第109話 ホーキィ・ゴォールドと砂漠の迷宮
前章はBL臭があまりにきつすぎると一部でお叱りを受けてしまったので今章はバランスを取るために可愛い女の子がホークに急接近するゾ☆(重大なネタバレ
「国宝?これが?」
「ああ、建国以来伝わるものだそうだ。とはいえ、ただの壊れた懐中時計にしか見えないけどね」
ゴルド商会の娘ということで、王立学院で壮絶にいじめられていたために魔道具を使っていじめから逃れ、友達のひとりもできない代わりにいじめもないぼっち生活を入学から数ヶ月ほど送っていたことを黙っていた妹のマリー・ゴルドに、ヴァスコーダガマ王国への留学を勧めたところ、1も2もなく飛びついた。
よっぽど寂しい学院生活が堪えたらしい。ローザ様やサニーも目をかけてくれてはいたそうだが、ふたりは上級生であり出会う時間は限られる。しかも、来年には高等部に進学してしまうため、ますます距離が空いてしまう。
そこで、心機一転、異国の地で頑張ることに決めたらしい。父はマリーの意思を尊重し、母も寂しがったが、本人の意向もあり、時々は帰ってくることを条件に留学の許可を出した。時々っていうか、魔道具使えば毎晩でも帰ってこれるんですけどそれは。
幸い、王兄であるローガン様のご威光と国王であるジョッシュ様の推薦状により、ブランストン王国側に選択権はないも同然。かくしてマリーは交換留学生として、異国の地にハイビスカスと共に旅立つ運びとなったのであるが。
「魔法、も特にかけられてはいませんね。なんで壊れたとか記録は残っていないんですか?」
「過去に何度か、この国が戦火に包まれたこともあるからね。そういった記録や伝承の多くは失伝してしまっているのさ」
どうせ行くならついでにとばかりにローガン様もついてきて、王族しか立ち入れないというゼト神を祀った神殿を特別に案内してくれることになったというわけだ。正直、女神教の美術館の時もそうだったけど、そういう古い壁画とか絵画とかにはあんまり興味持たないタチなんだよな俺。
とはいえ、異なる魔法形態を確立する基盤となった神話大系に触れられる貴重な機会ならば逃す手はないだろう。これからカードゲームを作って一儲けしようかなと企んでいる身としては、砂漠の国の神殿の壁画なんてまさにドンピシャな感じがしないでもないし。
そんなわけで、俺はローガン様とふたり、神殿の中を歩き回って、あーでもないこーでもないと喋っていたわけなのだが。
神殿の最深部にある、イヌ科の動物を思わせる巨大な像。ぶっちゃけアヌビス神とかセト神みたいな感じなんだろうなー名前と砂漠的に、と思わせられるそれを拝みつつ、祭壇に並べられた宝物や供物を眺める。
壊れた懐中時計に砂時計、日時計に腕時計まであるぞ。この国では時属性魔法は太陽エレメントにも月エレメントにも分類されない、ゼト神が司る特別な属性、みたいな信仰があるらしいから、こうした時を刻む道具が神具や宝具として奉納されているのかもしれないな。
『待っておったぞ』
「え?何?」
『そなたこそ、我らが待ち望んでいた勇者なり』
「ちょ!?」
「ホークくん!?」
突然ゼト神の像の目が光り出したと思ったら、神殿の足元がガラガラと崩れ始める。あっぶな!!慌ててローガン様に某大学名物がごときタックルを叩き込み、飛行魔法で一気に神殿入り口まで退避。
『ま、待ちなさいよ!なんで逃げるのよ!』
「逃げるに決まってんだろうが!」
落下しなかったのがそんなに予想外だったのか、崩れた足場の底から光の触手みたいなものがウネウネと這い出して襲いかかってくる。外に続く扉は石造りの障壁が降りてきて閉ざされてしまい、脱出は不可能。
『絶対に逃がさないんだから!こちとら何万年待ってたと思ってんのよ!』
「知るか!一生待ちぼうけしてろ!」
ワープ魔法で逃げようにも、エレメントが凄まじい魔力、を超越した、神の力とも言うべき代物によってかき乱されてしまい、満足に門を開けない。精々、フラフープぐらいの大きさの窓が限界だ。クソ!こうなったらローガン様だけでも!
「ええい!ローガン様!少々手荒になりますが、お許しください!」
「待てホークくん!」
「おんどりゃあああ!!」
ローガン様が光の触手に絡め取られてしまう前に、せめて彼だけでもとワープゲートの中に押し込み、何かされる前に閉じる。
『捕まえたわよ!手間ァかけさせやがって!!』
「うるせえ!肥満児の触手プレイとか誰得なんだよ!!女神ぐらいしか喜ばねえわ!!」
そうして俺は、光の触手に四肢を絡め取られ、崩落した神殿の地下深く、暗い暗い闇の底へと引きずり込まれてしまったのである。
「っ!」
一瞬の浮遊感。落っこちてる!と理解したので、即座に飛行魔法で浮かび上がる。どうやら大した高さではなかったらしく、ほんの1mぐらい下に地面があった。
意識を失っていた?クソ、結局またなんか変な事件に巻き込まれてしまった。というか、どこだよここ。光の魔法で辺りを照らし、キョロキョロ見回す。
どうやら、迷宮のような造りになっているようだ。あのゼト神像から聞こえてきた女の声、一体何を目的に俺を拉致ったのかは不明だが、数万年眠っていたとか勇者とか言ってたし、この神殿の地下迷宮に聖剣でも眠っている、みたいなオチだろうか。
正直、剣なんかもらっても使いこなせる気がしないぞ。いや聖剣と決まったわけではないが。もしかしたら邪竜に対抗して聖獣が眠っているとか、妖精王とか精霊王的なものかもしれないし。
とりあえず、さっさと脱出することに尽力するか。こちとら水も食料も持ち合わせていないし、トイレットペーパーなんてものは当然持っているわけがないので、トイレに行きたくなっただけで死ぞ。
幸い、魔法は使えるようだ。ロボット狸の大冒険映画のごとく、ワープ魔法なんかは門を開こうとすると空間に拒絶されるものの、それ以外の魔法なら問題なく使えるという非常にご都合主義的迷宮である。
あれだな、イベント前に『ここから先しばらく前の街に引き返すこともセーブすることもできなくなりますが、セーブしますか?』みたいな警告の出るタイプのダンジョンっぽい感じだな。とことんシステマチックというか、ゲーム的というか。脱出魔法だけが不思議な力でかき消される感じのアレだ。
まあいい。これがイベントダンジョン的な何かだというのなら、さっさとクリアしてしまおう。