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侯爵令息の憂い  作者: ini
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侯爵令息の登城

玄関に向かうと、お父様お母様、お兄様たちだけでなくなんと屋敷の人達皆が集まっていた。きっと、僕を見送りしてくれるためだけに集まったんだろう。


仕事の手を止めてでも僕を想ってくれる皆に、僕は胸がきゅうっとなって、なんだかまた涙が溢れそうになってしまった。僕は泣いてばかりだな…。もっとしっかりとしないと。




「総出でのお見送り、ありがとうございます…!」




ふわぁっとした気持ちのまま皆に声をかけて、姿を晒す。


そうすると少しだけざわざわとしていた玄関ホールが途端にしん、と静まりかえった。えと…静まり返られると少し怖い…。




「アマンダ!!でかしたわ!!」


「はい奥様!!」




お母様とアマンダが抱き合って喜んでいる。仲良かったんですね…?


「テディが…私のテディが…嫁に行ってしまう…」


「父上気をしっかり持ってください。テオは貴方の息子です」


真っ白になって(?)落ち込むお父様をレオ兄様が僕をガン見したまま宥めている。レオ兄様は迫力のある男前だから、ちょっと怖いくらい。


「テディ!あぁ、俺のテディ…!こんな天使と見間違えるようなテディが城なんかに行っては格好の餌食だ!なんて愛らしい…!」


「ジーク兄様、僕は男だからだい…うっ大丈夫です」


ジーク兄様が僕をぎゅうっと抱き締めてくるから僕は少し苦しくて呻いてしまった。ジーク兄様はとんでもなくかっこいい顔をこれでもかと歪ませて僕を撫で回す。は、恥ずかしいです…!




使用人たちもこれでもかというくらい、僕を口々に誉めてくれる。きっとみんな僕が緊張しないでいいようにしてくれるその心遣いが、本当に嬉しい。城で粗相をしないように、侯爵家として立派に振る舞えるようにしなくては。


そんなふうに自然と思えた。




「それでは、行ってまいります」


「テオ、何も気負わなくて良いのですよ。楽しんでさえくれれば」


「…はい。お母様」


茶目っ気たっぷりとばかりにお母様はそう言ってくれた。アマンダと一緒に馬車に乗り込む。


ーこの日が僕の二度目の人生を大きく変えることになるのに気付いたのは、それからずっとずっと後のことだった。









「おお…きいね…」

「王城ですから」


僕の情けない声をアマンダはきちんと拾ってくれた。大きいというか広いというか、なんというのか、凄い。


僕のうち、アムスベルク侯爵家もかなり立派なお屋敷だとは思っていたけれど、その比にならないほど凄かった。うちが何個入るのかな。すごいなぁ…。


アマンダがぽけーっとしている僕を促して受付を済ませる。僕は侯爵家の者としてきちんとしなければ!と改めて意気込むと会場に足を踏み入れた。


途端。






全ての音が止まった。




(なに、なに?!僕そんなに目を引くの?!)


喧騒とまでは行かずとも、それなりに賑やかになっていた会場が僕の登場で静まり返る。僕は侯爵家の人間、ということをなんとか思い出して足を踏み進める。少しずつ顔が熱くなってくるのがわかって、余計に恥ずかしくなってくる。僕自身未だに自分の容姿になれないのもあるけれど、こんなにたくさんの人に見つめられるのは本当に居たたまれなかった。


邪魔にならないところにまで来るとようやく喧騒が少し戻ってきたことに安心して、アマンダを振り返る。アマンダはそれ見たことか!とばかりに満面のいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。なんだかそれがとても可笑しくて僕も今度は心からの笑顔になれた。ありがとう、アマンダ。




少しばかり時間がたち、やがて主役のアダム王子殿下が臣下を伴って姿をみせる。僕と同じ年でありながらその姿はすでに王族としての威厳が備わっている。僕よりもきりっとしたお姿に少し見とれてしまう。僕が将来仕えることになる方は、とても立派な挨拶を述べられてそして少し下がる。パーティーが始まるのかな。


宮廷楽団の華やかな音楽が鳴り始めて、開催が宣言される。しばらくは主役であるアダム王子殿下への挨拶の時間になるんだっけ。僕の番が来るまでは飲み物をもらってゆっくりすることにした。



「テオドア様、あちらに軽食があるようですわ。昼食はまだですし取って参りましょうか」


「うん、王宮の食事だから僕すごく楽しみにしてたんだ。お願いできる?」


「腕によりをかけて選んできます!」


張り切るアマンダを笑顔で見送る。どんな食事なんだろう。楽しみだな、とドリンクを一口。

…ん?

なんだか、人がにじりよってきてる…?

ジリジリと距離を詰めてくる人垣にだんだんと怖くなってくる。さりげなくその人達を確認すると皆の目が…こわい…。

どうしようと内心おろおろしているその時。


「失礼。これを落とされましたよ」


突然、声をかけられた。視線を向けて驚いた。


(…わ、ぁ)


僕とそう年は変わらないだろう少年が僕の目の前に立っていた。

ー黒い髪から覗く瞳は不思議なほど美しい金色で。佇まいはとても静かなのに存在感のあるその少年。目が、離せなかった。


「…あの、」

「ぁ、あ!失礼しました!どうも…ありがとうございます…」


我に返るとあわててお礼を伝える。ふ、と少し笑う少年。それだけでなんだか全身が熱くなる。どうしてだろう、ずっとその少年と一緒に居たい。側にいたい、僕だけを見ててほしい。

次々と沸き上がるそんな感情に戸惑う。僕は一体どうしたんだろう、この異世界に来てから、前世の時でさえなかったそんな気持ち。


「僕は!…アムスベルク侯爵家三男テオドアと…申します」


興奮と奇妙な幸福感のまま名乗ろうとすると不自然に大きな声になってしまった。慌ててボリュームを落として言葉を続け拾ってくれたのだろうハンカチを受けとる。

そっと手渡してくれるそれ、うっかり手が触れあう。お互い手袋越し。それだけなのに、全身が火に焼かれたような…僕は、一体どうしちゃったんだろう…!


もじもじしてしまう僕を優しく見詰めてくれる優しく光る金色。まっと見つめてほしい。手を、取って連れ出してほしい。そんな気持ちでいっぱいでもう苦しいくらい。


「…私は、」


その少年が名乗ろうとしたその瞬間僕は弾き飛ばされた。その少年によって。

あまりにも突然のことに、え、と声を盛らす間もなく、会場中が悲鳴に包まれた。






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