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第101話 主人公が先か事件が先か

「言いたいことは山ほどあるが、まずは我が兄の命を救ってくれたこと、礼を言う」


あ、お兄様だったんですね国王陛下。夜分に呼びつけられててっきりお冠かと思いきや、『兄上!兄上ェ!』と取り乱しながらおっさんに縋って号泣する王様に、死んでませんよー大丈夫ですよーとお伝えしたところ、ヘナヘナと座り込んでしまった。デブオヤジのお姫様座りは需要薄いぞ。


さて、落ちつきを取り戻した陛下の指示の下、第1王子らがテキパキと指示をしてくれたお陰で塔から飛び降りたおっさんのことはひとまずそちらに任せて、俺は事情を説明してもらうこととなった。


なんでもあのおっさんはローガン・ヴァスコーダガマといい、ジョッシュ国王陛下の兄君、第9王子からすれば、伯父にあたる方なのだそうだ。そして、俺がウッカリ殺しかけてしまった氷漬けの蛇は、そんなローガン様にかけられた呪いだという。


かつてこの国では、ジョッシュ王が即位する前から大規模な戦乱が頻発しており、それは盗賊たちとの戦いであったり、砂の中を泳ぐという砂鯨という巨大な魔物との戦いであったり、他国との戦争であったりと、まあ色々だ。


そんな中で、この国にかつて現れたのが、傾国の魔女であったという。美しい娘の姿に化けたその魔女は、魅了や洗脳の魔法を使って次期国王であったローガン様やその弟のジョッシュ様、一部の国の中枢を担う者たちを誑かし、自分を巡り殺しあうように仕向けさせた。


ごめん、それメアリ・イースの2番煎じなんだ。いや、時系列的にはこっちの方が先なので、メアリ側の方がパクリだったのか。とにかく、悪い魔女が国を乗っ取ろうとした。それを救ったのが、若き日のローガン様だったという。


「追い詰められ、兄上の剣で心臓を貫かれ、麗しき少女の姿から醜い老婆へと真の姿を現した魔女は、死に際に呪いを放った」


それが、あの蛇の呪い。


「もう三十年にもなるか。兄上は、呪いにより近づいたものに非業の死を与える存在と化し、自らあの塔へと引きこもられた。ワシは、そんな兄上の代わりに、国を治めなければならなくなった。勉学でも、戦でも、一度も兄上に勝てた試しのないこのワシが、だ」


以来ローガン様は、あの高い塔の上から国を見下ろし、時折ジョッシュ陛下が悩みを相談しに来ると、塔の入り口に1日3回置かれる食事に手紙を添えてくれるようになったという。


勇敢で、賢明で、勤勉であった兄に隠れ、だがそんな兄が呪いによって国王の座に就くことができなくなったがため、その代理として王になることを急遽余儀なくされたジョッシュ陛下の心労は、いかほどのものであっただろう。


王になれた喜びよりも、心労やプレッシャーの方が大きかったであろうことは、項垂れながら語る陛下の顔を見る限り想像だに難くない。


「それが、なんでまた今夜に限って自殺など?」


「おそらくは、呪いに耐えきれなくなったのやもしれぬ。あの呪いは、兄上の周囲の者に不運不幸を振りまき命をも奪い取る強力な呪いよ。兄上は塔の内部に御自身で結界を張り、その内側に呪いごと御自身を閉じ込めた」


だが、日に日に強まっていく呪いを、周囲に散らして発散させることもなく、彼は三十年間それを抑え込み続けた。全ては国と、家族と、民とを守るために。日毎に深さを、強さを増していく呪いに内側から食い破られそうになっていたローガン様が、ついに今夜、この塔から飛び降りたわけだ。


呪いに操られてのものなのか、はたまたもうこれ以上抑え込めなくなったと判断した彼が自らの命と引き替えに道連れにしようとしたのかは本人に訊いてみなければわからないが。


「で、結局この蛇、殺しちゃっていいんですか?こいつを殺しちゃったらお兄様が死んじゃったりとかはしません?」


「おそらく、平気であろうよ。こやつは兄上の心臓に潜り込み、外から引きずり出すことは不可能であったゆえな。だが、自発的に出てきて、こうして兄上の体から離れた今ならば...ジョッシュの名において命ずる。土よ、槌を。我らが憎き仇敵を砕く、裁きの鉄槌を!」


立ち上がったジョッシュ陛下の両手に、魔法で作られた巨大なハンマーが握られる。


「こ、の!よくも!よくも兄上を苦しめおったな!貴様なぞ!貴様なぞこうしてくれる!!」


錯乱しながら、全身に闇の剣が突き刺さった大蛇の氷像をハンマーで打ち壊して粉砕していくジョッシュ陛下。突然の出来事に誰も何も言えず絶句しているので、俺も空気を読んで彼の望むままにさせておく。


どの道、もう死んだも同然だからな、この呪い。そんな話を聞いちゃったら、きっちり処分しないと。砕けた傍から再生して、今度はジョッシュ陛下の心臓に逃げ込もうとする呪いを、俺自身の魔法できっちりとすり潰していく。


なんというか、あふれ出るこのまたかよ感。前回も女神教に十年以上苦しめられてきた可哀想な女がいたと思ったら、今度は三十年近く魔女の呪いに苦しめられ続けてきた男とか、ちょっとワンパターンすぎでは??いやそんなこと言ったら陛下にぶん殴られそうで口が裂けても言えないですけど。それだけ世界が苦しみに満ち溢れているってこと?大丈夫?今度は五十年規模で~みたいなの出てきたりしない?


「はあ、はあ、はあ!!」


「父上!」


ようやく全身粉々になった呪いの大蛇が、氷と共に溶けて消える頃。ジョッシュ陛下は血圧でも上がりすぎたのか、ふらりと倒れそうになり、それを第9王子が支えようとするが、無理だろ。


体重差どんだけあると思ってんだ。慌てて駆け寄った兵士たちに三人がかりで支えられ、国王様はふらりと俺の顔を見つめる。


「そなたの献身に、心より感謝する。兄上を救ってくれて、ありがとう」


「...どういたしまして」


この国に来て初日から、いきなり何をやっているんだ俺は。いや、人助けができたのだからいいのだけれど。てか、直接来てよかったな。もう一日遅かったらローガン様の死でそれどころじゃなかっただろうし、一日早かったらこうして夜の散歩中に気づくこともなかっただろう。


すごい偶然。いや運命か。かつて女神が言っていた、視聴者さんたちや読者さんたち、という言葉が蘇る。俺がいるから事件が起こるのか、事件が起こるところに俺が導かれているのか。主人公体質ってのは、面倒なものだ。


かつてはヴァンくんのこと、俺と違ってこの世界に選ばれた主人公のくせに!!みたいな感じで嫉妬してたような覚えがあるけど、いざ当事者になってみるとこれほど厄介なものもない。


いずれにせよ、なんか探偵漫画の主人公の気持ちがわかった。前世じゃ軽率に死神呼ばわりしててごめんな、探偵くんたち。

猛スピードで事件が起きて

超スピードで解決していくストロングスタイル


あと週間総合ランキングの10位を頂きました

ありがとうございます

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