正常、異常。混在中
銘には遠く及ばないが、棚を押し切れるほどの切れ味。不満は全くない。
「さて、核は胸の辺りとか言ってたな」
手を心臓辺りに差し込み弄くり回す。途中、弱いながらも鼓動し続ける心臓に手が当たる。
煩わしいし、握り潰そう。
ぐちゃ。
うん、柔らかい。
しかしその手の中に、握っても握り潰せない石のような物質が残る。手を引き戻しそれを見ると、赤黒く濡れた石だった。
「像化」
石の周りが薄く光る。微弱ながらも力を持っているということは、恐らくこれが核だろう。
「よし、取れた取れた。」
もう1匹もやろう。
胸へと一直線。心臓を握りつぶす。たった1度の経験だけで手馴れたものだ。
「さて、ギルドとやらに戻ろうかな」
「…」
「銘?どうかしたの?」
銘の顔に逡巡が浮かぶ。眉間にシワが寄り、目付きも鋭い。驚きの顔ではないが、やっぱり俺の周りにいるやつの考え事の顔は面白い。
「いや、うーむ…お主、そんなにイカれておったのか」
「イカれてないよ、別に。これくらいするだろ?」
「儂は刀じゃ。生物を殺すためにできた物質じゃからなんともわからんが、普通の人間からしたら異常なのではないのか?」
普通、か。確かにこんな夢を明晰に見る時点で、普通の人間では無いのかも知れない。…これは自意識過剰すぎたかな。
ニヒリズムを通り越してエゴイズムに浸ってしまった。
「そうかもね。そんな事より俺はギルドに戻るけど、お前はどうする?」
「は?儂もついて行くに決まっておろう?」
「まぁ、そうだよな。お前は俺の獲物だし」
「変態」
「そういう獲物じゃない」
冗句はこれくらいにしておいて、と銘が前置きをして、
「儂も転移できるのかのう」
と聞いてくる。そんなのこの世界の基礎についても知らない俺が分かるわけがないだろ。
「わかんないけど、出来るんじゃない?」
「うむむ…とりあえず水晶に触っておけばいいかの」
「うむ、それでいいんじゃないのかの。それでは行くぞよ」
「…話し方、イントネーションこそ似ておったが、声は全く似てないぞ?儂はぞよなんて言わぬからな」
「上手い下手じゃなくて、真似したかっただけ。行くぞ」
水晶に触った瞬間に、脳で浮かんだ選択肢から冒険者ギルドを選ぶ。
意識が途切れた。
「…むぅ。」
夢から覚めたのか。あまり寝た感じがしない。夢の中ではしゃぎ過ぎてしまった。
きっとあの夢はもう見ることは無いのだろう。
「…はぁ?」
時計。10:10。昨日寝たのが、23:15。
…寝すぎた。今日が休みだから良かったものの、学校があれば遅れている時間。
うーむ…それにしても体が疲れた。腕も痺れた。もう1回寝るか。今日もアルバイトがあるが、それに間に合えば良いしな。
それとなくドアの方を見てみると、空いていた。
というか、外れていた。
「はぁあ?」
ドア自体は閉めた。鍵も閉めた。チェーンもつけた。
ドアは開き、鍵は壊れ、チェーンがちぎれている。
…あぁ、なるほど。友咲だ。こんなことをするのは友咲しかいない。思考機能が復活してきた。
突然、背中に衝撃が走る。
反射的に後ろを見ると、黒いキャップを深くかぶり、黒い服を身につけ、黒いマスクを着けた友咲がいた。
ちなみにズボンは白色。どうせなら統一すれば良いのに。
「あのなぁ…勝手に入るなよ」
「…」
無言で俺の背中を叩き続ける。いや、痛いんだが。
「…なんでカラオケ来なかったの?」
「なんでお前はマスクつけてるんだ?」
質問のタイミングが被ってしまった。ちょっと恥ずかしい。が、そんなことも気にせずに
「えぇ、マスク!?近付くなら今はマスク必須でしょ!」
「現実世界に添いすぎ」
「?現実だけど?」
…夢に浸りすぎたようだ。が、あっちもあっちでメタフィクションが過ぎる。
まぁ、それは置いておいて、解りきった事について質問する。
「どうやってここに入ってきたんだよ」
友咲は自信ありげで満足味のある表情を浮かべ、答える。
「簡単だよ?全部壊しただけ」