第193話 新番組『コぶたブ!』はーじまるーよー
よい子のみんな! いつも俺達の活躍を応援してくれてありがとう! 突然だけどホーク・ゴルドの大冒険は今日で最終回なんだ!! 来週からはみんな大好き美少女動物園系ゆるふわ新番組、『コぶたブ!』が始まるから引き続き応援よろしくな!!
嘘です。いや、満更嘘ではないです。
「すみません、もう一度仰って頂いても?」
「ですから、作りましたの、部活を。よろしければピカタ様もお入りになりませんこと?」
「はっはっは、拒否権はないぞう!」
「クラスの垣根を越えて、皆で楽しく過ごせるようになると思うと心が躍るね」
季節は夏。学生たちが37度越えの猛暑日が続く中でも楽しい楽しい夏休みを満喫している最中、それでも登校日というものがちょいちょい挟まる。ちょっと宇宙魔獣を撃退して地球滅亡のピンチを救ったり、伝説の聖剣を修復してヴァスコーダガマ王国滅亡の危機を救ったり、バージルが馬に蹴られるところを目撃してしまったりして不登校児ばりに学校に来ない奴と化していた俺は、臨海学校ぶりに学院の方へ顔を出していた。
「なんです? お作りになられた?? 部活を??」
「そう! わたくしたち、考えましたの! 二度とは返らない貴重な青春の1ページをよりよきものにするために、皆で部活動をするというのはアリ寄りのアリなのではありませんか! と!!」
「率直に言ってしまうと、政治色のない気晴らしの場を作りたくてね」
「ピクルス様もローザも、将来に向けて色々あるだろ? だけど、ずーっと王子様婚約者様の仮面をかぶってばかりいると息が詰まっちゃうからって、気心の知れた少人数だけでワイワイやれる小さなサロンみたいなものが欲しいらしくてさ」
俺が逃げ出せないようにとガッチリ両側からヴァン君とピクルス様がそれぞれに俺の腕をホールドし、ローザ様が大層イイ笑顔で白羽根の扇で口元を扇いでいる。畜生、ヴァン君もピクルス様も十六歳の青年らしいスラリと背が高く細身だけどしっかり筋肉の付いたのイケメンに成長しやがって!!
「でもさー、やっぱこのふたりが一緒になって小さな集まりなんか作っちゃったら露骨になんか将来の派閥っていうか、第三王子勢力作ってるようにしか見えないっていうか? だからどこの部活もその隠れ蓑にされるのを嫌がってやんわり拒否られちゃったみたいなんだよねー!」
「だったら新しく部を作ればいいんじゃないかって思ったんですよー! 幸い部員が五人いて顧問の先生がいれば部活動の新規立ち上げは可能みたいですし!」
ウケルー! と空いている椅子に座ってゴルドマートの新商品、夏色塩ブルーサイダーを飲みながらケラケラ笑っているのはお久しぶりのメルティさんだ。『一口ちょうだーい!』と仲よく回し飲みをしているメアリ・イースのことはみんな覚えてるかな?
ほら、かなり前に女神教から送り込まれてきた、ストロベリーブロンドの女スパイ。かなりアレな感じにひん曲がっていた記憶を抹消して女神教の教会に放り込んでからしばらくして復学し、その後はそのまま特に何事もなく高等部まで進学したそうだ。
凄まじく歪んだ人格と女神教の暗部に傾倒していた記憶をリセットした影響か、以前みたいなわざとらしいぶりっ子演技丸出しのあざとさが消え、年頃の普通の女の子、って感じになったお陰でクラス内に普通に溶け込んでいるらしく、こうしてヴァン君たちとも仲よくやっているそうで何よりである。
「ピクルス様、ローザ様、ヴァン君、メルティさん、メアリさんで丁度五人いるじゃないですか。よかったですね」
「一応ゴリウス先輩も入ってくれたぞ! 部活作りにあたって色々訪ねているうちに、面白そうだからと入ってくれることになったんだ!」
「あたしも入ってるわよ!」
満面の爽やかスマイルを浮かべるヴァン君の笑顔が眩しいと思ったら、C組の生徒やってるリンドウがガラっと扉を開けてB組の教室に入ってくる。授業を終えた放課後。校庭には運動部の元気な掛け声が響き、どこからか吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。なんだか前世の高校時代を思い出すなー。もう十年以上前のことなのか。なんだろう、ちょっとノスタルジー。
「遅かったねリンドウさん!」
「掃除当番だったのよ。んで? あんたも入るでしょ? ホーク。子豚部に」
「なんて??」
「だから、子豚部よ子豚部! 何? あんたらこいつになんの説明もしてなかったワケ?」
「いや、説明はしてたぞ! ただほら、なんというか」
「サプラーイズ!! という奴ですわ!!」
とっても楽しそーーーに高笑いをするローザ様に、引き攣り笑いを浮かべながら周囲を見回せば、全員がしてやったりとばかりに満面の笑顔で俺を見ている。
「いやー、部活作るって決めたはいいけど、部活の名前を何にするかで迷ってさ!」
「遊興部とか有閑部だとさすがに教師受けが悪そうだしね」
「それに、王子様やローザちゃん目当てで他の生徒たちが押し寄せてこられちゃったら少人数でやる意味がなくなっちゃうでしょ?」
「んでみんなで考えてみたんだけどさ、うちらがこうしてたむろするようになったのってポークっちがきっかけなワケじゃん??」
「あんたがきっかけで出来た人間たちの集まりで、なおかつ入部希望者が引いちゃうようなダッサい名前を考えたら、もうコレしかないじゃない!! って盛り上がっちゃったのよねー!!」
「そんなわけで、子豚部へようこそゴルド様! 歓迎致しますわ!」
「嫌じゃー!! こんなバカップルとラブコメの温床みたいな青春アニメっぽいキラキラ部活になんかいられるか!! 俺は帰宅部で十分なんじゃい!!」
「あっ逃げた!!」
「はっはっは!! 逃さんぞ後輩!!」
「グエー!? 先輩!?」
筋力強化魔法を使ってピクルス様とヴァン君からのダブル拘束から逃れ、ササっと教室のドアを開けて逃げようとした俺は、ドアの向こうにタイミングよく……悪く? 立っていたゴリウス先輩の腹筋に顔面衝突してしまい、そのままガシっと鯖折りをキメられ再度教室の中に連れ込まれてしまう。
ガタイのいい男子高校生達が寄って集って小学生ぐらいの体型のチンチクリン肥満児をイジメて恥ずかしくないんですか!?!?
「まあまあ、落ち着きなよホーク君。何もそこまで頑なに嫌がることはないさ。放課後時間のある時に皆で集まって、ちょっとしたお茶会を開いたり、テーブルゲームをしながら雑談するだけの、お遊びみたいなものだよ」
「ええ。入部は強制ですが、参加までは強要致しませんもの。学校帰りの道草を、学院内でやるだけと思えばよろしいのですわ」
それに、とローザ様が羽扇を閉じて、その矛先を俺の鼻面に付き付ける。
「あなた、いつも忙しなく世界中飛び回っていらっしゃるものだから、滅多に学院に顔を出さないでしょう?」
「たまにでいいからさ、顔出せよ! 俺たち、待ってるから!」
「う……!!」
それを言われてしまうとぐうの音も出ない。我ながら友達甲斐のない、水臭い奴だってことは自覚してるからな。だから、そんな俺に向かってみんなして眩しいキラキラの友情スマイルを浮かべないでほしい。ちょっと罪悪感刺激されて、いたたまれなくなっちゃうから!!
あークソ、主人公めー!! それはズルイだろー!! とヴァン君に向かって恨めしげな視線を向けてみるも、あえなく爽やかな微笑みを向けられ撃沈。前世ではこんな青春イベントに縁のなかった陰キャには劇毒が過ぎるってェ!!
「あはは! ポークっちってばチョー照れてんじゃん! 結構可愛いとこあんねー!」
「ほら! 四の五の言ってないでさっさと入部届けにサインしなさい! ったくあんたって奴は! これがお爺様からのお誘いだったら一も二もなくホイホイ飛び付いてたでしょうに!」
「まあまあ、リンドウちゃんも落ち着いて」
リンドウに入部届けと羽根ペンを突き付けられ、ゴリウス先輩に着席させられ、みんながニコニコ見守ってる中で、泣く泣くサインをさせられるハメになった可哀想な俺。
自分でも頬が熱くなってるのが分かるぐらいには恥ずかしいというより照れ臭すぎて死んでしまいそうなんですけど、なんでみんなは平気な顔でこんな青春出来るの!? ねえ!?
「フフ……ようこそ子豚部へ。歓迎致しますわ。わたくしたちの、可愛い子豚さん?」
ギャフン!!





