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幕間 労働環境・待遇改善・昇給他

悪徳商会としてこの国の一部の借金貴族やイメージだけで物を言う一般市民たちからは悪い印象を抱かれているゴルド商会だが、その内情は結構なホワイト企業である。基本、残業や休日出勤はさせないし、しなくちゃいけなくなった場合は残業手当や休日出勤手当がちゃんとつく。それ目当てに空残業しようとする奴は普通に処罰されるし。


他にも有給休暇の充実、昇給制度あり、バイトからの正社員への登用あり、歓送迎会や飲み会の一切の廃止、慶弔休暇の導入や傷病手当の支給などなど。他にも社長親子のワンマン経営であるためクレーマーなどは普通に力尽くで追い出したり叩き出したりするし、店員に対する態度の悪い客を怒鳴りつけて追っ払ったりといった暴挙もザラだ。


国全体で見てもここより待遇のいい会社はないぞ、と驚かれるレベルで福利厚生を充実させた結果、国中から結構な数の有用な人材が集まり、ファンタジー世界特有のブラック経営が当たり前な他の会社からは、金に飽かせて有用な人材を囲い込んでいる、と嫉妬されたり陰口を叩かれたりしているが、痛くも痒くもないね。


そんなわけで、高収入好待遇で働きたいならゴルド商会へ行け、という噂が立ち、年々うちに来る人材は増加。もちろん相応に役立たずや無能も大挙して押し寄せてくるが、そういった連中は一次試験でまず落ちるので問題はない。なお、落とされた連中が逆恨みに悪評を吹聴するのは日本でも異世界でも変わらないようだ。


ちなみにこれらは前世日本人だった俺の発案によるものであり、当初は『なんで使い捨ての社員なんかにそんな好待遇与えなくちゃいけないの??非正規雇用の冒険者たちを安く使い潰してナンボでしょ??』みたいな疑問を抱いていたパパを説き伏せ、長期的にそれらを維持し続けた故の成果でもある。


そう、待遇がよくなれば当然社員たちのモチベも上がる。品揃えはいいけど店員のやる気がなかったり態度が悪かったりする店と、品揃えがよくて店員さんたちも明るい笑顔で元気いっぱい、みたいなお店だったら、必然的に客足が伸びるのは後者だ。それが無理矢理愛想笑いをさせられているとかでないなら、なおさら。


かくして今年もゴルド商会には大勢の新入社員がやってきて、俺もカードゲーム専門会社として独立させた『パストラミ社』の代表取締役社長としてそれなりに忙しく働いている。特にカードデザイナーの確保やカード開発部のバランス調整は一歩間違えるととんでもないことになるからな。俺は超高速崩壊環境なんか作り出したくはないぞ。


ストラクチャーデッキの新発売やパックの新弾の発売、定期的に開催している公認大会の運営に、第4回デュエルトレインの運行を鉄道会社に申請したりとやることは結構多い。普段ダラダラゴロゴロしているように見えても、実はそれなりに多忙なのである。




バージルの場合


「不満?特にありやせんぜ。賄い飯も食わしてもらえるし、住むところも提供してもらってやすし、給料だって相場に比べりゃはるかに破格だ。これで不満なんぞ言おうもんならバチが当たるか、他の冒険者連中に嫉妬して刺されまさあ」


「それでも、細やかな不満点とかはあるんじゃない?」


「あるにはありやすが、そんな大したもんでもねえですよ。あれもこれも文句ばっかり垂れてたら、何様だって思われるような人間になっちまいやすからね。適度に耐えたり受け流したりすることも大事なんでさあ」


「そう?まあ、どうしても我慢できなくなったら言ってね。対処するから」


彼の場合は元が万年B級冒険者という、いわゆる負け組の類いであったので、現状に対する不満点などは特にないようだ。ちなみに、住み込みの護衛に個室を与えているというのもA級やS級でもない冒険者相手にはこの世界ではなかなかにあり得ないレベルであるそうだ。女冒険者が愛人も兼ねている、みたいな状況ならばあり得るそうだが、彼は男で俺も男。


つまりは、『万年B級冒険者の冴えないおっさん俺が超絶クソガキと噂の金髪豚野郎の護衛に嫌々なったら普通にいい子だった上にS級冒険者でも滅多にないような超破格の待遇を与えられて一気に勝ち組人生でウハウハ過ぎる件について~なお結婚詐欺には遭いかけた模様~』みたいな状況なわけだね。


バージルには厩舎にいる馬たちのお世話もお願いしているため、それらの汚れ仕事に対する手当には少し色をつけて、それから汚れても問題のない作業着なども新しいものを用意して、あとは安全靴や長靴なんかも新調しないとだ。


「それじゃあ、今年も基本は昇給と有給日数の増加だけでいいかな?」


「ええ。この期に及んでまだ上げて頂けるなんざ恐縮すぎてビビっちまいやすよ、ほんと」


言うて毎年の昇給額は微々たるものなのだけれど、月給が上がれば年に12回分それが積み重なるわけで、それが十年以上続けばまさに塵も積もればだもんね。


しかし、自己評価が低く元々庶民的な気質のバージルはほんと付き合いやすくて助かる。他の面々が濃いメンバーばかりだから、THE・普通みたいな感じの優しいおじさんは癒やし枠だよほんと。前世日本人の俺と感性の近い立場で物事を見てくれる存在は本当に貴重なのだ。


「あ、ひとつだけありやした不満点」


「何?伝説の装備以外のことだったらなんでも言って」


「...たった今なくなりやした」




オリーヴの場合


「こちらからの要求は特にありません。衣食住に収入、全てが揃っている以上、これ以上を望むべくもないでしょう。強いて言うのであれば、いつの間にか坊ちゃんがいなくなっていて数日戻らない、と事後報告で言われることが多すぎるぐらいでしょうか。護衛とは?と疑問を抱いてしまいそうになりますので」


「それについてはなるべく事前に伝達しておくようにするよ。とはいえ、突発的な問題に対処しなくちゃいけないことも多いからなあ」


「わかっています。あくまで俺の個人的なワガママと聞き流してください。今の坊ちゃんにはカガチヒコ先生もいらっしゃいますし、戦闘能力だけならクレソンひとりでも十分事足りるほどにお強くなられた」


「確かに、最近オリーヴには護衛というより秘書みたいな業務を頼むことも多くなったしね」


根っから脳筋のクレソンや最終学歴がなんと一切学校には通ったことがないというバージルにはその辺りは任せられないので、学がありある程度頭の回転や呑み込みが早いオリーヴにはとても助けられている。


パストラミ社だったりゴルド商会だったりピカタ商会だったり、各種スケジュールの調整やすり合わせを完全に一任してしまっているので、今オリーヴに抜けられたら敏腕秘書がいなくなってしまい俺のスケジュール管理が完全に破綻してしまいかねないので、ここは給料大幅アップ攻撃で対応しよう。


「いえ、ただのセンチメンタリズムのようなものですよ。俺たちがいなければ外出ひとつ碌にできなかった坊ちゃんがよくぞここまで成長したものだと、まるで甥っ子の成長を見守るような心境です」


「さぞ不出来なクソガキだっただろうなって自覚はあるから何にも言えません」


「そこまで卑下することもない。坊ちゃんに出会えて、俺はようやく人並みの感情というものを取り戻せたようなものだからな。本当に、感謝している」


やだ、照れる。思わず顔を赤くしてしまった俺をそんな優しい目で見つめないでくださいお願いします、慣れてないんですこういう状況!まだニヤニヤされた方がマシだったよもう。ほんと、こういう素直すぎる爆弾投下ができちゃうところがオリーヴのいいところではあるんだろうけれども。




クレソンの場合


「あー、もっと強い相手と戦いてえんだよな。闘技場でもチャンピオンになったからってんであれやこれやとチャレンジャーどもが挑んでくるけど、大して強くもねェしよォ。ハインツの爺さんやらカガチヒコの爺さん相手にゃいい勝負ができるんだが、いかんせんマンネリだ。格下相手とばっか戦ってっと、腕が鈍っちまいそうで」


「君レベルを調達してくるのってかなり骨だからね??」


ちなみにクレソンはもう8年ぐらいずっと闘技場でのチャンピオンの座を維持し続けている。なんというか、あまりにも一方的に圧勝しすぎてしまうので、防衛戦がちっとも盛り上がらなくて不評らしい。そりゃそうだ。実力的にはちびっこ相撲大会の優勝者にプロの横綱への挑戦権与えるようなもんだからな。チャレンジャーが勝つとは誰も思ってない。


そんなわけで、いっそ殿堂入りさせてしまって名誉チャンピオンとか永世チャンピオンにしてもらった方がいいんじゃなかろうかという気がする。今のまま不動のチャンピオンを続けていても営業妨害にしかならない気もするしな。


「とりあえず俺が相手してあげるよ。戦法や魔法の属性縛り入れれば多少は新鮮味あるだろうから」


「おう!頼むぜェご主人!しっかし、オメエもほんっと強くなったよなァ。最初の頃は俺がちょっと小突いてやっただけで簡単に首がもぎ取れちまいそうなひ弱なガキだったってのによォ!奴隷として買われたときゃいつか食い殺してやろうと思ってたが、今は逆に俺の方が食い殺されちまうかもしれねェと思うとゾクゾクワクワクするぜ!」


ワキワキと拳を結んで開いてしながら、クレソンは楽しそうに笑う。ほんと、戦うことが好きなんだろうな。確かに俺も前世では、頑張って強くしたソシャゲのパーティが敵の最高難度ボスをあっさり倒してしまって戦闘の楽しみがなくなってしまい、そこまで極めた喜びともう四苦八苦したり適度に苦戦したりする歯応えがなくなってしまったことを寂しく思ったりもしたし。


「おかげさまでみんなに揉まれて強くなれたからね。肉体的にも精神的にも」


「これからももっともっと強くなりやがれよな!そうすりゃ俺の楽しみも増えるってもんだ!ほんと、オメエに買われてよかったぜ?これからもよろしく頼むぞご主人!」


鼻歌を歌いながら上機嫌で部屋から出ていくクレソン。後日、俺は彼とキックボクシング的なガチの肉弾戦をやらされる羽目になり激しく後悔することとなるのだが、それは割愛。




カガチヒコの場合


「カガチヒコさんは昨年度からの雇用になりますので、今年度が初の昇給になりますね。とはいえ雇用期間が短いのであまり大掛かりな昇給や有休日数の増加は見込めないので申し訳ないのですが」


「何、追われ者の身で匿って頂けているだけでもありがたきこと。その上多額の禄まで頂いてしまっては申し訳が立ち申さぬ」


「まあ、その辺りは割り切って受け入れてください。カガチヒコさんにだけ逆特別待遇ってわけにはいきませんからね。希望は...砥石?ああ、刀のお手入れ用ですか。そういった備品や消耗品の類いは購入後に領収書を添えて申請して頂くか、俺に直接言ってもらえれば購入時に経費で落としますから、とにかく何かあったらすぐ俺に言ってください」


「かたじけない。お心遣い痛み入り申す」


護衛ではなく用心棒、食客としての立場で雇用したカガチヒコさんに関しても、待遇は他のみんなと大差ない。無駄に広いゴルド邸に空き部屋はいくらでもあるので個室を使ってもらっているし、うちは俺の方針で風呂は絶対欠かさない主義なので、広い風呂に入り放題、飯も美味いものが出てくる生活に不満はないようだ。


「それと金を握らせた空港職員からの定例報告によれば、ジャパゾン国からの入国者情報は全てこちらに抑えてありますので、今のところ追手の影は見当たりませんがそれでも油断は禁物、なんて、言うまでもなかったですね」


「うむ。今の拙者の命はホーク殿に購われた身。其許に無断で討たれたり、書き置きを残して失踪するといった不義理はせぬと誓おう」


「そうしてください。死期を悟った猫みたいに姿を消されちゃったら、世界中探し回る羽目になりますので」


「フッ...たとえ世界中のどこに逃げても、か」


やっべ、ストーカーみたいで気持ち悪く思われたかな?心配性も度が過ぎるとうちのパパみたいな過保護過干渉になりがちだから、善意の押し付けすぎにならないように気を付けないとな。


「あー、勿論カガチヒコさんの意思は尊重しますから、辞めたくなったらいつでも言ってくださいね。その時は円満退職できるように取り計らいますから」


「承知してござる」

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