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第19話 乙女ゲーム疑惑の増す赤髪少年騎士

「これは警告だ!貴様のような卑しい悪徳商人が、あのおふたりに近付くことはこの俺が許さん!無礼討ちにされたくなければ、金輪際あのおふたりとは関わり合いになるな!」


「だ、そうですが」


「残念だよアル。君の物分かりがここまで悪かったとは」


「な!?ピクルス様!あなたは騙されておられるのです!」


「仕える主を人を見る目のないバカ呼ばわりするとはやるなあ。王子様より自分の方が賢くて見る目があるアピールとかそっちの方が無礼じゃない?」


「な!?貴様!俺だけでなく、ピクルス様をも愚弄するか!許さん!」


「愚弄しているのは君の方では?主の命令を無視して勝手に暴走するような独りよがりな護衛騎士なんて、俺だったら迷惑だから要らないけど」


「貴様!」


「ふたりともストップ!ホーク君、腹が立つのは解るが、お願いだからあまりアルを挑発しないでやってくれ!」


さて、何がどうしてこうなったかというと、単純な話だ。ピクルス様は王子様である。当然、お近付きになりたい貴族連中はわんさかいるだろうし、それを阻む護衛騎士というものが常に最低ふたりは彼の傍には控えている。いくら学院内ではみんな平等を謳っているとはいえ、だからといって王族が怪我をするなり危害を加えられるなりしたら大変だからね。


そんな護衛騎士とは別に、一年A組にはアル・グレイという少年が在籍している。彼はこの国の騎士団長の息子であり、グレイ伯爵家の長男だ。彼はピクルス王子やヴァニティ君とは幼馴染みの友人同士であるらしく、クラスメイトとして、未来の騎士として、陰ながら王子を護衛しているつもりであったらしいのだが、当然そんな彼からしてみれば、俺のような得体の知れないどころか悪名高きゴルド商会のバカ息子が王子様とその婚約者である公爵令嬢様に急接近し、しかも何故かおふたりが俺に対し妙に親切でフレンドリーな様子を見せたら、そりゃ面白くはないだろう。


ただのボンクラ息子ならばともかく、人除けの魔法が刻印された腕時計を装備しているお陰で、クラス内では空気も同然の扱いをされている俺に気付く辺り、相応の実力はあるのだろうが、まだ十歳のガキだしな。俺に突っかかってくるのも無理はない。


あのふたりとはあまり関わり合いになりたくない俺からしてみればかなり好都合だったので、『グレイ君にも忠告されたことだしおふたりとは距離を置きますね(だからもう関わってこないでください)』と意気揚々とおふたりに告げた翌日、激昂した彼が朝一番で俺に詰め寄ってきたのである。


恐らくは、大好きな王子様からお小言のひとつでも言われて、俺が告げ口したとでも思っているのだろうな。この手の自分が正しいと信じて疑わない類いの猪突猛進型の盲目的バカは、これだから手に負えない。


「グレイ様。わたくしも言いましたわよね?ホーク様は信用の置ける方だと」


おっと、いきなりの名前呼びだ。いつの間にそこまで言われるほどの信頼を得たのかさっぱり分からん。


「どこがです!胡散臭い魔道具を学院内に持ち込み、あなた方ふたりを誑かし、あ、あ、あ、あまつさえ、あなた様に名前で呼ばれるなど!」


あ、こいつ童貞だな。いや、十歳児なのだから童貞に決まっているのだが……と言いたいところだが、驚くなかれナーロッパ風異世界。貴族の息子達は家庭教師やメイドや後家さん達に、将来恥を掻かないための手習いと称して夜の教育も受けるのが通例であるらしく、その歳で非童貞でも別段おかしなことではないという恐るべき男にとって都合のいい世界がこの世界なのである。とはいえ、こいつはあきらかに童貞っぽいゾ。


ここまで頑なに俺のことを排除しようと躍起になる原因が一瞬で察せてしまい、バカくせえ、と俺は肩を竦める。なるほど、赤髪の時点でこいつもなんらのメインキャラクターなんだろうな、と薄々思ってはいたのだが、ヤンチャ系のワンコ属性イケメン騎士といういかにもな属性テンコ盛りのキャラ設定は、いかにも女性人気を意識してそうだ。そっちのお姉様方の需要もありそうだしな。


もし仮にこの世界がヴァニティ君を主人公としたなんらかの創作物の世界ではなく、妹のローザ様を悪役令嬢に据えた乙女ゲームの世界だとしたら、彼は間違いなくその攻略対象だろう。だがそうだった場合、同じく攻略対象になりそうなキラキライケメン王子様キャラにピクルスなんて名前、付けるか普通。ないな、うん、ない。


「いいじゃないですか、おふたりとも。いずれ男爵家に婿入りする予定であるとはいえ、実質的にはただの木っ端商人でしかない平民のガキと、いずれこの国の国防の要を担うであろう、騎士団長のご子息様ですよ?優先度なんて比べものにならないでしょう。俺のことなんか放っておいて、彼と仲よくやってた方がよっぽど有意義じゃないですか」


「あら、見損なわないでくださる?わたくし共は別段、あなたに利用価値があるから仲よくなりたいと思った訳ではなくってよ?」


「確かにそうだ。僕はゴルド商会のお子さんではなく、クラスメイトのホーク君と仲よくなりたいと思ったからこうしているのだからね」


その言い方ではグレイ君の立場がないのですがそれは。


「ほらまた!三人だけで通じ合って!どうしてご理解頂けないのですか!」


要するに彼は、好きな女の子と幼馴染みの友人と自分の仲よし三人グループに、赤の他人が割って入ってきたことが気に入らなくて嫉妬しているのだろう。ガキか。いやガキだったな。


だとしたら、この状況はかなりまずい。『俺達三人組の中に入ってくるな!』とばかりに俺を追い出そうと躍起になっているのに、気付けば彼の方が輪の中から弾き出されかねない流れになっているのだから、心情的にはかなり追い込まれて焦っているはずだ。


「ひっく!ひっく!」


案の定というかなんというか、彼はついに泣き出してしまった。普段ツンケンした生意気な赤髪のイケメンショタの泣き顔ですよ奥さん。ファンサービスの一環になりませんか??なりませんか、そうですか。ショ〇コン大歓喜だと思ったんだけどな。


「あーあ、泣かせちゃったよホーク君。いーけないんだ」


「泣かせてしまった直接の原因はあなたでは??」


「泣いてません!」


女の情けなのか、ローザ様は後ろを向いて見ないフリをしてあげている。それがまた辛いのだろう。男の子なのに学校で泣き出してしまうなど、トラウマになってしまってもおかしくないのに、まして好きな女の子に気を遣われてしまったのだからショックだろうな。可哀想に(笑)


「ここは彼の涙に免じて、おふたりが今後二度と俺に関わらないと約束することで手打ちにするというのはどうですか?三方丸く収まって、誰も損しない。たったひとつの冴えたやり方ですよ、きっと」


「君、よくこの状況で自分の要望だけを都合よく通そうとすることができるね?僕、驚きを通り越して、ちょっと感心してしまったよ」


「やはり根っこの部分はゴルド商会の方ですわ」


あ、ローザ様。後ろを向きながらも会話には普通に混ざってくるのですね。鬼か。


「グレイ君だったっけ?泣くなよ。大丈夫、心配せずとも君の大好きなふたりを取ったりしないからさ。俺抜きで、三人で仲よくしてなよ。その方が双方のためだよ、絶対」


「取ったりしないからどころか、別に欲しくもないからの間違いでは?」


「王族や公爵家の人間を相手にここまで淡白ですと、いっそ感心してしまいますわね」


「チクショー!」


あ、逃げた。


「畜生呼ばわりされてますよ。完全に余計な追い討ちかける必要ありました??今」


「はは、ごめんねホーク君。彼の無自覚な傲慢さを矯正するにはいい機会かなと思ったのだけれど、そう上手くはいかないものだね。あまり大人になってからでは凝り固まってしまった価値観を矯正するのは難しいから、今のうちがチャンスだと思ったのだけれど」


「彼の一方的な思い込みだけで、わたくし共に近付く人間に見境なくキャンキャン噛み付くような悪癖が少しは治ればと思ったのですが。まさかプライドだけは高い彼が人前で泣き出すとは思いませんでしたわ。これで少し懲りてくれるとよいのですが」


うわ、鬼がいる。王族・貴族ってやっぱり碌でもないなあ。ニッコリいい笑顔で微笑むえげつないふたりを前に、こいつら本当に十歳なのかよ、と自分を棚上げして疑ってしまう俺なのだった。

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