異世界転移?現実逃避?
「I am a pen.はい、意味わかる人〜」
「「「は〜い」」」
「じゃあ晴くん」
「私はペンです。」
「正解。みんな拍手〜」
パチパチパチパチ。
俺は今、塾のアルバイトで小学生に英語を教えている。程度の低い英語なのでとても教えやすい。
子供に新しい知識を教えるのは、俺が支配している感覚がして心地良い。
勿論冗談。
「じゃあ、今回の授業ここまで。お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でした!」」」
授業が終わる。それと共に周りに女の子が群がってくる。
「先生!ここ分からないんです!」
「どれどれ?」
「先生!今日もかっこいいですね」
「ありがとね」
「先生!付き合ってください!」
「何に?」
「先生!愛人いますか?」
「そもそも結婚してないよ?」
さっきの榊との電話で話した通り、周りの小学生女子がとてもうるさい。しかし、少しづつ時間が経つにつれ、親御さんの迎えで人数が減っていく。
…はぁ、疲れた。授業よりこっちの方が面倒だ。
ただ、休憩も束の間、次は大学受験を今年に控えた女子たちが授業を終えて、俺の周りに群がる。
「先生!ここ分からないんです!」
「どれどれ?」
「先生!今日もかっこいいですね」
「ありがと」
「先生!私Fカップなんです!」
「そうなんだね」
「先生って愛人欲しいですか?」
「そもそも結婚してないよ?」
質問の程度が小学生と一緒って…。この子達は将来どうなってしまうんだろうか。そもそも自分の体を武器にしてる時点で、俺の恋愛対象外なんだが。
「今日も大変だなぁ」
とか言いながら塾講師の方々が俺を横目にすり抜けてゆく。大変だと思うなら助けてくれ…。
女子たちからの猛攻を受け、疲れきった体でデスクワークに励もうと意気込む。
その時、
「夢乃先生…」
と、か細い声で呼ぶ声が聞こえた。声の元を見ると、小学生の女の子が立っていた。
「ん、どうしたの?」
「あの…。これ」
そう口篭りながら何かを差し出す。
それは、市販のアルファベットチョコレートだった。
「お疲れ様です。お仕事頑張ってね」
恥ずかしげにそういうと、小さな女の子は親の元へと走り去っていった。
…いや、まじで癒しすぎる。
慎ましやかでおしとやか。なんだあの子、聖母かよ。今日も頑張れそうだ。
いつもより奮起して仕事を終わらせ、帰宅する。
「ふわぁぁ…寝るか」
今夜はどんな夢なのだろう。そんなことを考えながら眠りにつく。
底の無い闇。
いや、いつもより一段と深いか?
深く、深く、深い。
目を覚ますと、そこは森だった。
「んぁ?なんだここ?」
周りを見渡す。が、木、木、木。特段目に映るものの中に特別なものはなかった。
「…よく分からんけど、取り敢えず身につけてるもので考えてみよう。なんか分かるかも」
そう考えて自分が体に身に着けているものを見てみる。皮の防具に短弓。
腰に巻いているベルトにくっついている数個の小さな巾着。片手で持つような大きさの剣に盾。
…剣と盾持って弓矢は欲張りすぎじゃないか?
そんな事は置いておいて、これはいつ時代の何なんだろうか。狩りをしていると考えれば縄文から戦国あたりか。
いや、それならこの巾着の中の珠は何なんだ?この綺麗さは、水晶?水晶を持ち歩く時代?
…まぁ、俺が知らないだけか。外国の可能性あるしな。
そんなふうに呑気に自分の荷物を物色していると、奥の方から2つの足音が聞こえてくる。
反射的に隠れる…が、そんな必要あっただろうか。ただただ歩いてきた人かも知れないのに。
そんな考えは消し飛んだ。
草むらの奥から来たのは人と言うには苦しい様な、人間と豚のハーフ。
世にいうオークだろうか。そんな見た目の生物が歩いてくる。
…近くでハロウィンでもしているのか?いや、こんな森の中で?
色々な考えが逡巡するが、考えるだけ無駄だったらしい。
隠れた俺の前を通り過ぎかけたその時、こちらをぐるりと向いて、手に持っている刀を振り下ろしてきた。
「なっ、ちょっ!」
刀を盾でガードする。が、鋼のぶつかり合う衝撃で、左手が弾かれた。痺れが残っている感じが妙にリアル。
「ブフゥー…ブフゥー」
「あ、えー、うーん…I'm Japanese.」
「ブファア!」
英語は通じないようだ。