第13話 天然なのか養殖なのかそれが問題だ
「まあ、そんなことがあったのですか」
「そんなことがあったのですよ」
「宗教家とか、研究家とか、お布施や研究費用絡みで世の中とかくお金絡みのゴタゴタは多いですからねえ。お父様もそう言ったお話をお断りするのに難儀なさっていらっしゃるのでは?」
「はは、あの業突く張りでがめつい成り上がりと噂される父ですよ?教会からの使者を詐欺師と怒鳴りつけて半殺しにして追い返した時点で、ゴルド商会にたかろうとする物好きはいないでしょう」
ミント先生の特にいけなくはない魔法授業は順調だ。最近では少しずつ闇属性の魔法を使えるようになってきた。そして使えるようになってきてわかったことがひとつ。この世界の11種類ある魔法属性、分類が結構ガバガバなのだ。
例えば相手の視覚を奪い暗闇状態にする魔法、相手の声を奪い沈黙状態にする魔法、相手の聴覚を奪い何も聞こえなくさせる魔法。これ、全部闇属性魔法である。即死魔法とか相手を毒状態にする魔法とか、とにかく『なんか悪そう』な魔法は全部闇属性。
風評被害甚だしくないか?と思わなくもないが、とかく闇属性にはデバフや状態異常を付与するものが異常に多い。闇を操るよりも、他者への嫌がらせに特化している感じがなんともファンタジーというかゲーミングな感じだ。
ちなみにあの一件以来一週間ぐらい落ち込んでいた妹はしかし、こちらがなんでもない風に接してやっているうちに元通りになった。ただし、書き取りをしたいとは一度も言い出しては来ない辺り、金銭の重みを身をもって思い知ったのだろう。
ハイビスカスは保身のためというか妹のためにマリーを売ったという負い目があるためか、以前よりもあきらかに暗い顔をするようになった。ただし、さすがにマリーの前ではそれを隠しているようだが。あと、俺の目や顔を見ないようにしているのが丸わかりすぎて笑う。
それでも妹のために健気に自分を殺す姿は、社会人って大変だなとしみじみ思わされるばかりだ。守るものがあるから人は強くなれるというのは定番の台詞だが、それは同時に弱点が増えることでもあるんだよな。
その点、俺が大事なのは自分だけだから身軽でよい。もし父や妹が人質に取られても、残念ながら涙を呑んで見捨てることを選ぶだろう。だって誰しも我が身が一番可愛いものだし。まあ、そうでない人間もああして頑張って働いているわけなのだけれど。
「でもまあ、気持ちはわかりますよ。うちの研究棟も予算はいつもカツカツですからねえ。皆さんパトロン探しに余念がなくて。私も、ホークくんの家庭教師なんだから、その縁でゴルド家の融資でも引っ張って来いってせっつかれてますし」
「それはそれは。ちなみに、ミント先生は大学を卒業なさったら大学院へ進学するおつもりで?」
「いえ、私は在学中に教員免許を取得して、大学卒業後は王立学院で教師になるつもりです。そうなったら、いつかホーク君の担任の先生になるかもしれませんね」
「それは楽しみです」
「そういえば、マリーちゃんも闇属性魔法の適性がある子なんですか?」
「いえ。あいつは光属性魔法の適性の持ち主ですよ」
ちなみに父は闇属性魔法と金属性のふたつに適性があり、母は水属性魔法の使い手だったらしい。さすが不義の子、とは言うまい。別に親の遺伝がそのまま100%子供に受け継がれるわけじゃないみたいだしな。ただ他の属性よりかは受け継ぎやすいってだけで。
「小さい子は感情が高ぶったりするとひょんなことから魔力を暴走させたり魔法を暴発させたりしてしまうこともありますから、あまり目を離さないであげた方がいいと思いますよ」
「ふむ。覚えておきましょう」
しかし、それとなく大学や学者ギルドのゴタゴタの話をしてみたり、妹の魔力の話題を出してみたりと、おとなしそうな顔をしてなかなかやり手だなミント先生。
前者は自分のパトロンになりませんかアピール、後者は妹さんの方の面倒も見てあげましょうかアピールと取れなくもない。この手の天然ボケっぽいキャラが腹黒いというのはありがちな設定だ。
前世でも中年親父はバカっぽい美少女を好み、バカっぽい美少女はあくまでぽいだけで実は計算高く、親父どもを転がすためあえてバカっぽいフリをしている、みたいな話があったが、やはり女は魔物らしい。
まあ、一切そういったつもりはなく、本気でただの天然である可能性も捨てきれなくはないが、そこまで女性という生き物に夢を見られるほど初心でも純朴でもないのだよ僕は(六歳児)。





