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第2話 父親に冷遇されてる胤違い金髪妹

「ホークちゅわあああん!大丈夫でちゅかあああ!?可哀想に!こんなにも酷い目に遭わされて!お土産にホークちゅわんのどぅわい好きなケーキを買ってきまちたからねえええ!」


親というのは子供の成長を大きく左右する存在だ。いい親に恵まれればいい影響を受けるし、悪い親に当たってしまえば悪い影響を受けてしまう。子供は親を映す鏡と言うが、うちの父親はこんな感じ。


ちなみに、もし前世の記憶を思い出していなかった場合、ここで俺が返したであろう反応は次の通りだ。


『ブヒぇえええんパパあああ!痛いよ痛いよ辛いよ苦しいよおおお!僕ちんをこんな目に遇わせやがったあのクソメイド、絶対許せないでブヒ!今後二度と日の当たる場所を歩けないように、あいつの人生グッチャグチャにしてやって欲しいでブヒよ!ブヒョヒョヒョヒョ!』


前回、青髪メイドが誰だお前と俺を問い詰めようとした理由がよく解るだろう。見た目も中身も最低最悪の、救いようのないドクズのクソ豚。それが俺、ホーク・ゴルドという人間だったのだ。こんな奴と一緒にするとか、豚さんに大変失礼である。


「まあ……犬に噛まれたとでも思って、今後女性の取り扱いには細心の注意を払うようにしますよ」


「ああ!?可愛い可愛いホークちゃんがなんだかちょっと荒んだ感じに!?パパ大ショック!ひょっとして、ちょっと早めの反抗期!?」


脂ぎった中年親父に抱き締められて頬ずりされまくるとか拷問以外の何物でもないが、ゴルド商会はこの男のワンマン経営であり、機嫌を損ねるわけにはいかないのでただ苦笑いするしかない。まあ、これだけ息子を病的なまでに溺愛しているようなダメ親父だから、よっぽどのことがない限りは大丈夫だろうが。


さもないと、せっかく大金持ちの家の子供に生まれたのに、妹のマリーみたいに冷遇されかねん。マリー・ゴルド。俺の種違いの妹、だそうだ。俺も父も亡き母も皆金髪碧眼だったのだが、マリーだけは目の色が紫であり、それが原因で母は浮気を疑われ、父に問い詰められたらしい。


なんでも元々好き合っていた男と結婚するつもりであったのに、大金持ちの父親に札束ビンタで脅され無理矢理手籠めにされたらしい悲劇の母は、俺を産まされたせいで心を病んでしまったのか、昔の男と不倫して妹を出産し、あきらかに自分の子ではないと激昂する父の目の前で毒を呷り、死んだのだとか。そのため妹のマリーは三歳になった今でも、屋敷の中で酷く腫れ物扱いされている。


ちなみに前回言い忘れていたが、俺は現在五歳。メイドにセクハラを働く五歳児というのも酷い話だ。日本一有名な五歳児だってもっと自重するだろう。あちらは子供向けのアニメの住人だが、こちらは薄い本に登場しそうな女好きのエロガキである。どうしてこうなった!


惚れた女を金の力で無理矢理追い詰めて手籠めにした結果自分の子供ではない不義の子を押し付けられて目の前で自殺された父は、遺された妹をどうすべきか悩んだらしい。殺すか、修道院にでも放り込むか。さすがに産まれたばかりの子供をどうこうするのは評判が悪いと判断したのか、あるいは母への復讐心からか、マリーは今でもこの家にいる。ただし、ほとんど虐待されているも同然の軟禁状態でだ。


存在そのものがギャグみたいな見た目と言動の豚親父のくせに、そんなシリアスな過去を持つなと言いたいところだが、こればっかりはしょうがない。父が実子である俺を病的に可愛がっているのは、物置のような薄暗くカビ臭い狭い部屋に閉じ込められ、碌に食事も与えられずにいる血の繋がらない娘へのあてつけでもあるのだろう。当然、お土産のケーキとやらだって、妹の分はないに違いない。


「もう出てきて構わないぞ」


「お兄様、その、ありがとうございます」


とりあえずまだ頭や体が痛むからと父を追い出し、俺はクローゼットに隠れさせていた妹に声をかけてやる。父親からは憎悪の感情をぶつけられてほとんど虐待も同然の冷遇を受け、屋敷のメイドたちからは腫れ物扱いされ居ないもののように扱われ、そんな妹を憐れむどころか蔑みバカにしていたバカ兄からは手酷いイジメを受けていたというのに、なんとも健気な子だ。


俺だったらそんなクソ兄貴が階段から落ちたと聞いたら、そのまま死ねばよかったのに、ぐらいにしか思わないだろうに、この子は兄を心配して、部屋を抜け出したことがバレたらあの豚親父に鞭打ちなどの折檻を食らうことを承知の上で俺を見舞いに来てくれたらしい。なんとも健気な子だ。


いつも周囲の視線に怯え、いつぶたれるのではないかとビクビクオドオドしながらも、いつかお父様やお兄様が自分を愛してくれる日が来るかもしれない、と信じて物置のような狭い部屋で腹を空かせて蹲っているような幼女を相手に、さすがに俺も女嫌いがどうこう言い出すようなクソ野郎ではないつもりだ。


「お兄様が別人のように変わられたという噂は本当だったのですね」


「変わってはいない。ただ、表面を取り繕う必要性を覚えただけだ」


嘘です、ほぼほぼ完全に別人です。今までのホークだったら心配してお見舞いに来てくれたこの子に『この偽善者め!どうせ心の中ではいい気味だって僕ちんをせせら笑っているに違いないブヒ!パパにお前が部屋から抜け出して僕を嘲笑しに来たって言い付けてやるブヒ!』とか言って当たり散らすようなクズだったので。正直妹から見ても今の俺は完全に別物だろう。それを口に出しはしないだろうが。


しかしまあ、この短時間で年中部屋という名の物置に軟禁されているような妹の耳にも届くぐらい、俺が豹変したという噂は屋敷の中に広まってしまっているのか。あの青髪のメイド長が言い触らすとは思えないし、たぶん俺の部屋の前で盗み聞きをしていた奴がいるな?


家の中にむさい男がいるなんて耐えられないブヒ!という困ったちゃんなエロガキ・ホークのワガママにより、屋敷で働くメイド達は完全に見た目だけで選ばれた十代の美少女揃いであり、そのうちの9割以上が親父のお手付き、つまりは、愛人である。なので、自分は将来ゴルド商会の社長夫人になるかもしれない!と勘違いして、仕事もせずにダラダラしているようなクソ女共が野放しにされているわけだ。


まあ、実際にはあの豚親父、息子に似て大の女好き……というのはただの演技であり、母の一件がトラウマになってしまっているのかむしろ大の女嫌いっぽいんだけどな。だから、女という生き物相手に復讐しているみたいにメイド達を乱暴に食い散らかし、その気もないのに『将来的には君を後妻に迎えてもよいと考えておる』などと誘惑して有頂天になった女達が己の手の平の上で踊るのを愉しんでいるまである。


そんな親父の悪意を見抜けずに、ドロドロギスギスの女同士の争いが勃発しているような家というのはものすごーく気持ちが悪い。大金持ちの家に転生できてラッキー!!と思っていたのだが、大金持ちの家には大金持ちの家なりに、結構闇が深いのだろう。正直しんどい。これは早急に改革が必要そうだ。


「そう……ですか」


「ああ、そうだ。だから、お前にも優しくしてやる。だからといって付け上がるなよ」


「……はい、お兄様」


変わってない=お前のことも嫌いなままだ、と言われたものと思ったのか、寂しそうに俯く妹が、ちょっと嬉しそうに顔を上げ、でも嫌いなのに優しくしてやるフリだけしてやると言われ、ちょっと傷付いたような笑みを浮かべる。三歳児のくせに聡明すぎないか、この子。


まあ、異世界転生モノではこの手の可哀想な過去を持つ妹キャラはちょっと優しくしてやっただけで将来重度のブラコンになるだけならまだしも、酷いと『お兄様は誰にも渡しません!』とか言ってヤンデレキャラに超進化してしまう可能性があるので、あまり優しくしすぎてしまいたくないのだ、正直。


現実とアニメやラノベを混同するんじゃない!と思われるかもしれないが、正直異世界転生なんてなろう主人公めいた非現実的な展開に巻き込まれている今、この世界がなろう系小説の世界観じゃないという保証はどこにもないだろ?髪の毛が青いメイドや目の色が紫の妹がいるような世界だぞ?絶対まともじゃないに決まっている。


しかし、家の中が親父と肉体関係を持っているメイドばかりで、しかもそいつらが寝室での会話を盗み聞きするだの五歳児にビンタするだの三歳児の妹に肩身の狭い思いをさせているだの、おうちの中の雰囲気があまりにも悪すぎるのは実際問題だ。起き上がれるようになったら、家の中の大掃除でもするか。

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