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第126話 消えたクレソンの行方

「壊滅した?ヤネマコ族が?」


「ああ。しかも、やったのはあんたの探してるっつうクレソンって野郎さ」


冒険者ギルド、ジャパゾン支部の副支部長をやっているというアラフォーっぽい女性、キリカさんとやらに部屋を借り、俺たちは色々と話をすることにした。


ペコと言ったか。そういや昔、奴隷市場でクレソンを買った時にスルーしたケモ耳美少女。この十年ぐらい奴隷市場から脱走してスラム街で浮浪者をやっていたところをたまたまヴァンと仲よくなったらしい彼女は、ヤネマコ族の族長であったクレソンの父が死んだことで故郷に呼び戻され、次の族長を決める戦いに参加することになったらしい。


ただ、ひとりで行くのは不安だからヴァンにもついてきて欲しい、とねだり、お人よしでなおかつ未来のハーレム主人公であるヴァンは友達のためならと快諾。学院を休んでふたりで遠路はるばるここまでやってきたはよいものの、そこでクレソンが揉め事を起こしたらしい。


『悪ィけどよォ、俺は族長なんぞになるつもりはねェぞ。んなもんただ面倒なだけで、いいことなんぞひとっつもねェしな』


次期族長として有力視されていた部族の若者や、もう十年以上一度も顔を合わせていなかったけどクレソンには父の後を継いで立派な族長になってもらいたいと主張するクレソンの家族たち、その他族長の座を狙う若者たちに、最も強き者が族長になるという伝統の掟を重んじる老人たち。


『親父が死んだっつゥから葬式に顔出しに来てやっただけだ。族長の座になんぞこれっぽっちも興味ねェからよォ、後はオメエらだけで勝手に争ってりゃいいさ。どうせ誰が頭になろうがおんなじだ』


ヤネマコ族の長として、武人として、立派な漢だった父親とは似ても似つかないけったいな態度の息子にまず家族がキレ、族長の座なんてどうでもいいという態度にクレソンの父を慕っていた若者たちがキレ、最後にお前らみたいなザコなんぞ所詮ドングリの背比べだし、みたいなニュアンスで侮辱されたと思い込んだ血気盛んな次期族長候補たちがキレた。


勿論ペコも、栄誉ある次期族長という立場を蔑ろにして軽んじたクレソンの態度に憤り、他の戦士たちと一緒に挑みかかったが密林の一角を丸ごと消し炭にするような大雷撃魔法を超凝縮し、己の肉体に纏わせスーパーサ〇ヤ人のごとくバチバチと全身から弾ける紫電の輝きをその身に帯電させ戦うクレソンの一撃であっさりぶちのめされてしまったらしい。


『オメエら、どいつもこいつもくっだらねェなァ。狭ェ世界で誰が一番だの誰が最強だの、群れてなきゃ戦争ひとつ碌にできねェような奴らがまとわりついてくるんじゃねェよ鬱陶しい。全員で束になっても俺ひとりに勝てねェような奴らの頭が誰になろうがどうせ何も変わりゃしねェんだ。そんなくっだらねェもんに俺を巻き込むなバカどもが』


弱者の都合なんてお構いなし。他人の都合なんて知っちゃこっちゃなし。誰になんと言われようが、継ぎたくないものは継がないし、いたくない場所にはいたくない。まさに自由奔放という言葉が似つかわしい無頼漢によって、全員半殺しにされたヤネマコ族と、ペコと一緒にその場に居合わせたヴァンを残して、クレソンはそのまま行方を晦ましてしまったそうだ。


なんというか、彼らしいなと思う。たとえ血の繋がった家族であっても、自分の足を引っ張るなら首がもげそうな勢いで足蹴にして、本能のままに自由に生きる力ある獣。半端にゴルド商会を継ぐのかとかそしたら後継ぎはどうするんだとか最悪結婚?みたいに思い悩んでいる俺がバカらしく思えてしまうほどに、こざっぱりとしたその生き様には憧れすら覚えてしまう。


しかしまあ、俺の護衛トリオもこの十年で随分とインフレしたもんだ。


竜神の直弟子である俺が護衛の必要がないぐらい強くなってしまったので、負けじと三人もそれぞれに努力した結果、クレソンは全身に紫電を纏わせて戦う一発拳が掠っただけで即アウトの人間凶器だし、オリーヴは魔法による武器錬成のスペシャリストだし、三人の中では一番戦闘力の低いバージルもA級賞金首相手にどてっ腹ぶち抜くほどの猛者になり。


そんなクレソンが後れを取るとは思えないのだが、一体今どこで何をしているのだろうか。


「そんなわけで、クレソンの雇い主であることがばれたらタダじゃ済まないだろうから、口外しない方がいいぞ」


「いつまでも帰ってこないと思ったら、そんなことになっていたのですね。ご忠告ありがとうございますヴァンくん」


とはいえそれでぶちのめされた側は大変だ。クレソン一匹に部族を丸ごと潰され、弱者のレッテルを貼られたまま勝ち逃げを許してしまったのだから。次期族長を決める勝ち抜きトーナメント大会そっちのけで現在ヤネマコ族の山猫獣人たちが血眼になってクレソンを探しているらしく、それはペコも同じらしい。


なんか雰囲気的に、クレソンの首を獲った奴が次の族長だ!みたいな雰囲気がなし崩し的に蔓延しているらしく、こんな屈辱を受けたままじゃ王国に帰れねえ!とリターンマッチを挑む気満々でここ首都に滞在していた矢先に、俺たちと出会い、そして今に至るというわけだ。


「おいヴァン!そんな奴に親切にしてやる義理なんかねえぞ!俺が撃たれたの見てただろ!?」


「あれはいきなり爪を剥き出しにして襲いかかったお前が悪い。十年前に悪口を言われたからっていきなり今暴力に訴えるなんて、さすがに限度ってもんがあるだろ?」


「だからって撃たれたんだぞ!?血が沢山出たの見てただろ?」


「お前の爪で切り裂かれたらそれ以上の大怪我だっただろうな」


「そんなんテメエの自業自得だろうがクソ豚野郎!!」


「ペコ!!」


「ッ!ヴァンのバカヤロー!なんで俺よりそんな奴を庇うんだよッ!!」


解毒してやるとまた襲ってきそうだという理由で、回復魔法で傷こそ癒やしたものの未だ痺れたままの状態で絨毯の上に転がされているペコがものすごい目で俺を睨むが、オリーヴが再び懐に手を伸ばしかけると黙り込む。やっぱり俺の目に狂いはなかったな。あの時、クレソンの方を買って大正解だった。


こんな狂犬みたいなメスガキが傍にいたんじゃ、気が休む暇もなさそうだ。やっぱり暴力女はクソ。しかも、最後ラブコメくせえ臭いをプンプンさせながらプンプン怒ってるし。あれだな、さすがはヴァンだ。無自覚女たらしなのが実に主人公っぽい。


それも、ここで美少女だからというだけの理由でこいつに味方するのではなく、ちゃんとこいつの非を認めた上で俺の味方をしている辺りが、昨今のサイコパススマイルがとてもよくお似合いの量産型チーレム主人公ではなく、一昔前のちゃんとした商業作品の主人公っぽいのが好印象だ。


「とりあえず、クレソンが狙われているというのはよくわかりました。でも、それならなんでさっさと帰ってこないんでしょう」


「そりゃ、飛空艇の発着場を見張られてるからじゃねーの?」


何言ってんだお前バカか、みたいな目でキリカ氏が俺を見つめてくる。


「見張りなんて叩きのめせばそれで済むじゃないですか。それなのにまだ飛空艇に乗ってないってことは、何か理由があるのかもしれません」


「理由ってなんだよ?」


それがわかりゃ苦労しねえんだよババア、みたいな目で俺がキリカ氏を見つめる。


いいね、この視線だけで応酬する感じ。ちょっと楽しい。


「とりあえず、現状を把握できましたので、こちらで独自に彼を探してみることにします。お騒がせしました。ヴァンくん、貴重な情報ありがとうございます」


「いや、いいさ。迷惑かけちゃったお詫びってことで」


「では、この一件はこれで水に流すことといたしましょう」


「勝手に決めんなァ!!俺は納得してねーぞ!!せめて一発ぐらいぶん殴らせろこの豚ぐが!?」


煩かったので闇魔法で眠ってもらった。できれば永眠させたいのだが、曲がりなりにもヴァンくんのお友達だしな。よかったな似非ケモ娘。ヴァンくんに感謝しなさいよほんと。


「ヴァンくんも大変ですね。この調子ではトラブルが絶えないのでは?」


「あはは、まあな。でも、根はいい奴なんだよこいつ。なんだかんだで、今回のことだって、部族のみんなのためを思ってのことだし」


「クレソンは僕の護衛です。彼が自分の意思で族長になりたいから護衛を辞めると言い出すならばともかく、彼の意思を無視して嫌がることを無理強いするというのなら、僕も戦いますよ」


「そうだな、無理強いはダメだ。でも、部族の人たちやペコは、せめて今のモヤモヤした状況にケリをつけて、スッキリしたいと思ってる。勝つにせよ、負けるにせよだ。自分の言いたいことだけ言って、場を乱すだけ乱して知らん顔で勝ち逃げして、後のことは知ったこっちゃない、ってのは、無責任だと俺は思う」


だから、とヴァンくんは俺の目をまっすぐに見つめた。


「もしクレソンさんが見つかったら、その時はもう一度だけ、みんなの前でペコと1対1で戦わせてやって欲しいんだ。あんな場外乱闘みたいな形じゃなく。それで負けたらきっとスッキリする。頼むホーク、いや、お願いします」


深々と頭を下げるヴァンくん。君は本当にいい奴だな。ハーレム要員のためとかあっさいうっすい理由ではなく、ペコと部族の人たちのことを真剣に考えてそう言える君の人間性が、俺はとても好ましいよ。


「わかりました。友達の頼み、ですからね」


「ありがとう、ホーク」


「いえ、いいんです。君には結構お世話になりましたから」


「お世話になっているのは俺の方さ。ホークがいなきゃ、今頃俺は父さんのことも誤解したまんまだっただろうし」


昔話に花が咲く。今の学院内の様子とか、ローザ様やピクルス様、メアリ、ついでにサニーのことなど。まさかジャパゾン国に来てヴァンくんと再会し、こうしてお喋りすることになるなど出発前には予想もできなかったことだが、こういった奇妙な縁というのもまた、珍妙不可思議でおかしくも楽しいものだなと、俺は思った。

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