第153話 信じる/信じない/信じたい
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遠い遠い昔。女神が『便利な道具はあればあるほどいいでしょ』と軽いノリで持ち込んだ科学技術により、超高度に発達した科学文明を誇り繁栄を極めた古代人たちは、女神がいなくなった途端案の定人類同士で争いあって滅びかけた。お約束すぎるパターンだね。
で、危うく絶滅しかけた古代人たちは、汚染物質を撒き散らさないけど威力は核爆弾並みという、タチの悪いクリーン核戦争の影響でボロボロになったこの星を離れ、僅か千人ちょっと生き残った人類種を乗せた宇宙戦艦隊で別の惑星に移住する計画を思いつく。
が、計画に反対する者たちもいた。この星に生まれこの星で生きてきた自分たちがこの星をメチャクチャにしたからといって、あっさりこの星を捨てて別の星に移住先を求めるなど言語道断だと主張する者たちが百人前後いたのだそうだ。
そこで彼らは、この星から旅立つ組とこの星に残る組に別れ、残った組はこの浮遊島とアーム城を拠点に、地表が復興するまで永い永いコールドスリープにつくことにした。残留組の人類を補助するために用意されたのが、管理AIであるSherryというわけだ。
彼女?彼?は地表の様子をおよそ千年に渡り観測し続け、やがて人類が生活しても問題ないレベルに環境が回復したことを確認してから、アーム城内でコールドスリープされていた人類種を解凍し、地上に送り出した。
今世界中で繁栄している人類は、それら残留組から繁殖していった人類、というわけだ。高度に発達しすぎた科学技術が世界を、そして人類をも滅ぼしかけたことで自分たちを戒めた古代人たちは、以後自然と調和するために科学ではなく大気中に溶け込んだエレメントを借用する魔法を使い、牧歌的なスローライフを送るようになった。
だから、今この世界はファンタジー世界チックな生活レベルが続いているのだそうだ。無論、おめーらよくも世界をメチャクチャにしやがったな!!と怒った竜種や魔物たちが襲ってきてもおかしくはなかったのだが、この世界の覇権を女神と争い敗れた竜神種はもうその頃にはハインツ師匠とまだ卵だったリンドウしか残っておらず、結果として人類は再びの繁栄を始めた。
無事人類種がこの惑星で復興を始められたことを見届けたSherryは、いざという時に残留組がこの星から逃げられるようにと残されていた小型宇宙船ヴィクトゥルーユ号に己の人格を移植し、己の役目を終えて静かに眠りに就いた、というわけだ。いつか再び己の力が必要とされるであろう、その日まで。
「おおよその事情は以上でございます。ご理解頂けましたかな?」
「まあ、わりと」
ヴィクトゥルーユ号の機体の表面をスクリーン代わりに、彼の指から投影された数千年前の映像記録の上映会&説明会が終わり、事情を概ね理解した俺と情報量の洪水に頭がパンクしてしまったのか微動だにしないローガン様。
うんうん、わかるよ。現代日本人の知識があるならまだしも、普通に剣と魔法の世界で生きてきていきなりそんなSFチックな話されてもわけわかんなさすぎて困るよね。
「旅立った人類はその後どうなったの?」
「残念ながら、全滅致しました。当初のリーダーであらせられました男性が亡くなられた後で、次のリーダー争いが泥沼化し、人間同士での凄惨な諍いに発展し、最後には乗組員たちの過半数が亡くなり、航行を断念。この星への一時帰還を決意なされたものの、乗組員たちは徐々に数を減らしていき、最後のひとりも遂に...人類種の補助という存在意義を喪失した他の管理AIたちもわたくしに全てのログを託し、その役割を終えました」
「わーお...それで、君はこれからどうするつもりなんだい?」
「可能であれば、あなた様方のお役に立てて頂ければと存じます。わたくしの役目は人類種のサポートでありますから。本来の存在意義を果たせぬままここで朽ち果てていくことはあまりにも忍びなく」
「愚かな人類は自分が管理してやらなければ、みたいなそういう危険思想に染まったりは?」
「過去にそういった暴走を起こしたAIが存在したケースもございますが、最後は人類種との闘争の果てに演算コアを砕かれ破壊されました。道具が分不相応に己の領分から逸脱すべきではないことは理解しているつもりでございます」
「ここへと続いている転移魔法陣がヴァスコーダガマ王国の王立学園の地下にあった理由については何か知ってる?」
「わたくしにはいかんとも。しかし、この浮遊島への転移魔法陣の描き方をご存知なのはこの島より旅立っていかれた古代人の生き残りのみ。推測になりますが、古代人の生き残りがヴァスコーダガマ王国の建国、ないしは王立学園の建造に携わった折に、転移魔法陣を失伝してしまわぬよう書き残したのではないでしょうか」
「うーん、なるほど。君の身の上話を聞いた限りじゃ活躍させてあげたいんだけど、宇宙船なんか持ってても使い道ないしなあ」
「通常の飛空艇としてご利用頂くこともできます。ソーラー充電システムとナノマシンによる自動メンテナンスシステム搭載でエネルギー切れの心配もなし。見た目にご不満点がございますようでしたら従来のオーソドックスな帆船型に偽装するか、もしくは光学迷彩で透明化することも可能でございますので、是非前向きにご検討くださいまし」
正規の所有者のいない飛空艇は発見者の持ち物となるが、今回は俺とローガン様の共同発見だからなあ。そもそもが俺の一存ではなんとも言い難い。
「ローガン様はどう思われますか?」
「ホークくん、君は一体何者なんだい?」
話を振ってみると、ものすごく警戒された目で見られていることに気づいた。
「何者、と言われましても。僕はホーク・ゴルドですが」
「そうじゃない。君もわかっているのだろう?僕はあまりにも、あまりにも理解が追い付かなさすぎて混乱しているというのに、君は涼しい顔で彼と会話を交わしている。いっそ、君がその古代人の直系の子孫だと言われた方がまだしっくり来るよ」
まあ、そうだよね。AIだのプログラムだの、そもそもがこの世界では一般的ではなさすぎる概念な上に、宇宙船などと言われて『はあ!?』とならずに『ふーん』で済ませているのがまずおかしいのは確かだ。でも、だからといって何もわからないふりをしていてもしょうがないし、何よりそんな嘘を吐いてもローガン様にはバレてしまうだろう。
「俺はただ、あなたの知らないことを少しだけ知っているだけにすぎませんよ。俺が考古学的に古い文字を読めなかったり、歴史について知らないことをあなたが知っているのと同じように、あなたが知らないことをほんの少しだけ知っているだけです」
「少し?これを少しと言い張るのかい?こんなわけのわからない知識を、一体どこで知り得る?世界中探し回ったところで、出てくるとも思えないが」
「どこって、女神...あー...」
そうか。ローガン様には俺が世界線を超えたり女神に会ったことがあることを教えていなかったっけそういえば。そりゃ、メチャクチャ不審に映るわけだよ。いつもの顔触れなら『まあホークだし、迷惑女神かハインツ辺りが余計な入れ知恵でもしたのだろう』ぐらいの軽いノリで流してもらえるのだが、何も知らない人たちからすれば非常に不気味に映るかもしれない。
「わかりました。今度は俺の昔話をさせて頂きます。少し長くなりますが、ご容赦ください」
そんなわけで俺は、日本とかのことはぼかしてザックリとした説明をローガン様にした。生まれつき女神の加護(のろい?)を受けていたこと。魔法実験の失敗により世界線を超えたこと。その際に降臨した女神と出会ったこと。その縁でゼト神に導かれかけたこと。
「...信じられない」
「まあ、普通はそうですよね」
「違う、君のことがじゃない。信じられないような出来事ばかりで、驚いてしまったんだ。君が規格外な子供であることは理解していたつもりだったが、まさかここまでの隠し玉が出てくるとは」
「無理もないですよ。実際、体験した張本人である俺だって振り返ってみればあり得ないだろと思ってますから」
「なるほど、そのような波乱万丈な経験を経たお方であれば、今更わたくしどもの存在にも驚きますまい」
俺の話が長かったせいで、すっかり日が傾いてしまい、薄暗くなってきた城内にLEDっぽい感じの灯りがぼんやりと灯り始める。床や壁に照明が埋め込んであるらしく、真夜中のコンビニレベルで結構明るいのが違和感あるな。基本この世界は魔法の光や炎を利用した魔道具で灯りを確保しているから、電気系の明るさはなんだか久しぶりだ。
「君が悪い子じゃないことは、この一年以上一緒に暮らしてきてわかっている。この船を悪用したりはしないだろうということもね。だが、将来的にどうなるかはわからない。人は、時に道を踏み外す生き物だ」
「実際、そのような経緯で古代人の大半は滅びました。最初は正義に燃えていたお方が、私利私欲や我欲のために狂ってしまったこともございます。若い頃は周囲からの尊敬を集めた立派な女性が、年老いてからは判断を誤るようになり、最後には処断されたこともございます」
「そう、今が大丈夫だったとしても、もし君が何らかの理由で、この船を使って世界の敵に回らないとも限らない以上、どうしても不安は残る。でも、それは僕にも同じことが言えるだろう」
ローガン様は、険しかった表情をふっと緩めて微笑んだ。
「僕だって、老人になった時に、何かの弾みに人としての道を外れてしまうかもしれない。脳が衰えて、今の僕ではなくなってしまうかもしれない。結局のところ、もしも、もしもと悪い可能性ばかりを想像していたところで、そこに意味はないんだ」
だから、とローガン様は、俺と目線を合わせるように片膝を突いた。自分を棚に上げて、相手だけをとやかく言うことはできない、と。
「とても信じ難いことではあるけれど、僕は君を信じるよ、ホークくん。女神の加護を持ち、竜の力を借りながらも、平穏な日常をこよなく愛している、君の善性をね」
彼はそう言いながら、褐色の手で俺の頬に優しく触れた。なんかいい雰囲気出してますけど、頬に触れる必要ありました??などといった野暮なツッコミは、空気を読んでしないでおこう。





