第97話 後始末とお片付けと
主人公が強くなりすぎると戦闘が全然盛り上がらんくなっちゃうの、むつかしいわね...
「皆さん、本当にありがとうございました。この御恩はわたくしたち一同、生涯忘れません」
なんか女神教が勲章をくれるというので、もらえるものはもらっておくことにしたのだが、授与式は辞退させてもらった。そもそも、授与式を開く理由を聖都の民衆たちになんて説明すればよいのだ。上層部に巣食っていた過激派を一掃してくれたお礼だなんて公表できないだろ?
実際、過激派に占拠されていた実態を知っているのはごく一部の内部関係者のみであり、聖都に住まう民たちはほとんど何も知らされていないため、神殿内で何かがあったことすら誰も知らずに昨日と変わらない今日を過ごしている。
今回ただの様子見に来たはずだったのに、想わぬ形で女神教に関する問題に片がついてしまったわけだが、まあ結果オーライとしておこう。これで今後、女神教からの刺客やらくだらない陰謀やらに巻き込まれるおそれがぐっと減ったわけだしな。
後は今回一番得をする形になって一気に主流派に躍り出た穏健派の幹部と引き続き女教皇として生きていくことになったアンジェラが、13使徒や各種支部のお偉いさんたちに話をつけてくれるはずだ。
無論、支部にも熱烈な過激派シンパは在籍しているのだろうが、大本が潰された今、庇いだてしてくれる連中の庇護なき状況でどこまでやれるのかは怪しいところではあるし、万が一『ゴルド商会の人間をひとり残らず駆逐してやる!』みたいな復讐鬼と化した美少女が出てきてしまったならば、迎え撃つのみよ。
「あー、また7泊8日の退屈な長旅が始まっちまうのかァ」
「嫌ならワープ魔法で帰る?」
「俺ァそっちの方が断然いいや。まあ、オメエ独り置き去りにして俺だけが先に帰っちまうわけにもいかねェかんな」
「わかったわかった、それじゃ、ワープ魔法で一緒に帰ろ」
「お!マジか!」
「うん。鉄道旅行は、また今度家族で来ればそれで済むしね」
そんなわけで現在、用済みになった俺たちは宿で帰り支度をしている。ちなみにオリーヴはいない。話がある、と女教皇に会いに行っているのだ。
「あいつ、どうするつもりなんだろうな」
「そりゃ、この街に残るでしょ。逆に残らない理由ある?」
「あるぞ」
噂をすれば、オリーヴが戻ってきた。
「待たせてしまったな坊ちゃん。さあ、帰ろう」
「...いいの?」
「ああ」
てっきりこの街に残って、結婚はできなくとも愛しあうふたりはたまに密会、みたいな感じでひっそりと生きていくものだとばかり思っていたので、かなり意外。
「俺は、かつて彼女に贈るはずだった結婚指輪を、もう何年も前に処分してしまった。彼女のことは、俺の中ではもう終わった過去のことだったんだ。だから、改めて今回決着をつけて、それで...吹っ切った」
最後に一発だけ、ということで、彼女に手痛いビンタをもらったというオリーヴは、頬をさすりながら自身の荷物をまとめ始める。酷い奴だ、と思うのは、部外者の勝手だ。それを言う資格を持っているのは世界でただひとり、今回振られる形になってしまったアンジェラさんだけだ。
「今の俺には今の居場所があり、仲間がいる。たとえ彼女に恨まれようと、泣かせてしまう結果になろうとも、俺は存外、今の生活を気に入っていたようでな」
「...そっか」
もらった勲章の入った小箱を鞄から取り出し、箱のふたを開け、鎮座したそれを見つめながら、やがてオリーヴは名残り惜しむようにそのふたを閉めた。
窓の外では、今日も雨が降り続いている。女教皇という立場に、女神教に、人生を狂わされてしまったひとりの少女の、号泣のような強い涙雨が。
見送りはいらない、と伝えておいたので、俺たちは来た時と同様、ひっそりとこの国を去ることにした。女教皇様御自身が教団の幹部を勢揃いさせてのお見送りとか、堪ったもんじゃないしな。
正直、今の彼女にどんな顔で会ったらいいのかもわからないので、それはそれで助かったのかもしれない。宿のチェックアウトを済ませ、俺たちは傘を差し、人気のない裏路地に入る。
さようなら、聖都ベリーズ。永遠にさようなら、女神教の過激派ども。行きは2週間以上かかった長旅であったが、帰りはほんの数秒だ。
「おや、お帰りなさいませ坊ちゃま」
「ん、ただいまローリエ」
ブランストン王国は、からっと晴れていた。日差しが燦々と降り注ぐ庭で、ローリエたちメイドが洗濯物を干している。爽やかに澄み切った青空が眩しいな。
ワープゲートが閉じ、俺たちの旅が終わる。なんだかうちに帰ってきた途端にどっと疲れが出てしまったので、ココアでも飲んで、グッスリ寝るかな。





