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第173話 夜会は気疲れと共に

最近オッサンズ掘り下げ回が続いておりますが、GWに幕間の物語キャンペーンでもやるかって思い立ったのがきっかけなんですよね。つまり、もうちょっとだけ続くんぢゃよ

「ホークくん、もうここまで来たら覚悟を決めてくださァい!」


「わかってますよ博士。俺だっていつまでも子供じゃないんですから」


「そういう割にはちょっとタイが曲がっていますねェ!はい、これでOKですよォ!」


オークウッド博士にタイを直され、ついでに博士自身もガラス窓に映る自身の姿を見ながら身だしなみをチェック。普段の野暮ったいボサボサ剛毛に白衣という出で立ちとは違い、今日の博士は頭の部分の毛を柑橘系の香りのするクリームで撫でつけて、ついでにタキシードに身を包んでいる。見た目だけならかなりジェントルメンな感じだ。


典型的なマッドサイエンティストを絵に描いたような普段の狂人っぷりを知っていると、どうしても別人に見えてしまうのは無理もない。とはいえ、これでも今までに数多の論文や研究で博士号やいくつかの特許、勲章をも受賞し、世界に名立たる天才学者として知られる名士としての一面も兼ね備えているだけあり、慣れた手つきで俺の金髪もクリームで撫でつけてくれる手際にはよどみがない。


そう、魔力には人それぞれに波形パターンがあり、それを利用して魔法の使用者の痕跡を探知したりDNA鑑定の代わりに両親の魔力パターンから子供との血の繋がりを解明するといった一連の研究の成果により、またしても世界中を震撼させたその功績を認められたオークウッド博士は世界各国の色々な国や貴族から夜会への招待状を、ひっきりなしに受け取ることとなった。


そのうちの九割以上は適当な理由をつけてお断りしているようだったが、そんな博士でもお断り出来ない類いの招待状もいくつか届くらしい。代表的なものといえばそう、王族の主催する夜会への招待状とかだね。


本来であれば一連の研究の成果は全て博士に独占してもらうことで俺の名前が世に出ることは避けられたはずなのだが、それなのに何故俺まで夜会に向かう送迎の馬車に乗せられているのかというと、単純にオークウッド博士に引っ張り出されたからだ。


なんでもここのところ行きたくないのに行かなければならない夜会、夜会、夜会続きで人間嫌いというか、人間に係わっている暇があるならその時間を一秒でも研究に宛てたい博士には結構なストレスが溜まっていたらしく、『君だけ責任逃れをしてズルイじゃないですかァ!!』と鬼気迫る勢いで詰め寄られてしまった結果、さすがにこれを見越して押しつけたことが申し訳なくなってしまい、じゃあ今夜ぐらいは一緒に……という流れと相成ったのである。


「なんでみんな髪にクリームを過剰に塗りたくるのが好きなんでしょうねえ?ベタベタするだけで、特にいいこともなさそうですのに」


「相手の流儀や世間の流行に合わせておくと楽なんですよ身だしなみは。とりあえず相手の真似をしておけば恥を掻くこともなくなりますし、それで余計な失笑や侮蔑や嘲笑を向けられる確率も下がりますから。我輩たち研究者はとんだ金食い虫ですからねェ!見た目ひとつで有用なパトロンを得られる機会を逃さずに済むのであれば、それに越したことはありませェん!」


「ゴルド商会が多額の融資をしていてもですか?」


「お金と時間は、あればあるだけよいものでしょう?」


「なるほど、仰る通りです」


なお馬車にはカガチヒコ先生に同席してもらっている。こちらも普段の和装とは異なり、タキシードに身を包んでいるがさすがに頭にクリームは塗っていない。普段持ち歩いている刀も、魔法で髪留め用の紐に変化させており、それで髪を結っている。いかにもな厳格な老紳士!といった感じだ。


その隣ではオリーヴが無言で目を瞑っている。こちらもタキシードを着用しているものの、ひとりだけ白タキシードなので若干浮いてしまっているが、黒毛とよくマッチしていてかなりかっこいい感じだ。三人とも普通にオシャレタキシードを着こなしているのが凄いよなあ。俺なんか完全に七五三って感じだもん。まさに馬子にも衣裳というか、豚子にも衣装というか。


こういう時、教養がある人たちは頼りになるなと思う。クレソンは論外、庶民派のバージルもこの手のイベント事には苦手意識が強いようで、どうしても振る舞いにぎこちなさが残る。


やがて馬車は夕暮れの王宮前に到着し、オークウッド博士にはオリーヴを、俺にはカガチヒコ先生をつけ、そのまま夜会へと足を踏み入れる。よく昔のアニメ映画や少女漫画なんかで王子様やお姫様がパーティーを開いている構図が見られたが、まさにそんな感じだ。


音楽が奏でられ、豪勢な料理が並べられ、人々は立食形式で酒を片手に談笑したり、貴族の子息女が踊っていたりと、なんとも典型的な『お城で開かれるパーティー』といった感じで、ちょっとだけワクワクしてしまう。


「これはこれはオークウッド博士!」


「お初にお目にかかります、わたくしこういう者で」


「ほう?貴殿が噂の」


案の定あちらこちらから挨拶に来る相手の対応に追われ始めたオークウッド博士の隣で、俺も研究助手として適当に一言二言挨拶を述べる。実際、飛び級で大学院に進学したという天才児も、十六歳になってしまえばさほど新鮮な驚きもなく、まして相手は悪名高いゴルド商会のバカ息子。


「やあ、君がホーク・ゴルドくんか」


「噂は耳に届いているよ。なんでもカードゲームでかなりの利益を上げたとか?」


「今ではこういった夜会にもカードを持ち込む人間が多くてね。眉を顰める老人たちもいるが、時代の移り変わりとはいつも老人の批判と若者たちの熱狂がつきものさ」


「かくいう私もデュエリストでね」


どうせ碌な反応はされまい……と思っていたのだが、意外や意外、DoHを製造販売するパストラミ社の社長として結構好意的な視線を向けられてしまい、中には握手やサインをねだってくる人もいて、逆に驚かされてしまった。これが流行に乗るということか。むしろ流行の波を作り出す側だから余計にか。


中には自宅で開催するちょっとした夜会にゲストとして来てくれないかという誘いもあり、多忙を理由にお断りするのにも難儀するぐらい、貴族の青年やオッサンたちにモテモテだった。まあその分、遠巻きに悪意や敵意をぶつけてくるオッサン爺さん連中も大量にいたのだが。恐らくはゴルド商会に多額の借金をしている連中や、DoHブームを快く思わない人種などだろう。ただ若者が成功しているというだけで面白くないという人間も、どこの世にもいるものだしな。


「ホーク殿、お飲み物をお持ち致し申した」


「ありがとう先生。ちょっと喋り続けて喉が渇いてたから助かるよ」


肩が凝りそうなタキシード姿に愛想笑いと挨拶の連続。おまけに相手はこちらを値踏みしたり観察するような視線や質問をぶつけてくるものだから、どうしても気疲れしてしまう。あー早く髪を洗ってタキシードを脱ぎたいなー!!と思いながらも、一夜の辛抱と思いぐっと我慢だ。


「もう少しの辛抱ですよホークくん。今夜の主催はデーツ第一王子ですから、彼が登場し挨拶を済ませたら帰れます。まあ、王子の前で露骨に帰りたいオーラ全開だったりされてしまうと困るのですが、君に限ってはその心配もないでしょう」


「お疲れ様です、坊ちゃん」


そんなこんなでひっきりなしに誰かとの会話を続けることを余儀なくされている博士に同情しながら、研究助手としてちょこちょこ俺も話に加わったり俺個人に用事があるという貴族のおじさんたちに囲まれて雑談に興じていると、やがて高らかなファンファーレと共にデーツ第一王子の入場を告げるアナウンスが響き、白髪の王子様が現れた。


顔立ちはかなり美形で、結構ロン毛だ。いわゆるワイルド系イケメンといったところか。ありゃ絶対に俺様だな、と一目でわかってしまうほどのわかりやすい外見をしており、ふたりの弟王子たちに比べかなり荒っぽそうだ。とはいえ既に二十歳を超えているせいか、落ちつきのなさといったものはなく、むしろ油断ならなさそうな鋭い視線で会場を一瞥する。


「諸君、今宵は我が夜会によくぞ参った。諸君らは我が支えであり誇りである」


ダラダラとやたら長ったらしい挨拶を続ける第一王子の言葉に、貴族たちは真剣な顔で聴き入っている者や、若干冷めた眼差しを送っているもの、熱っぽい視線を向ける者など反応は様々だ。第一王子派の取り巻きたちだけをただ集めたというわけではないらしい。恐らくは今後取り込みたい人間達も集めたのだろう。オークウッド博士もそのうちのひとり、というわけだ。


「博士、久しいな」


「これはこれは、ご無沙汰しております殿下」


「貴様の活躍については我が耳にも届いている。またも世間を派手に震撼させたそうではないか」


「いえいえ。わたくしどもはただ、まだ知られざるこの世の神秘を解き明かしているだけにございます。解き明かしたその後につきましては、わたくしなどよりよほど有効活用して頂ける皆々様のお知恵があってこそでございますとも!」


「フ、相変わらず人間嫌いのくせによく口が回ることだ。それにしても『わたくしども』とはな。博士の先進的すぎて奇妙奇天烈の域にまで達している突飛な思想についていける人間がよもや国内にもうひとりいたとは思わなんだぞ?」


「フフフ!我輩が世界で唯一我輩と対等ないしは発想力は我輩をも上回ると認めた天才児ですからな!!」


ふたりの視線が俺に注がれたので、無難に貴族式の作法で一礼しておく。


「お初にお目にかかります、デーツ殿下」


「お前か、弟たちが目をつけたという面白い子供とやらは」


「ホーク・ゴルドと申します」


以後お見知りおきをしないでください、と言いたいのをぐっと堪え、手短に済ませようと頭を下げる。


「有用な人材が育つことは王国の更なる発展や利益に繋がる。とても喜ばしいことだ。だが、貴様らの新技術をもってしても我が母を目覚めさせるには未だに至っていない」


「力及ばず、申し訳ございません」


「よい。人の脳とはいかなる手段をもってしても未だ完全解明には至らぬ不可思議なものだ。いつか医学や科学、魔法が進めば母の目を覚ます術が見つかる日が来るやもしれぬ」


おっと、王妃の話題が出たか。数年前に俺が昏倒させ植物人間化させた王妃はあれから何年も経つのに未だ目覚めてはおらず、今回発表された魔法の痕跡から術者を探知する魔法をもってしても俺が犯人であることはバレていないようだ。慌てて魔力の痕跡を消す魔法や探知を阻害するジャミング魔法を並行開発した甲斐があったな。


しかし、王妃か。母親を慕っているっぽい第一王子や愛妻家らしい王様には悪いが、どうにもなあ。正直目覚めさせてあげたい気持ちはなくはないのだが、絶対厄ネタにしかならなそうだから扱いに困るんだよね。もしピクルス王子やルタバガ王子をまだ害する気持ちがあったり、公爵家や王族直属の諜報部隊アンダー3に余計な命令下してくるとしたら、今度こそ殺さなければならなくなるかもしれないし……。


そう考えると俺、第一王子からすりゃやってることは本当に極悪人なんだよなあ。でも悪いな王子様。あなたが母親を愛しているように、俺も俺の周囲の人たちのことを大切に想っているんだ。だから、みんなを守るためには邪魔すぎる彼女に犠牲になってもらうよりない。目覚めさせた彼女と話し合うことが出来たなら……って?そもそも向こうからすりゃ見知らぬ平民の商人の倅なんて対話にも値しないだろうよ。だからまあ、しょうがない。


しょうがない、で犠牲にされる側からすれば堪ったもんじゃないだろうけどな。でも、全ては先に殺意をもって刺客を差し向けてきた王妃の自業自得だからさ。残念だけど、諦めてちょーだい。

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