第132話 ホーム・カミング
「ご主人ゴラァ!!俺ァ言ったよな?また誘拐されちまいそうになったら堪ったもんじゃねえからよォ、ひとりでフラフラ出歩くなっつたよなァ??」
「あだだだだ!?ギブ!ギブ!」
「反省の色がちっとも見えていないのだが?」
「ごめんなさい反省してます!次からはちゃんと起こしてついてきてもらうことにするから許してェ!!」
グリグリ攻撃とか拳骨って今はもうやれないらしいね。なんでいきなりそんな話をしたかというと、俺が今現在進行形でクレソンのグリグリ攻撃を食らっているからだ。といっても、本気のそれじゃない。本気でやられたら頭蓋骨を余裕で砕かれちゃうだろうからね。あくまでちょっと痛い、ぐらいの感じで、クレソンにチョークスリーパーをゆるーくかけられ頭の天辺をグリグリされている。
「あー、その、なんだ。拙者が言えた義理ではないやもしれぬが、それぐらいにしてやっては頂けぬか」
「ったくご主人よォ!ちいっと目ェ離した隙に、まーた変なもん拾ってきやがって!」
「クレソン、変なもんとはさすがに失礼だ。カガチヒコさんと仰いましたね。自分は筆頭護衛のオリーヴであります」
「あー、悪かったな爺さん。クレソンだ」
「カガチヒコ、と申す浪人にござる。此度は縁あって、しばしの間ホーク殿の用心棒として招かれることと相成り申した」
いわゆる仮採用期間って奴だ。もしブランストン王国で他に仕事ややりたいことが見つかったらそのまま辞めてもらって構わないし、続けてくれるというのなら引き続き食客として招き入れる感じで、ということで一旦は話がついた。
「それじゃ、違う追手や次の追手が来る前に、さっさとチェックアウトして帰ろう」
「それがいいだろうな。あーあ、俺も朝風呂しようかと思ってたのによォ」
「ごめんて。また今度みんなで来ようよ。ね?」
これ以上の無用なトラブルが起きてしまう前にと、さっさと着替えて荷物をまとめ、旅館のチェックアウトを済ませた俺たちは、人目につかぬところへ移動すると、転移魔法でゴルド邸の俺の部屋に繋がる門を作り出す。
「なんと!?魔法とは斯様に摩訶不思議な代物であったか!!」
「なんだ爺さん、魔法、実際に見たことなかったのか?」
「ジャパゾン国は数十年ほど前まで鎖国していた国だからな。魔法や魔道具といった文化が流入し一般に普及し始めたのもここ十数年ほどの事と聞く」
「話は後!ほら、とにかく潜って潜って!」
もしあのくノ一が何かの弾みに目を覚まして追ってきたりしたら面倒なことになるからね。
「よもやこのような不可思議なまじないがあるとは、魔法とはげに恐るべきものにござる!」
全員が俺の部屋に移動したので転移門を閉じると、カガチヒコさんは狐につままれたような顔でキョロキョロと物珍しげに室内を見回し始める。
「雇用契約書を作りますからカガチヒコさんは俺と一緒に来てください。オリーヴ、荷物の片付けよろしく。クレソンは洗濯物だけローリエんとこに持っていってくれる?」
「承知した」
「あいよ」
「承知仕ってござり申す」
しかしまあ、狂戦士に軍人に侍と、おおよそ統一感のないパーティだ。RPGだったらもうちょっとバランス考えようよってなるかもしれないが、やはり物理で圧殺できる脳筋戦法は最高に頭がよい戦法なのでしょうがない。
その場合俺はなんだ?魔法使いか?それとも賢者?いや、商人か。
「ああそうだ、ひとつ言い忘れてた。お帰り、クレソン」
「...おう!ただいまだぜ、ご主人」
俺の金髪をワシャワシャとかいぐって、鞄から取り出した袋詰めにされた洗濯物を持って、鼻歌を歌いながらクレソンが出ていく。オリーヴは残りの荷物を鞄から取り出し始めた。
「それでは行きましょうかカガチヒコさん。改めまして、ようこそゴルド商会へ。用心棒として、今後頼りにさせて頂きますよ、先生」
「うむ、よろしくお楽しみ申す。しかし、先生はよして頂けるとありがたく」
「では、なんとお呼びすれば?」
「カガチヒコ、と呼び捨てにしてくだされ。拙者はもはや先生でも何でもない。ただの浪人一匹にござるゆえ」
「では、カガチヒコさんで」
「あいわかり申した。不束な流れ者ではあるが、よろしくお頼み申す、ホーク殿」
長い尻尾を器用にくゆらせながら、カガチヒコさんが腰を曲げ、深々と頭を下げる。
カガチヒコ が 仲間 になった !
そんな一文が、ふと脳裏に浮かんだ。
子豚のお休み編はこれでオシマイですね
次はカガチヒコさんの試運転がてら何か書くかーと思いつつ特に何も思いついていないという
まあいつものことなのですが