第142話 あなたはいつでもタイフーン
「おお!こんなところにおったか我が若獅子よ!探したぞ!」
「げッ!?陛下!」
「何、そう露骨に嫌そうな顔をするな友よ!我が繊細なハートが傷ついてしまうであろうが!」
見つかるなり大笑いしながらヘッドロックをかけられグルグルと振り回される俺とイグニス様の様子を、周囲の人間たちは恐る恐るといった感じで遠巻きに見ている。そりゃ最近もどっかの国を戦争で攻め落としたばかりともっぱらの評判の軍事国家の皇帝陛下が普通に廊下を歩いてたらおっかないよな。気持ちはわかるわ。
「来るなんて伺ってませんでしたから驚きましたよ」
「うむ!サプラーイズ!という奴だな!そなたの反応を見た限りでは、大成功を確信したぞ!どうだ?このような狭苦しい場で独りぼっちで次の試合を待っておるより、俺と共に上等なシャンパンでも飲みながら来賓席より試合を観戦するというのは!」
「あいにく今日の俺は独りぼっちじゃないので遠慮しておきますってば」
俺が親指でさした先には、ピクルス第3王子、公爵令嬢ローザ様、平民のヴァンくんが困ったような表情で立っている。
「お初にお目にかかります。ブランストン王国第3王子、ピクルス・ブランストンと申します」
「その婚約者、ヴァニティ公爵家の長女、ローザと申しますわ。お目にかかれて光栄です、皇帝陛下」
「えーと、ポークの友達のヴァンです。初めまして」
「おお!ポークの友であったか!そなた、同年代の友達がひとりもおらぬゆえ、金で侍らせた中年男どもで孤独を慰める寂しい男なのではないかと心配しておったが、杞憂であったのならば何よりである!」
「陛下おいこらテメエ!」
抱き上げられたままなのでゲシゲシと靴の踵で陛下の膝を蹴っ飛ばしてやるが、全く堪えた様子がないのが非常にムカつく。ムカつくんだけど、何故か憎めないのがこの人の人柄なんだよな。嫌味がないっていうか、サッパリしているっていうか。
「我こそがマーマイト帝国現皇帝、黒獅子イグニス・マーマイトである!苦しゅうないぞ、ブランストンの子獅子らよ。我が臣下、ポークの友であるそなたらには特別に無礼講を許す」
「我が臣下、ですか?」
「うむ!こやつは余が全幅の信頼を置く出入りの商人であるがゆえな!」
「なるほど、ポークくんはそうなのでしょうね。ポークくんは」
「何、いずれこやつの全てが余の下に下る日もそう遠くないであろう。のうポーク?」
「ノーコメントで」
バチバチと、ピクルス王子とイグニス皇帝の間でとてもイイ笑顔のまま火花が散る。やめて!私のために争わないで!ってか?
実際、ゴルド商会が国に収める莫大な税金はかなりのものだし、俺がプロデュースを手掛け父が現実的に練って実現に漕ぎつけたことで今年から実験的に開店した世界初の24時間営業がウリのコンビニもどき、ゴルドマートはブランストン王国だけでなく、マーマイト帝国やヴァスコーダガマ王国でもかなり話題を呼んでいる。
そのためゴルド家がブランストン王国からマーマイト帝国に移住した場合の経済的影響は結構測り知れないため、ピクルス王子としてはゴルド商会を帝国に奪われるわけにはいかないわけで。
「とりあえず、俺は友達と一緒に過ごしてますから、陛下は貴賓席にお戻りくださいよ。どうせ勝手に出てきたんでしょう?あんまよその国で迷惑かけちゃダメですよ??」
「つれんなあ」
「いっつもおっさんばかりのむさ苦しい空気を吸ってるような寂しい男ですからね。たまには若さを吸引しないと老けちゃうかもしれませんし?」
「むしろ若返りすぎてまた子供に戻ってしまうやもしれぬぞ?」
「それは嫌すぎますね...何が嫌って実際にあのクソめモガ!」
女神、と言いかけた俺の口を、陛下の大きな手が咄嗟に塞いでくれる。センキュー陛下!危ないところだったぜ!
「まあよい、若人同士の交流に割って入るほど余も無粋な男ではないからな。そなたら、ポークを頼んだぞ。余に取り上げられたくなくばな?」
「ええ、お任せください」
「大事なお友達ですもの」
「もちろんです!」
ここで頷いてくれる辺り、俺は本当にいい友達を持ったものだと思う。数ヶ月に一回ぐらいの頻度しか顔を合わせられていないが、なんでここまでよくしてくれるんだろうなほんと...って、そういや俺、恩人だったなこの三人の。王妃も相変わらず植物人間状態での寝たきり生活が続いているようだし、公爵家も今のところ安泰みたいだし。
「うむ、ならばよい!ではな、そなたらもよい戦いをするのだぞ!ワハハハハ!!」
嵐のようにいきなりやってきて、掻き乱すだけ掻き乱して去っていった陛下を見送り、残された俺たちは顔を見合わせる。
「すごい人だね。ああいった方とは、絶対に敵対したくないものだよ」
「敵対したら戦争とか洒落にならないですからね。平和を守るためにも、頑張ってください」
「他人事のように仰っておりますけれど、此度の原因はあなたではなくって?」
「いやいやいやいや、俺もわりと被害者枠でしたからね?」
「さすがにそれは無理があると思うぞ」
なんて話してる間にも、次の試合時間が迫ってきてしまっている。試合が進めば進むほど参加者が減っていく性質上、当然ではあるのだが、正直全然休めなかったぞおい。





