夢の中ならやりたい放題
にしても珍しい。
いや、明らかにおかしい。今迄にこんな整合性のない、作り話のような夢は見た事が…あ、そうだ。
これ夢だから焦る必要ないじゃん。
夢と現は繋がらない。俺にとっては似て非なる、水と油のような存在。
「ブゥ!」
オークがもう一度刀を振るう。落ち着いてみると太刀筋は単純で、見てからでも避けるのは簡単そうだ。
ひらひら蝶のように剣を躱す。が、調子に乗りすぎて周りが見えておらず、途中背中に何かがぶつかる。
まぁ、何かと言っても木ぐらいしか無いのだが。
「ブフルォ!」
そんな俺の状況を見て、好機とばかりに刀を振り下ろす。が、相手の事情なんて俺からしたらどうでもいい。
背中にある木を通り抜けて攻撃を避ける。
「ンゴッ!」
振り回していた刀が俺の通り抜けた木に鋭く入り、抜けなくなる。何とも滑稽な。
刀を引っこ抜こうと足を木に掛けていて、隙だらけ。ご都合過ぎないか?
夢なんてそんなものか。
「んじゃ、俺からも攻撃してみようかな?」
短刀だと殺しちゃうかもしれないし、試しに素手で殴ってみよう。そうだな、パワーは…木のバットフルスイングくらいにしてっと。夢の世界ならやりたい放題だ。
頭へと拳を振り抜く。
めしゃり。
うわ、嫌な感触。
それと同時に相手の弛緩した口から涎がばら撒かれる。気を失ったのだろうか。
「うわっ、気持ち悪っ。まぁ、もう1匹の方もやってみるか」
「フ、フゴォ!」
友を傷付けられた怒りからか、はたまた次は自分という恐怖からか。目を血走らせながらこちらに斬り掛かってくる。それを盾で弾き、脇腹を殴る。
めきり。痛みで気絶したようだ。
力は一応撲殺しない程度にしているが、骨は折れたかも知れない。
…人間だったらどうしよう。暴行罪で捕まるかも。
「夢だからいいけど、何とも言えないな」
生物を殴る感覚に久しさを覚え、余韻に浸る。
その時、腰の水晶が眩い光を放ち空中に何かを映し出した。人影?
「放浪者さん!行きなり呼び出してどうされたんですか?」
呼び出した覚えは全くないのだが。というか、放浪者とは。今回はふらふら生きているような人間についての夢なのか?
気になることは山ほどあるが、取り敢えず相槌を打とう。
「え、あ、いや、特に。ところで、あなたは誰ですか?」
「誰って…私からクエスト受注したじゃないですか!」
「…どんな夢だよ。」