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第18話 無知とは罪であると実感するなどした

「この部屋には盗聴除け、覗き見除け、人払いの結界魔法が入念に張られている。だから、ここで話したことが外部に漏れる心配はない。安心してくれていいよ」


それって、外部に助けを求めることも逃げることもできないってことですよね??いや、やめておこう。公爵家の名に誓うとまでローザ様が宣言してでも助けを求めてきたのだ。これ以上言い出したら彼女の名誉を傷付けてると思われかねない。ただでさえ、俺達の間に信頼関係なんてものはないも同然の、大して親しくもない王子や公爵令嬢相手にそんな軽口は叩けるかって話だ。


放課後。授業が終わるなり速攻で帰宅した俺は、とんでもない不発弾であることが発覚した旧約建国史を鞄の奥底にしまい込み、第三王子が暮らしているという学生寮の王族専用特別部屋に、半ば強制連行されるかの如く連れてこられてしまった。


念のため、部屋の外ではピクルス王子(何度聞いてもすごい名前だ)の護衛である王国騎士団所属の騎士ふたりと、ローザ様の護衛を兼ねているというメイドがふたり。それからうちのバージルとクレソンと連れてきたので、いざという時は……いや、暗い想像はやめておこう。さすがに大丈夫のはず、きっと、たぶん、Maybe。


「これが件の、旧約建国史になります」


「これが本物の……」


「実物を見るのは僕も初めてだ。君は一体、これをどこで?」


「それがその……下町にある古書店の特価品コーナーで、他の本に混じって銅貨一枚(約100円相当)で売られておりましたので、てっきり普通の本だと思い……」


「それは……」


「なんという……」


物の価値を知らないというのは怖ろしいことだね!!心底そう思うよ!!ファ〇キン!!実際店主からすれば、ただの古くて薄汚い本だったのだろう。あきらかにバイトっぽい感じのやる気のなさそうな兄ちゃんが店番してたぐらいだからな。本当は国宝レベルのやばいブツであると知ったら、そんな杜撰な扱いはできないだろう。


彼らにとってはただ古臭いだけのつまらない本。だが真実を知る人間にとってはすさまじい価値を持つ稀覯本。まさに古書というものの面白みを体現した一冊と言える。絵画でもなんでも、物品に価値を付けるのは人間の価値観だからな。まあ、俺はちっとも面白くないんですけどねHAHAHA☆


それにしても、それが巡り巡ってこうしてこの国の王子の手に渡るとか、どんな偶然だよ??ひょっとしたらこれもまた、この世界の主人公であるヴァニティ君の運命とやらに導かれてるのかもしれない。俺が偶然格安で購入した古本が実は超重要な遺物であり、それが彼の妹であるローザ様の手助けをする形でこんな風に使われるとかそんな偶然ある??ほんま、世界は主人公を中心に回っているんやなって。


「とにかくこの本はおふたりにお貸しします。いえ、お譲りします!!むしろ引き取ってください!!一刻も早く手放したくてしょうがなくなってしまいましたので!!」


「さすがに僕も扱いかねるよ。父上や兄上達に知られては大事だし……」


「では、わたくしが責任をもってお預りさせて頂きますわ!これも全てお兄様のためですもの!お兄様をお助けするためだったら、禁書の一冊や二冊、どうってことありません!」


鼻息荒く、ローザ嬢が俺の手からひったくるように旧約建国史を奪い取る。美少女なのだから鼻息はさすがにもう少し……いや、やめておこう。余計なことは言わないに限ると、この本を通じて思い知ったばかりではないか。


「僕も一緒に読ませてもらってもいいかな?予備の予備でも、継承権を持つ王族として、知りたくないと言えば嘘になってしまうから」


「なんでもいいので、俺のことは黙っていてくださいね」


もし約束を破られるようなことがあれば、本気で呪いますよ?なんかもう衝撃が大きすぎて、さっさとうちに帰って全てを忘れて不貞寝してしまいたい気分だ。まさか身近にこんな劇物が眠っていただなんて、考えるだに怖ろしい。あるいはむしろ、このタイミングで発覚してくれて助かったと考えるべきか。


「ゴルド様、本当にありがとうございます!この御恩は忘れませんわ!」


「いえ、むしろ忘れてしまってください。そんな本は俺の手元にはなかった。いいですね?」


一礼だけして退室し、部屋の前で待っていてくれたクレソンとバージルに声をかける。


「お待たせ。帰ろうか、ふたりとも」


「おう、なんだご主人。やけに疲れた顔しやがって」


「おい、訊くんじゃねえよクレソン。王子様から直々のお呼び出しだぞ?坊ちゃんにだって言えないことぐらいあるだろうさ」


ちなみに旧約で語られる無属性魔法についての記述は、かつてこの世界は完全なる無であり、無から光が生まれ、光から生まれたのが人間で~みたいなよくある話だ。


だから無属性魔法こそがこの世界に最初に存在していた零番目の魔法であり、そこから属性が増えていって、最終的に無属性+11種類の12の属性になっただとか、最初に光から生まれた人類の中でもとりわけ優れた英雄こそがこのブランストン王国の開祖だ、みたいな内容がつらつらと綴られているため、宗教戦争の引き金となってしまったのだろう。


現在この国で信仰されている女神教なる宗教においては、人間やエレメントや11の属性を作り出したのは創世の女神ミツカであるとされているため、女神教の教えと対立する歴史を掲げていたかつてのブランストン王国は三百年前に宗教戦争を行い、結果として今、女神教が国教となり、新約建国史が国内に流通しているところを見ると、歴史の闇を感じるな。


それ以外にも、ちょこちょこ新約と旧約で記述の異なる部分は存在していたのだが、その辺りは無属性魔法とはあまり関係がなさそうなので割愛。俺としてはとびきりの厄ネタだった不発弾を無事王子とローザ嬢に押し付けることができたので、後はふたりがあれを読んで何を思おうと俺の知ったことではない。


しかし今回の一件で王子のみならず、公爵令嬢からもロックオンされてしまった気がしないでもないのだが、どうしたもんかな。抱き込まれた挙げ句、いいように利用されて最後にはトカゲの尻尾切りみたいに使い捨てられてしまっては堪らないのだが、権力的には絶対的にあちらの方が上。


いくら大金持ちとはいえ、この国の第三王子様と将来の第三王子妃様相手じゃ分が悪すぎる。学内で最も有力なふたりとコネクションを作ったと思えば、ゴルド商会の跡取りとしては正しいことなのかもしれないが、なーんかこう、釈然としないお。


「おうご主人、俺らの尻尾が好きなのは解るがよ、せめて尻尾をモフるのは馬車に乗ってからにしてくれや。歩き辛えったらねえからよ」


「あ、ごめん。考え事してたら、つい」


「オメエはほんとに尻尾が好きだなあ。こんなもん触って何が楽しいんだ?」


「尻尾を持たない人間には色々あるんだよ、色々ね」

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