表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/467

第157話 ドキワク!ウキウキ!臨海学校!

三学年合同の臨海学校が開催されるというので、お前も来いと誘われたのは初夏に差し掛かった頃のことだった。


「今回の臨海学校では各学年から二名ずつ、くじ引きで決められた計6名の班のメンバーと共に力を合わせて、二泊三日間の合同生活を送ることで、社交性や協調性を培うわけだな」


「へえ。てことは、親しい友人とペアを組んで一緒に、みたいな手は使えないわけですか」


「名目上は、知らない初対面の相手ともうまくやっていくための学校行事だからな。知ってる相手とばかり固まっていてもしょうがないだろ?」


なるほど、これで上級生キャラや下級生キャラとも問題なく絆を深められるようにと配慮されたイベントなわけか。いかにもラブコメチックな設定だな、と思いながら、俺はヴァンくんが机の上に広げてくれた臨海学校のしおりを覗き込む。


放課後の教室。もう誰も残っていないそこで闘技大会ぶりにヴァンくんに会った俺は、彼の前の席の生徒の椅子を無断で拝借して、馬に跨るように後ろ向きに座る。


「就職活動を控えた三年生はそんなことをしている場合ではないのでは?...ああ、そういうことですか」


「そういうことだ。自分のことばかりにかまけて、後輩の面倒ひとつ看られない先輩、じゃ評判悪いだろ?」


学生時代はなんちゃらのリーダーをやってました、とか、グループのまとめ役で、とか、そういうのを主張する就活生が多すぎるってネタはSNSで結構見かけたもんな。


「それにそなた、休学日数が多いじゃろ?こういった学校行事で出席日数を稼いでおかねば、留年もあり得るぞい」


「学院長先生!」


「どうも、お久しぶりです」


「うむ、久しぶりじゃのう」


ガラっと扉を開けて入ってきたのは、いかにもTHE魔法使いといった感じの白いお髭が素敵なマーリン学院長だ。彼はヴァンくんの右斜め前の席の椅子に、よっ!とジジ臭い掛け声と共に座る。


「別に留年からの退学コースでも俺は構わないのですが。所詮はメアリ・イース事件を解決するためだけに転入したわけですから、むしろ何故まだクラスに籍が残っているのか不思議ですよ」


「何事にも備えあれば憂いなし、じゃ」


一体何に備えているんですかねえ。この手の自分の考えをあまり他人に明かさないでキラキラスマイルだけ浮かべているような黒幕系の爺さんはかなり厄介なんだよな。


全てが終わった後で『終わりよければすべてよしじゃよ』とかなんとか全部自分の手の平の上でしたーみたいな後方全知面みたいなのされたらイラっと来るし。ブーメランブーメラン?いや、俺はさすがにそこまでタチ悪くない...と思いたい。同じ穴のムジナなのは否定できないかもしれないが。


「休学といえば、オークウッド博士が寂しがっておったぞ。最近は大学院の方へもあまり顔を出しておらぬようじゃな?」


「あー、仕事やら何やらが忙しくてつい」


ちなみに大学院に留年や退学といった制度はない。何故ならば、大学院とはわりと名ばかりで、その実態は学者ギルドや魔術師ギルドの連中がやりたい放題やってる研究棟に等しいからだ。普通の学生は高等部で学生生活を終え、よっぽどの物好きだけが大学部に進学する。


そして大学部でこいつは見込みがあるとか常軌を逸しているとか、そういう筋金入りな点を見出された一握りの特別な生徒のみが何らかの推薦やコネクションをもって迎え入れられる終身名誉隔離施設が、この世界の王立学院の大学院というわけだ。


「フォフォフォ、かなり手広くやっておるようじゃのう?」


そう言って学院長が素敵なローブの袂から取り出したのは、まさかのDoHのデッキだった。カードスリーブまでキッチリ二重に装着している辺り、さては上級者だな??


「そういえば、かなり流行ってますねそれ」


「ありがたい限りですよ。まるで金貨を刷っているような気分ですからね。というか、学院長が学院にそんなもの持ってきていいんですか?生徒たちに示しがつきませんよ?」


「フォフォフォ、わしはカードゲーム部の特別顧問を務めておるからのう」


「わー公私混同がすげえ」


「さて、ポーク・ピカタ殿。いちデュエリストとして、そなたに勝負を挑ませてもらってもよいかのう?」


「フッ、いいでしょう。そこまで気合いのこもったデッキをお持ちのデュエリストに勝負を挑まれて応じなかったとあらば、デュエリストとしては無作法というもの」


「なあ、なんでふたりとも当たり前のようにカードの束が出てくるんだ?」


「愚問ですねヴァンくん。デュエリストたるもの、デッキは自らの剣に等しい武器なのですよ。あなたは武器のひとつも持たず丸腰で出歩くのですか?」


「学院に来る時に武器は持ってこないんじゃないかなあ...」


至極ご尤もなツッコミを無視して、俺と学院長は対戦を始める。かなり話が脱線してしまったが、そんなわけで留学生のポーク・ピカタは臨海学校に参加することになったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「萌え豚転生 ~悪徳商人だけど勇者を差し置いて異世界無双してみた~」
書籍版第1巻好評発売中!
★書籍版には桧野ひなこ先生による美麗な多数の書き下ろしイラストの他、限定書き下ろしエピソード『女嫌い、風邪を引く』を掲載しております!
転生前年齢の上がったホークのもうひとつの女嫌いの物語を是非お楽しみください!★

書影
書籍版の公式ページはこちら


ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ