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第160話 キャンプと言えばカレー

「ねえポークっち、あのふたりなんかあったん?」


「甘酸っぱい青春の1ページを刻んでました」


夕暮れ時。キャンプ場の炊事場に集まった生徒たちが、夕飯のカレーを作るためにそこかしこで賑やかに料理に勤しんでいる最中。


ニンジンばりに真っ赤な顔で無言で野菜の皮を剥いているワッサー先輩と、ジャガイモみたいなゴツゴツ頭に真っ赤な顔をして野菜を切っているゴリウス先輩のラブコメの波動を感じさせるような甘酸っぱい空気に気づいたメルティさんが、お米を洗いながらこっそり話しかけてくる。


「ワオ!生徒会長って頭固いイメージしかなかったけど、やっるう!」


「そこ!刃物を扱っている時は真剣にやれ!」


「さっせーん!」


ワッサー先輩に一喝されたが完全に照れ隠しだよなあれ、みたいな目でペロっと舌を出してくるメルティさんは涼しい顔だ。最初のうちは態度が露骨に悪かった二年の先輩女子ふたりも、俺が早々に完全に脈なしと判断したのか、今ではぶりっ子をやめて普通にふたりで喋りながらサラダ用の生野菜を洗っている。


「ねえねえ知ってるポークっち。この臨海学校って、カップル成立率かなり高いらしいよ!」


「イベントという非日常で浮かれているところへ水着で相手の裸体を意識したり、共同生活で急接近した結果一線を越えてしまうためのハードルが極端に下がる。よくあることですね」


「もう!ロマンがないなー!夜とかかなり星空も綺麗に見えるらしいし、普通はときめいちゃったりするべ?」


星空を見上げているより暗がりに消えていくカップルの方が多いのでは...いやなんでもない。この世界ではなんの問題もない合法的な異性交遊だからな。そのまま学生結婚をするカップルが多いのは普通のことだ。平民の子供たちにとっても学院は出会いの場なのだから。


「ピカタくん野菜洗い終わったよー」


「ありがとうございます先輩方。切るのは俺がやりますから盛り付けをお願いしますね」


「うーい」


一体どうなることかと心配だった二年生ズも、完全に俺が脈なしどころかどんどんどんどんテンションが急降下していってるのを見てさすがにまずいと判断できるだけの良識は持ち合わせていたのか、わざとらしい媚び媚びのぶりっ子モードをやめた後は普通の態度に戻ってくれたし、これならギスギスしないで済みそうだ。ほんと、残り二日あんな感じがずっと続いていたらと思うと耐えられないしな。俺なんかにかまけている暇があったらもっと違う男を探した方が建設的だと思いますよ、ほんと。


「あっ!」


「っ!すまん!」


「い、いやいいんだ!私の方こそその、すまなかった!」


見ればカゴに残っていたタマネギを取ろうとして手が触れあってしまったらしいふたりが真っ赤な顔で目を逸らしながら謝り合っている。完全にラブコメじゃねーかおい。典型的な美女と野獣のカップルだが、お似合いといえばお似合いかもしれない。


「ねえポークっち、なんかすっげーいいムードじゃね?あのふたり、臨海学校中にゴールインしちゃうんじゃね?」


「十分あり得ますね」


「なっ!?き、貴様ら!私たちは学院の風紀を取り締まる誇り高き生徒会役員だぞ!それが学校行事中に不純異性交遊など破廉恥極まる愚行に走るなどとは言語同断!あり得ん!断じてあり得んのだ!!」


「えー?うちらカップルになるかもって言ってただけで破廉恥なことなんか何も言ってないんですけどお?うっわ先輩って実は意外とムッツリ?あ、貴族だからゴールテーパーが普通なのか。大変っすね貴族も」


「仕方ありません。好意と行為を直結して考えてしまうのは思春期の男女によくあることですから」


「き、き、き貴様らァー!」


「うわ先輩!包丁はヤベエって!!マジ勘弁!!」


「落ちつけキルシュ!下級生相手にムキになるな!!っと、すまん!」


「う、うわ!?」


プルプルと包丁を握りしめたまま暴れそうになったワッサー先輩を慌てて羽交い絞めにするゴリウス先輩。その拍子に密着してしまい、もう完全に出来上がってんじゃん!ってぐらい真っ赤になって慌てて離れてしまったふたりが頭から湯気でも出しかねない勢いで固まってしまっている。なんだかなあ、ほんとラブコメアニメ見せられてるみたいで微笑ましいですね。


「まあしゃーないっしょ。臨海学校とか気になるあの子と急接近しちゃう絶好のチャンスだし」


「あーあ羨ましい、うちらも恋してーなー」


「先輩たちにもチャンスはありますよ。何せ臨海学校はまだ初日ですからね」


「マジ?ポークくんのハートゲッチューできちゃう?」


「それは諦めてください。俺のハートは国庫の扉より開きませんので。ああ、先輩方に魅力がないわけではありませんよ?ただ、鍵の厳重管理をしている人間が既にいるというだけのことです」


「えー何それウケる」


「残念。愛人でもよかったんだけどなー」


「いやーしょーがねーっすよ先輩方。ポークっちの目、ガチですし」


女三人寄れば(かしま)しいとは言うが、ギャル三人だとなおさらうるさいな。おまけにゴリウス先輩と生徒会長はまだフリーズしているせいで、遅々としてカレー作りが進まないし。でもまあ、これまた青春の1ページなのかもしれない。


しかし、俺も大人になったものだなとしみじみ思う。昔の俺だったならばきっと、バカップル付き合ってられんとかこんな女だらけの空間にいられるか!俺は帰るぞ!とさっさと臨海学校をリタイアしてしまっていたかもしれないからな。ふふ、人は成長するものなのだよ。お前は豚だろうって?知らんな。

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