし? ている。


「ここへ来て正解でしたわね、お姉様」


「ええ、ここへ来て正解だったようね、フィリア」


お、ちょっとユニゾンがずれたな。一卵性なのか容姿はソックリなのだが姉の方がだいぶ擦れてしまっている感じの双子の姉妹が語るところによると、誰もが大した理由もなく不自然にフォヴィアを嫌い、その反動なのかいつも彼女の隣にいるフィリアに対し、謎に好意的になるのだという。


「うっわ、こいつはひでえや! 今すぐここから出ていきたくてしょうがねえですぜ!」


「そんなに?」


「ええ! なんでしょう、その子の顔を見てっと無性にイライラしてくるというか、腹が立ってくるというか」


学院内には部外者は立ち入れないのだが、外部協力者という名目で、試しに学院の外にあるカフェで時間を潰していてもらったバージルを転移魔法で呼び寄せると、途端に姉のフォヴィアの方を憎々しげに睨み付ける。筋金入りの女好きのバージルがこんな反応するとかよっぽどやぞ。


「あー気持ち悪ィ! 俺の心ん中から無理矢理この娘に対する嫌悪感を引きずり出されて増幅されてる感じがして、腹立ちやすねこれ。たぶん、この生理的嫌悪感もこの娘への苛立ちを強めてるんじゃねえですかい?」


「ごめんなさい、太陽のおじ様」


「ごめんなさい、満月のおじ様」


「おい!!」


初対面の美少女ふたりにハゲ呼ばわりされてズッコケてしまったバージルの反応を見るに、どうやら姉の方にかかっているのは『何もしていないのに嫌われる』系の呪いのようだ。


「ええ、恐らくその通りですわ」


「ええ、恐らくその通りですの」


フィリアとフォヴィア、双子の美少女姉妹の話によると、周囲の人間が急におかしくなり始めたのは、王立学院初等部に入学してからだという。


それまでふたりは仲のよい双子の美人姉妹として有名だった。だが、いつからか周囲の人間が、露骨に妹のフィリアをチヤホヤ持て囃し始め、相対的に姉のフォヴィアは愛想のない、生意気な、不細工な出来損ないとして蔑まれ、嫌うようになったのだとか。


ふたりは全く何もしていないのに、周囲のクラスメイトや教師たち、果ては久しぶりに帰省して出会った両親、使用人たちまでもが、フィリアは美しく聡明な娘だと褒めそやし、フォヴィアは愛想も可愛げもない、憎たらしいガキだと嫌悪感を向けるようになって、さすがに何かがおかしいと気付くも、ふたりの訴えは不自然なまでに無視された。


フィリアはあんなにも出来損ないの、生きているだけで恥さらしな姉を思いやる優しい娘だとチヤホヤチヤホヤ絶賛され、逆にフォヴィアの方は、美しく誰からも好かれる妹に嫉妬してありもしない被害妄想を吹聴する頭のおかしな嫌味で意地悪な姉として、いじめの、いや、両親による差別的な虐待の的にされてしまったのだそうだ。


しまいには姉のフォヴィアの婚約者である伯爵家の倅さえもが、『貴様のような思いやりの欠片もない不細工娘との婚約なぞ父上に頼んで破棄してくれるわ!!』などと言い出したらしく、当然フォヴィア大嫌い同盟のメンバーである彼女らの父・ベイ男爵もそれに賛同し、このままでは程なくしてフィリアと婚約のし直しになるだろうとのことで。


「誰かに恨みを買った覚えは? そんな呪いをかけられて当然の、酷い仕打ちを誰かにしたとか」


「……いえ、いいえ。女神様に誓って、決してそのようなことは」


「……判りませんわ。もしかしたらわたくしたちが自覚していないだけで、知らず知らず誰かを傷付けてしまったのやも」


「そうだとしても。もしそうであるならば、何故お姉様だけなのでしょう? わたくしたちはいつでも一緒、ずーっと一緒でしたのに」


念のため嘘発見魔法を使ってみるが、どうやら本当に心当たりはないらしい。自覚がないぐらい性根が腐っているだとか、自分たちがしでかしたことを覚えてないだけ、という可能性もあるが、とりあえず妹のフィリアの方が実は黒幕でしたーみたいなことはなさそうで何よりである。彼女が心の底から姉を心配し、周囲の姉への仕打ちに心を痛めているのは確かなようだ。


「そりゃまあ、あきらかにおかしいですよね」


「ええ。恐らくは呪いの効果で誰かがそうなるように仕向けたのでしょうね」


「実は妹のフィリアがそう仕組んだってえ可能性はねえんですかい? 周りの愛情を独り占めしたかったとか、本当はそのなんたらって伯爵家の坊主のことが好きで、姉から婚約者を奪い取ってやりたかったとか」


「酷いことを仰いますのね、キンカンのおじ様」


「酷いことを仰られるのには慣れておりますわ、ヤカンのおじ様」


「酷いこと仰られてんの、俺の方じゃね??」


話が進まなそうなのでバージルにも呪い除けの魔法をかけてあげると、バツが悪そうな顔になってハゲ頭をポリポリと掻いた。ふむ、バージル自身にかけようとする分には神剣の加護があるから呪いの類いは通用しないようだが、他人に既にかかっている呪いの影響は少なからず受けてしまうのか。なるほど、条件付けってのは大事なんだな。


「すまねえな嬢ちゃんたち。なるほど、これが嬢ちゃんにかけられた呪いってえわけかい」


「いいんですのよ、夏は暑そうなおじ様」


「いいんですわよ、冬は寒そうなおじ様」


「……人様から嫌われんのは、ほんとに呪いのせいだけなんで?」


日を追うごとにエスカレートしていくフォリア崇拝とフォヴィアいじめは、遂にふたりが一緒にいると周りの人間がやってきてフォヴィアに暴言を吐いて暴力を振るい、無理矢理フィリアをフォヴィアの傍から引き剥がそうとするまでになった。だが助けを求められる相手もいない。相談できる相手もいない。


困り果ててしまったふたりは途方に暮れ、初等部の校舎から逃げ出した。だがそのまま日暮れまで逃げ続けるわけにもいかない。いっそ大賢者と名高い学院長先生ならと希望を抱くも、生憎と学院長は仕事で国外出張中で、ふたり揃って茂みに隠れて項垂れているところに、たまたま学食へ向かう途中の博士がその近くを通りかかったのだそうだ。


「博士もたまにはいいことするじゃないですか」


「ややッ!? 心外ですぞホークくんッ! 我輩、日夜人類の進歩と発展と繁栄のためによいこと尽くしの研究に明け暮れておりますというのにッ!」


「はは、世界中の誰より、よおーっく存じてますよ」


「ならばよいのですが!!」


芝居がかってヨヨヨと泣き真似を始めた博士の、ズボンの尻尾穴からちょこんと飛び出たまーるい尻尾を白衣の上からポンポンしつつ、話を本題に戻す。


「つまりは、誰がなんのためにこんな呪いをかけたか、というわけですね」


「ええ! それが解らなければ、解呪したところでまたすぐに呪いをかけ直されて終わるだけでしょうからねェ! 我輩お手製の呪いを遮断する魔道具を貸与してもよいのですが、それは根本的な解決にはならないでしょう?」


「でしょうね。呪いが駄目となったら最悪、直接害しに来る可能性もありますし」


「まあ! 恐ろしいですわねお姉様」


「ええ、恐ろしいですわねフィリア」


「ところで、なんだってこいつらを檻の中なんぞに閉じ込めてやがるんで?」


「ああ、それは我輩がふたりを害することのないように、ですな。初対面の相手にこれほどまでの嫌悪感や 憎悪を理由もなく抱く呪い。ううむなんとも危険ながら興味深きものです! ああ実験してみたい! この呪いを如何に活用すべきか検証し、実証し、解明してみたい!」


ワキワキと両手を妖しく動かしながら、ギラギラした眼差しを双子の美少女に向けるオークウッド博士。ちょっと嘘でしょ? かなり強烈な呪いだってのに、この人精神防御とかの事前準備もなしに、この呪いを真っ向から浴びてそれでも感情的にならずに論理的かつ冷静にこの姉妹を観察・保護して事情を聴取し、ここまで分析して俺を呼んだの??


「凄いですわお姉様」


「ええ、凄いわフィリア」


筋金入りの研究バカもここまで突き抜ければ一周周って逆に尊敬しちゃうね。


「それで、どうします? 自慢じゃありませんが我輩、技術的なことならばいくらでも解決できるのですが、こと感情論に基づく精神的な問題に至るとてんでサッパリでして!」


「うーん、一番手っ取り早いのは呪い返しかな?」


今から犯人捜しを始めるのも面倒だし、物が呪いだって判っているなら呪い返して術者本人の頭をさっさとパーンさせてしまった方が楽だからねえ。俺は女嫌いだけど、目の前でまだ子供でしかないフォヴィア嬢が口汚く罵られて暴力を振るわれるところなんか、見たいとはこれっぽっちも思わないし。


「ふたりとも、思わぬ死人が出ちゃう可能性があるけど、いい?」


「構わなくってよ。お姉様をこんな目に遭わせた犯人なんて、万死に値しますもの」


「構わなくってよ。フィリアをこんなにも悲しませた犯人なんて、万死に値しますもの」


そんじゃ、サクサクーっと呪い返しの魔法術式を組み立てて、ちょこっと威力を3倍程度に増幅して、術者本人へ根こそぎお返ししよう。


「おお! なんだか彼女に対する理由なきヘイトが消えましたぞ!」


「やりましたわねお姉様! どうもありがとうございます、チャーミングな子豚さん!」


「やりましたわよフィリア! どうもありがとうございます、キュートな子豚さん!」


声を揃え、手を取り合って抱き合い喜ぶ双子の美少女姉妹。妹の頭の方がパーンしなくてよかったね。正直この手の誰からも愛されない姉と誰からも愛される妹モノの定番だと、妹が全ての黒幕ってオチが一番あるあるなパターンだったから、正直今回の一件に関してはちょっと意外だった。


でもまあ、手を取り合って喜ぶふたりの姿を見ていると、なんだかいいことしたなーって気分になるのでよしとするか。いきなりわけもわからず周囲の人間から嫌われるだなんて、怖いし悲しいにもほどがあるもんな。

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