表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

212/467

幕間 ゴルド商会って普段何してるの?

ゴルド商会、ブランストン王国本社の第一会議室。グルリと王都を囲む城壁の正門から王宮前広場へとまっすぐ伸びた、この国一番の繁華街である大通りに居並ぶ店舗の中でも、一際目立つ白亜の建築物、その一室である。


ここ数年の間に目覚ましい発展を遂げ、敷地を徐々に徐々に広げながら増改築を繰り返した結果、いつの間にかちょっとした大学病院程度の規模を手に入れてしまったためか、『ゴルド城』などと陰口を叩かれる建物の中枢部に、ゴルド商会の幹部が勢揃いしていた。


「ゴルドマートの強盗撃退率は前月と同様に100%を維持。各国警察署、並びに各国騎士団の方から警備部へと感謝状や表彰状の類いが届いております」


「結構。撃退の功労者への金一封の贈呈を徹底するように。金額を全店に公表し、ピンハネ等が発生した場合は即時警備部を差し向けるように」


「各種店舗の方へ日中も一部仕入れ食品を販売してほしいとの要望が多数届いておりますが」


「却下だ。一部仕入れ食品は仕入れ元への営業妨害にならぬよう夜八時から朝八時までの限定販売のみを執り行うと契約を結んでいる。本部からの指示を無視し独断で販売を行った契約違反者は即刻警備部に粛清させろ」


「共同研究提携中の大学院から届いた例の新型火属性魔道具、通称『デンシレンジ』の試運転は三店舗全てで成功。お客様からは大層好評であるとのことで、完成次第逐次他店舗への納入を推し進めていく方針です」


「さっすがホークちゃんの新発明!! パパドカーンと追加予算を増資しちゃうからね!!」


「現在デンシレンジ製造工場の建造を急ピッチで進めております。同時に製造員の大量募集を冒険者ギルド、商人ギルド経由で開始しました」


「社員教育を徹底させるように。産業スパイ、企業スパイ、妨害工作員、他一部不良職員の剪定は何よりも最優先だ」


「先程奥様から今夜は何が食べたい?とのお電話がありましたが」


「折り返し冷やし中華と焼き餃子にビールと伝えろ」


「賞味期限切れの一部食品を女神教に寄贈し炊き出し用に流用してもらう許可が裁判所より下りましたので明日より運輸部の配達員部隊を稼働させますがよろしいですね?」


「無論だ!! ククク!! これで廃棄食品を処分する手間が省け、なおかつ女神教や貧乏人共に恩を売れる!! 無責任な外野共の悪評など知ったことか!! 口だけしか出さぬドケチ共より、実際に物品を差し出す者が常に人心を買収出来ることを思い知らせてやる!! 明朝……ええい空いている時間はいつだ!」


「午前十時頃がよろしいかと」


「では午前十時頃に全ての配達員を本社に集めろ!! 私が直々に挨拶を行う!!」


「商品開発部の方から夏の新商品の激辛スパイシーチキンと激辛スパイシーポテトの最終試作品が上がってきておりますが、社長もお召し上がりになられますか?」


「無論だ! この私が自社製品の味見をせずしてなんとする!! お前達も食いたければ食え!! 食いたくなければ堂々と残せ!!!」


揺りカゴから墓石まで、幅広く手掛けるゴルドグループの総帥たるワンマン社長、暴君イーグル・ゴルドの指示の下、統括部、販売部、製造部、営業部、人事部、警備部、運輸部、研究部、法務部、商品開発部、海外事業部などの部長達が活発に報告を上げていく。


しばらく前から完全ローテーション制でイーグルの護衛・屋敷の警護・ホークの護衛・休日に就くようになったホークの護衛達の中から、本日イーグルの護衛の担当になったクレソンもドッカと壁際で胡坐を掻いてふんぞり返っているが、彼がどこ吹く風なのはいつものことなので誰も気にする様子はない。


かつてゴルド商会における会議といえば、イーグルが一方的に怒鳴り散らすばかりで、幹部とは名ばかりのイーグルのヨイショ部隊はただ黙って俯きワンマン傲慢社長の怒りを買わぬよう息を潜めているか、過剰なおべっかとおべんちゃらを並べ立てるだけのイエスマンしかいなかった。


だがホークが経営方針に口出しをするようになり、息子には砂糖を蜂蜜で煮詰めてチョコレートシロップとイチゴジャムと練乳をチャンポンした原液と一緒にどっぷりかけたアイスクリームよりも甘いイーグルがホークの言うことを9割そのまま通すようになってからは、風向きが変わり。


「ゲッホゲホ!! ゲーッホ!? か、辛!?」


ムシャムシャと骨なしチキンとフライドポテトを頬張り、よく噛んで飲み込んだ途端にむせ始めるイーグルに、会議室内にちょっと和やかなムードが流れる。


「社長、お水でございます」


「うむ!! 冗談のような辛さだが、悪戯に辛さのみを追求し、美味さを蔑ろにした悪ふざけのような食品ではないことは認めよう!! よくやったと商品開発部の人間に伝えておけ!!」


「ありがたきお言葉でございます」


最初のうちこそ『ただでさえワンマン経営なのにバカ息子までしゃしゃり出るようになってしまってはもうゴルド商会は終わりだ』と嘆き逃げ出し退職する者達も大勢いたが、彼ら親子はそんな悪評などこれっぽっちも歯牙にもかけずにどんどん改革を推し進めていった。


正規雇用主体の雇用制度に昇給やボーナス制度の導入、新卒・中途採用者の大量雇用、保険や労災・有給制度などを導入し、夏休みは日時をずらしつつひとり五日間取らせるなど福利厚生の充実などをはじめとする経営のホワイト化、世界初の三交代制による24時間営業のコンビニエンスストア、ゴルドマートの開店、極め付けのDoHの登場。


今や王国内に散らばる各種支店のみならず、各国海外支部の増加に伴う大幅な人員雇用と地産地消をモットーとした地元企業とのWINーWINな業務提携、外注に頼らない独自の輸送基盤の確立にクレーマーや強盗などは問答無用でサーチ&デストロイの精神、工場建設他エトセトラ、エトセトラ。


既に正社員だけでも五百を超し、アルバイト感覚の冒険者やパートタイマーの主婦などの非正規雇用を含めれば千を、商品や食品の仕入れ元・取引先などを考慮すれば、既に三千以上の人間がゴルドグループ内外で生計を立てており、『ゴルド商会で正社員になれれば一生安泰』などと言われるぐらいには市井の生活・経済基盤にガッツリ根深く食い込んでいるのである。


例えばパン。国内にあるいくつかのパン屋と契約を結んで大量に仕入れているパンを各支店に配送して売っているわけだが、仮にパン屋が毎朝一種類のパンを50個焼いて自分の店で売ったとして、50個全部を必ずしも売り切れるわけではない。売れ残った分は日持ちがしない分、丸々自分たちで食べるか捨てるかしなければならなくなる。だが50個焼いた分をそのままゴルドマートに一括で卸す契約を結べば、定休日以外は毎日パン50個分の利益が約束されるわけで。二種類なら100個分の利益だ。


また取り扱う食品をパンや容器入りの調理済み食品などの『買ってすぐに食べられ、そのままゴミを捨てるだけで片付けが済むもの』に限定することで青果や鮮魚、精肉などの生鮮食品店への営業妨害を回避し、同時にそれらの店舗から仕入れ契約を結ぶことで先のパンと同様に客足や天候に左右されない収入の均一化というメリットで釣ると同時にゴルド商会へのヘイトを下げる。『安定した収入』というのは、いつだって人の心を掴んで離さない。


「うーむ、確かにコレは辛すぎて、我々のような老人には辛いですな」


「そうですか? 私にはまだ辛味が物足りないように思えますが」


「貴様のバカ舌と一緒にするな! おいこっちにも水をくれ!!」


「わたくしは辛いものは苦手ですので遠慮しておきます」


「すみません、手づかみはちょっと……フォークか何かありません?」


男も女も、老いも若きも関係ない。この場にいるのはその能力や人間性をイーグルに認められた者達。つまりは、『使える奴かどうか』のただ一点のみを基準に有能さを認められ各部門の部長の地位を与えられた者達である。自然、モチベーションも高ければ、社長への恩義も深い。


モラハラ、パワハラ、セクハラなどが報告されればすぐに警備部()が出動し内部監査を行い、それが事実だと認められれば即日懲戒解雇を徹底しているため風通しもよいため、社内の雰囲気は結構良好だ。


反面、たとえばホークやイーグルに使えそうにない奴の烙印を押され入社試験で落とされたりした貴族の次男や三男、ゴロツキ紛いの冒険者崩れ、やる気のないバイトや勘違いパートなどをバッサリゴッソリ切り捨てているため、ゴルド商会アンチも多いのだが、そんな連中はイチイチ構っていられるほど彼らは暇ではないのである。


ゴルド商会は本日もお客様のため、社員のため、金のため、自分達のために、商売繁盛、鋭意営業中なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「萌え豚転生 ~悪徳商人だけど勇者を差し置いて異世界無双してみた~」
書籍版第1巻好評発売中!
★書籍版には桧野ひなこ先生による美麗な多数の書き下ろしイラストの他、限定書き下ろしエピソード『女嫌い、風邪を引く』を掲載しております!
転生前年齢の上がったホークのもうひとつの女嫌いの物語を是非お楽しみください!★

書影
書籍版の公式ページはこちら


ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ