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第222話 用もないのに呼び出しボタンを押すな

四角い顔の輪郭の下半分を覆う赤茶色のフサフサ髭に、異様に濃いモミアゲとは裏腹にツルツルリンなハゲ頭の天辺で結わえられた一本の三つ編み。なんだかエスニックな顔立ちに大きな団子っ鼻。筋肉のムキムキの裸体の上からオリエンタルなデザインの上着を一枚羽織り、ドヤ顔で腕組みしているランプの魔人。凄い、まるで絵本か何かから抜け出してきたかのような、典型的なランプの魔人だ。ちなみに下半身は先細りしてランプの口に繋がっている。有線接続式かな?


「あー、願いは三つまで。願いを増やせ不可。死者蘇生可。恋愛関係可。不老不死可。その他何か質問があれば要相談。で?」


「で、と言われましても」


俺がキョトンとした顔でそう言うと、魔人は途端に腕組みを解いて両手をだらーっとだらしなく下げ、猫背になった。凄い、一気に威厳もへったくれもなくなったぞ。ちなみに肌の色は濃い目の紫。セーフ! 青かったら即座にお帰り願うところだった。危ない危ない。声も聴いたことのないおっさんの声。よかったよかった、今日で打ち切り、いきなり最終回ってことにはならずに済みそうですよ女神様。


「あのな坊主、俺様は忙しいんだ。どうせわざわざ命懸けでランプを手に入れてまで呼び出したからには、もう願い事ぐらいとっくに決めてあんだろ?」


「忙しいって、ランプの中に忙しいことなんてある??」


「出たよ、職業差別。俺様はな、ダラダラしたりゴロゴロするのに忙しいの。こうやって外に出てくるなんてまっぴらごめんなのに、どいつもこいつも私利私欲にまみれて血眼になってこの俺様を探し当てやがる。一体全体なんだって俺様がランプの魔神なんかに志願したと思う? 呼ばれて出てこない限り、何百年でも何千年でも何万年でも働かずに済むからだよ!」


その気持ち、ちょっと解る……と言いたいところだけど、さすがにそれは長すぎない? 拷問じゃない? 何万年も続くニート生活とか、俺耐えられる自信ないぞ。


「なんでもいいからさっさと願いを三つ言ってくれよ。俺様は早くランプの中に戻りたいんだ。いつだってお外に出るのは怖い。世間の目も風も冷たく厳しい残酷な世界で、安住の地はこの愛するランプの中だけ! 解ったらさっさと願い事を言え、三つな」


「なんだかなあ。普通、この手のランプの魔人って、最後に自由にしてあげるのが定番なんじゃないの?」


ジト目になりながら俺がそう呟くと、ランプの魔人はいきなり野太い悲鳴を上げながら両手で赤茶色の髭がモサモサ生えた、濃い目の紫色した頬の肉を押し上げた。


「自由だって!? やめてくれ冗談じゃない! 勘弁してくれよ坊主! 俺様はな、ランプの魔神なんて誰もやりたがらない可哀想な職業に就いてるせいで泣く泣くこうやって働くしかない幸せを享受してるんだ! 自由になんてされちまったら働けるのに働かない奴だって思われちまうだろ!? 畜生どいつもこいつも俺のことをバカにしやがって! 言っておくがな、俺は引きこもりじゃないぞ! ただランプの中にいるしかない可哀想なランプの魔神だからやむなくそうせざるを得なくなっているだけなんだからな!」


「あー、そういう」


画面の中のシェリーに目を落とすと、彼は肩を竦ませた。人類繁栄のために働くことが存在意義の彼にとってはどうにも相容れない存在のようだ。


「じゃあ、俺以外の奴の願いをもう叶えるなとか、二度とランプから出てくるなってお願いしたらどうなるの?」


「それだ! お前は天才か坊主! いいぞその願い! 最高だ! なんだってそんな簡単なことに気付かなかったんだ俺様は! 人間なんて欲深い生き物、ちょっと不安を煽りまくってやれば簡単にそんな願いを引き出せただろうに! 俺様の大馬鹿野郎!」


ムンクの叫び状態だったのに、一転してハイテンションになりながら満面の笑みを浮かべ俺を抱き締め頬ずりしチュッチュチュッチュとオーバーな喜び方をするランプの魔人。髭がチクチクするんでやめてもらっていいですかね、と言おうとしたが、それが願いにカウントされたら損なので無言でぐっと彼の頬を両手で押しやる。


「んじゃ、最後の願いはそれで頼むわ。イチイチ呼び出されたけどこういう事情があってあんたの願いはきけませーんって説明すんの面倒だから、二度と出てくんなの方で頼む」


「それはいいけど、もしランプが壊れたりしたらどうなるの?」


「そん時ゃどっか別のランプに引っ越すだけだから安心しな。俺様はランプの魔神って概念存在だからな。この世にランプがある限り不滅よ。俺様のことはどうでもいいから、お前さんの願いをさっさとふたつ叶えさせろ。チンタラモタモタしてんじゃねえ、ほら早く早く早く言えー!」


「うーん、願いなんて言われてもなあ。たとえばイグニス陛下に年相応の落ちつきを、とか?」


「それは無理。俺様にもできることとできないことがあるの」


露骨に肩を落としてしまったランプの魔人。そうか、死者蘇生よりも無理なのか……。でもなあ、今更ランプの魔人に願うことなんかあるか? チート絡みなら女神に電話すれば済むし、ゴルド商会の財力があれば大概のものは買えるし、別にゴルド王国を作りたいとか誰かと結婚したいなんて願望もないし、恋愛は別に興味ないし、強いて言うなら死者蘇生だけど、今のところ生き返らせたい誰かがいるわけでもないしなあ。


ちなみに不老不死の吸血鬼や人間そっくりのホムンクルスないし人型ゴーレムや古代人の遺したアンドロイドなんかが地味にゴロゴロいるこの世界には、死者蘇生の魔法はない。生物の死体をゾンビを筆頭とするリビングデッド化させる魔法はあるんだけどね。研究すること自体が禁忌とされている国もあれば、国を挙げて研究しているところもあるらしいが、伝説に残っている聖女の奇跡でもない限りは死んだ命を復活させることはできない、というのが世間一般での認識だ。


つまりは聖女の奇跡という前例がある。前例があるということは、死者蘇生の魔法を編み出すことは実際可能であろう点が個々人のイメージ力によって如何様にも効果を発揮するこの世界の魔法の凄さ。よって、わざわざ死者蘇生の魔法とか秘薬をねだる必要もなし。生き返らせたい相手も今は特にいないし。


「おい坊主、ひょっとしてお前さん、まさか用もないのに俺様を呼び出したんじゃなかろうな??」


「えっと、そんなことないデスヨー」


「なんてこった! 最悪だ! オーマイゴッデス! お前さん馬鹿だろ! 用もないのに呼ぶんじゃねえよこのクソガキ! いやいや駄目だ落ち着け俺! 折角もう二度と呼ばれても飛び出てこなくてよくなるかもしれない絶好のチャンスなんだ! こいつの機嫌を損ねちまったらおしまいだぞ落ち着け俺! 今までどんな悪党だろうがクソ野郎だろうがいつだってサイコーの営業スマイルで乗りきってきたじゃないか! 頑張れ俺、やれるぞ俺!」


ランプの魔人ってのはどいつもこいつもハイテンションでオーバーアクションでオーバーリアクションじゃなきゃいけない決まりでもあるのだろうか。


「なあ、とびっきりキュートで賢そうな子豚ちゃん、なんかこう、あるだろ? 不老不死になりたいとか都合のいいハーレム作りたいとか大金持ちになりたいとかあの娘のハートをゲッチューしたいとかさ! なんでもいいんだ! なんなら饅頭がどっさり欲しい、ここらで一杯お茶が欲しいとかでもいいんだよ! 頼むよお願いだからさっさと願いを言ってくれえ!」


お前はダウナー系なのかアッパー系なのかどっちなんだとツッコミを入れたくなるぐらい大騒ぎするランプの魔人。あんまり大騒ぎされると、また心配したローリエ辺りが氷の機関銃両手に乗り込んできそうなので、さっさと考えねば。


「おっと! ちょっと待った坊主! 念のため忠告しておくが、今すぐこのランプの中に入って二度と出てくるなって最高の願いを一番目や二番目に言うのはなしだぜ! 俺様は三つの願いを叶えるランプの魔神! 逆説的に三つ叶えないと論理矛盾を起こして存在崩壊しちまうかもしれないからな!」


「ふーん、ランプの魔人ってのも大変なんですねえ。それじゃあえーと、一つめの願い。この世から転売屋を消してください。今転売屋やってる奴だけじゃなくて、これから先転売屋になろうとした奴が、なった瞬間消える感じでこう、うまい具合にひとつ」


「OK! お安い御用だ! ほーら消えた! はい今根こそぎ消えたぞ転売ヤー!」


おお、すげえな。指パッチンひとつでこうも簡単にいくとは恐るべし。これでDoHを使って不正に荒稼ぎしてやがった不届き者どもが全員根こそぎ消滅したと。はっはっは、ざまーみろだ!


「二つめの願いは……ちょっと耳貸してくれる?」


俺の前世の両親がもしまだ息子の死を引きずっているようならその傷心を少しでも和らげて、ふたりが立ち直れるようにしてもらいたいんだけど、できる? と耳打ちすると、ランプの魔神は少し悩むような素振りを見せた末に、OK! と無言で親指を立ててくれた。正直ダメ元だったのに、まさかいけるとは。やるじゃないかランプの魔人。というか、世界線を超えて願いを叶えるよりも、イグニス陛下を静かにさせる方が難しいとか、ちょっとバランス調整がガバすぎるのでは?


「それじゃあ、三つめのお願い。君が今の仕事を辞めたいと思うまで、ランプの中から出てこないで」


満面の笑みを浮かべ瞳をキラキラさせていた魔人の顔が、ビシリと固まる。


「……はー! そう来たか。やだねやだね恵まれた人間って奴は! この俺様が友達がだーーーれもいないせいで強がって周りを拒絶してる、独りぼっちの寂しい引きこもり野郎に見えるのかい! 言っとくが俺は孤独じゃないの孤高なの! ひとりで過ごすのが好きだからひとりでいるんだよ勘違いすんな馬ーーー鹿!」


「そうは言わないけどさ。でも、ひょっとしたら百年経って、千年経って、一万年経って。一億年、あるいは一兆年ぐらい経ったら、ちょっとぐらいは気分転換に外に出たくなる可能性があるかもしれないじゃん?」


一兆年という言葉に、プンスコ怒りながらランプの中に戻ろうとしていたランプの魔人が一瞬動きを止める。俺もさ、昔はひとりでいいと思ってたよ。でも今は別に、ひとりでいるのも誰かと一緒にいるのも、同じぐらいそれぞれに違ったよさがあるんだって思えるようになったから。ひょっとしたら君もいつか、なんらかのきっかけで心変わりする日が来るかもしれないし、来ないかもしれないじゃん。


「いざって時のために、選択肢の数は多い方がいい。でしょ?」


ランプの魔人はちょっと不貞腐れたような、なんとも言えないアヒル口のしゃくれた表情を浮かべると、そのまま無言でランプの中に帰っていった。試しにフタを開けてみるが、やっぱり見た目は空っぽだ。俺はフタをして、重力魔法を使ってフワフワと宙に浮かび上がると、ランプを自室の本棚の一番上に飾った。


重力操作の魔法は俺のお気に入りの魔法のひとつだ。無重力空間でフワフワプカプカ浮きながら、空中で体を捻るのはとても楽しい。壁を歩いたり、天井を歩いたり、まるで空中を泳ぎ回るみたいに、自由に飛び回れるから好きだ。やりすぎるとたぶんカルシウムとかが大変なことになるだろうからあまり多用はできないけれど、こうやって高所に手を届かせるために使ったりもできるので、覚えてよかったと思う。


「坊ちゃま、メッセージが一件届いております」


「メッセージ??」


スマホを手に取ると、SD老執事シェリーが自分の体の半分ぐらいありそうな手紙を抱えてニコニコしていた。タップして見ると、わざわざ封筒を開封するアニメーション付きで中から手紙が出てくる。


『偽善者乙』


俺は返信ボタンをタップした。


『今日の我が家の晩ご飯、超一流のシェフが腕によりをかけて作るカツカレー大盛りなんすよ。後で写真送ってあげますね^^』


ブロックされるかなーと思ったらされなかったので、苦笑しながらメッセージアプリを閉じる。既読スルーとか、素直じゃない魔人だこと。

復活ド林檎

道具屋で1個200Gで購入可能。死んだ仲間1人をHP全快で復活させる魔法の林檎。

攻略本によると、相手の口に丸ごと詰め込むことで効果を発揮するらしい。


ハッピーシャワー

マリーが最初から覚えている光属性魔法。消費MP7。

仲間1人のHPを全快+全ての状態異常を治療+死んでいる場合はHP全快で復活させる。

ストーリーが進むと消費MP14で効果範囲が味方全体になるスーパーハッピーシャワーを覚える。


フェニックスダイブ

マリーとハイビスカスの連携魔法。連携元はハッピーシャワー+バーニングホイール。

敵全体に炎属性攻撃+光属性攻撃+スーパーハッピーシャワーの効果。


Q.200G? 銅貨2枚じゃないの?

A.苦情は女神にヨロシク

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