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第149話 邪魔だし、春のパァン祭り

さて、どこから説明しようか。きっかけは、今年で第98回目を迎えた闘技大会の歴史において、一年生が優勝したことは過去に一度もなかったことだろうか。それとも、留学生が優勝したことも過去に一度もなかったことだろうか。あるいは、その両方かもしれない。


今年はなんと、本選出場者十六名のうち六名が一年生という、ミラクルジェネレーションなどと騒がれるような豊作の年で、しかもそのうちのひとりがピクルス第3王子だったものだから、そりゃあもう裏では貴族たちがあれやこれやと後ろ暗い陰謀を企てまくりんぐだったわけだ。


過去にデーツ第1王子もルタバガ第2王子も、現国王陛下ですらなし遂げられなかった入学1年目での闘技大会の優勝。ピクルス王子の本選トーナメントへの出場が確定した2日目夕方の午後で既に裏では動き始めた者たちがいたのだ。


第3王子派はここぞとばかりに裏工作を開始し、第1王子派もここぞとばかりに妨害工作を開始。水面下での取引、買収、脅迫、その他諸々の陰謀が渦巻く中で、両派閥共に共通していたのは『留学生にだけは優勝させるな』という認識だ。


史上初の1年生優勝、しかも史上初の留学生の優勝。おまけにイグニス陛下が初日の挨拶で煽り散らかしたこともあってか、第1王子派も『最悪第3王子に優勝された方が留学生に優勝されてブランストン王国の伝統と面子を潰されるよりマシ』と思ったらしく、それが巡り巡って派閥争いにおいて下っ端の地位にいたラウララウラ伯爵家への圧力に繋がったのである。


そんなわけで、家族のため、お家のため、やりたくもない汚い手を俺に使わざるを得なくなったゴリウス先輩は、自分が勝って俺を止めるという最後の手段に失敗したことで、俺に超強力下剤を盛って試合に不戦敗させるかあるいは試合中に体調を崩して棄権させるため俺をお茶に誘った、というわけだ。


毒薬でないのは、外交問題を危惧してのことだろう。下剤ならば、たまたまお腹を壊していただけでは?で無理矢理ゴリ押ししようとすることもできるし、最悪『伯爵家の人間が息子可愛さに汚い手を使ったorゴリウスが負けた腹いせに下剤を盛った!最低だ!』でトカゲの尻尾切りをする算段だったのだろう。


だが残念だったな。そもそも子供の頃から毒殺に備えて各種毒物への耐性をつけるべく沢山の毒を摂取してきた...などという過去は一切ないが、魔法により飲食物に毒が盛られているかぐらいは判別できる上に他人の心や記憶が読める俺には通じない手だ。最悪飲んでしまっても回復魔法で解毒すればそれで済む。


そんなわけで、観念して素直に白状してくれたゴリウス先輩の潔さに免じてコーヒーを飲んであげた後で、速やかにトイレに移動しローリエと父上に連絡。準優勝おめでとうパーティが終わった深夜、俺たち三人+転移魔法でお呼びしたピクルス王子とローザ嬢、それとついでに王城から拾ってきたイグニス陛下が父上の書斎に集合したのであった。


イグニス様、俺がわざと負けたの丸わかりだったみたいだからな。ものすごくもの言いたげな目をしていたのだが、さすがに閉会式でやらかすことはしなかったものの、下手すりゃ明日にでも屋敷に乗り込んで来そうだったので、先んじて事情を説明しておくことにしたのだ。


「由々しき事態と言えるね」


「ええ。王妃が植物人間状態となり大幅に力を失った第1王子派はまだしも、それで調子付いた第3王子派までもがこのような暴挙に出るだなんて」


「せっかくホークちゃんが優勝できるはずだったのに!許せないよ!」


「旦那様。お怒りになられるとまた血圧が上がってしまわれますよ」


「どこの国であろうと、所詮一皮剥けば内情はこのようなものだ。時にホーク、そのゴリラといったか?そやつは迎えに行かんでよいのか?」


「ゴリウス先輩をですか?」


「うむ!俺の見立てが確かならば、そやつ、死ぬぞ。口封じに殺されるか、自分から腹を詰めるつもりかはわからぬがな」


「うえ!?」


確かに、あの真剣勝負を汚い手で穢すとか絶対許せないし、汚い手を使ってしまった自分が一番許せない、みたいな態度だった先輩ならあり得なくはないかもしれないけれど。今から伯爵家に...ダメだ。会ってもらえるかもわからない。王子を連れて行こうにも、王子がラウララウラ伯爵家を訪問したことがばれたら面倒なことになる。では転移魔法でこっそり忍び込むか?ラウララウラ伯爵家になんか一度も行ったことがないから無理だ。


「しょうがない、召喚魔法で無理矢理呼び出しますから、皆さん離れていてください」


「そんなことができるのかい?」


俺は自室から魔導書を大急ぎで持ってくると、召喚魔法術式が記載されたページを開き、詠唱を開始する。召喚魔法なんてほとんど使ったことがないからな。参考書があるなら参考にするに越したことはない。


「時よ!ホークの名において命ずる!時空を超えて来たれ!汝の名は、ゴリウス・ラウララウラ!!」


「へ?」


「まあ、ご立派」


「キャー!?」


「う、うわあああー!?」


丁度お風呂に入っていたのだろう。素っ裸で召喚され、書斎の床に思いつめた顔で体育座りをした状態で現れたゴリウス先輩が、悲鳴を上げて真っ赤になり、生娘のように両手で体を覆う。すみません、わざとじゃなかったんです!ほんとすんません!!


「それで、自害する前に身を清めていた、と?」


「ええ。一度悪事に手を染めさせられてしまった以上、仮に騎士団に入団できた後も、俺は生涯派閥の汚れ仕事を押し付けられ続けるでしょう。幸い俺には弟がふたりもいます。伯爵家はそちらに継いでもらえばいいだけですから」


とりあえずバスタオルと着替えをローリエに頼んで持ってきてもらった俺たちは、まだ顔が赤いゴリウス先輩を囲んで事情聴取を始める。ローザ嬢はゴリウス先輩のゴリウスティックインパクトが抜けてないのかまだ顔が赤いが、まあ年頃の淑女だしな。それに比べ顔色ひとつ変えずにご立派とかなんとか言い放ったローリエはさすがだ。


「本当に、申し訳ございませんでした。ホークくん、ゴルド様、ピクルス様、ローザ様。どうかこの俺の命に免じて、ラウララウラ伯爵家には寛大な処分をお願い致します」


「いや、ここで君たちを処分したところで意味はない」


「ええ。あなたが命を投げ出したところで、いずれその弟さんたちのどちらかが同じように利用されるだけですわ」


「ホークちゃんに下剤を盛ったことは許せないけれど、脅されてやったことだと言うのなら、まずはそっちに鉄槌を下してやらないと意味がないのだよ君ィ」


「皆様...ありがとう、ございますッ!」


土下座しながら涙ぐむゴリウス先輩。ここで先輩に自害されてもまるで無意味なのは確かだしなあ。闘技大会という青春イベントの裏でひとりの学生をそこまで追い込むようなきたねえ大人たちを許せないという気持ちもあるし。俺というイレギュラーが介入したせいで発生した事件であるとするならば、なおさら見捨てられないでしょう。


そんなわけで、ピクルス様やローザ嬢を巻き込んでの一大粛清、と相成ったわけなのだが、そこからはもう、出るわ出るわ、叩けば叩くだけ埃が出てきて、芋づる式にこの国の暗部の一端が明るみに出るはめになった。


というのも、闘技大会を使って誰が優勝するかの賭博が開催されていたらしく、一部の貴族たちもズブズブに金を注ぎ込んでおり、最初っから利権や思惑まみれの薄汚い陰謀が絡みついていたのだから呆れるよりない。


何より係わっていたのがこの国の中枢部に位置する一部の権力者たちであったがために、粛清したらその後釜をどうするのか、みたいな問題も浮上してしまって、既に逃げる準備を始めた者もおり迂闊には手を出せない状態なのだ。かといって野放しにするわけにもいかず、やはり日本でも異世界でも、上層部の腐った連中というものは非常に厄介であることが窺える。


「いっそこの俺がこの国を攻め落とした後で彼奴等を処断し、マーマイト帝国ブランストン自治領として現国王を領主に指名した方が手っ取り早いのではないか?」


「洒落になってないのでやめてください!」


大粛清の嵐が吹き荒れた後で、一部大臣が更迭されたりどこぞのお偉いさんが事故で亡くなったり一部の貴族が代替わりしたり、隠居だ隠遁だなんだと色々あったものの、概ね一年分のエアコンのフィルター汚れを掃除するぐらいの感じで国内上層部がスッキリ風通しがよくなった数日後。


俺は国に帰る前に美味い魚のフライとフライドポテトが食べたいというイグニス陛下のためにオススメのB級グルメのお店でランチを楽しんでいた。


ここのお店は500mlのペットボトルかな?ってぐらい肉厚でボリュームのある新鮮な新鮮な白身魚のフライと、どんぶり飯かよ!みたいな山盛りのフライドポテトが安く食えることで大人気なのだがその晩から翌日にかけて確実に胃が死ぬこと間違いなしのデンジャラスなお店なのだ。でも、美味しいからついたまに来ちゃっては死ぬほど後悔するという繰り返しなのよね。


「だが、腐敗の根というものはそなたが想像しているよりもはるかに根深く複雑に国という地盤に絡み付いておるものだぞ?一掃しようとすれば痛みを伴うし、新たな後任を据えたところでいずれそやつが腐り落ちぬとも限らぬ。結局のところ、人が人である以上汚職や権力の乱用などはなくならぬものなのだ。この俺とて、老い衰えれば耄碌せぬとも限らぬ」


そうなんだよな。それじゃあ全員を殺しましょう、昏睡させて植物状態にしてしまいましょう、追放するなり窓際族に追いやったりしてしまいましょう、なんてやったところで、全てが解決するわけじゃない。どれだけ対処しても、相手は人間なのだから。


俺たちにできることは、一連の事件にまつわるいくつかの主犯格を見せしめに処分することで、少なくともラウララウラ伯爵家が不利益を被ったり、同じように悪事に手を染めさせられる若者が出ないように目を光らせることだけだ。難しいね。こんな時なろうだったら、スーパーNAISEI主人公が全てをまるっと綺麗に解決してくれるのに。


そう考えると、チートNAISEIとか成り上がりみたいな、勧善懲悪ものの全てを根こそぎバッサリスッキリ解決してくれるような爽快な物語が人気になるのも納得のできる話なのかもしれないと今になって思う。


「将軍家にも、そういった後ろ暗い人の暗部はいくらでもあり申した。拙者も大名家の指南役として、政を司る者たちに辟易させられたことも一度や二度ではござらぬ」


「そうなんですか。やっぱりどこも似たり寄ったりなんですねえ」


「うむ。俺とて、マーマイト帝国の貴族や業突く張りの商人どもにはほとほと手を焼かされておるゆえな!挿げ替えても挿げ替えても腐った首しか生えてこぬのだから堪ったものではないぞ」


「ほんっと人間ってェのはめんどくせェなァ!」


陛下の護衛のため、一緒に来てもらっているカガチヒコさんはさすがにドカ盛りの揚げ物は遠慮して普通に白身魚や野菜のフライを清酒の肴に堪能しているし、クレソンは山盛りの千切りキャベツを頬張りながら次々俺がひとつ食べるのにも難儀するような白身魚のフライを山盛りのどんぶり飯と一緒にかっ込んでいる。


ちなみに殿下にわざと勝ちを譲って準優勝に甘んじたことに関して特にお叱りは受けなかった。変に目立ったり、その必要もないのに出しゃばってもいいことなんかない、という共通認識が俺たちの間にあるというのも大きかったのだろう。『そなたが正しいと信じたことを成したのならば、それでよい』とのことだ。


余談ではあるが、3位決定戦にて惜しくも敗れてしまったものの、学院内外から『今年の一年生はバケモノ揃いだ』と恐れられたらしい今年の闘技大会で4位に入ったゴリウス先輩は、だいぶ人事異動や大幅な配置換えのあった後の新生騎士団からの内定を無事にもらったらしく、卒業したら騎士団に入団して働くことにしたらしい。


いずれは伯爵家を継ぐようなので、それまではしっかり揉んでもらうことにするよ、と屈託のない笑顔で言ってくれたので、きっと大丈夫だろう。悪人のせいで誰かが犠牲になったり不幸になったりするところなんて、見たくないもんね、ほんと。

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