第27話・終章
逮捕した加東と共に高山署に戻った高地は、なんと翌日には六厩の貸別荘に姿を見せた。
「加東の手と顎の怪我の治療のために、今日・明日は取り調べが行われないのだ。だから、私は休暇を貰った。ほら、最近働きずくめだろ。それに、ここでのBBQの人数に入っているだろうからね」
もちろん、その日のBBQは大いに盛り上がった。その時に、昨日の春彦が取った行動を皆が褒めた。
「俺なんか、倒すどころか逆に掴まって、人質になったのに・・」
と、恐縮する春彦に、
「いや、その前の安子を救ったのは、見事だった。大手柄だ。あれで、俺たちがどれだけホッとしたか」
と正宗に褒められて、春彦も嬉しそうだった。
「そうよ、オンバ像の在処も春彦が居なければ、解らなかったわ。そうなれば、加東を捕まえることも難しかった。今回の手柄の第一は、金田一春彦よ。これは、ご褒美」
美結と安子が、春彦の頬に、両側からキスをした。
「うえー、嬉しい」
「ついでよ」
と、羨ましそうに見ていた正宗にも、ダブルキッスのおこぼれがあった。
子供らには、夏休みの良い思い出が残る夜になっただろう。
「ここは星が、綺麗だよ」
なんて照れながら言う高地さんが、夜のお散歩デートに、みんなに冷やかされながら麻里先生を連れて行った。
果たして、大人たちにも、良い夏の思い出になったかどうかは知らない。
六厩の清澄寺から見つかったオンバ像と巻紙は、亀谷に返された。
亀谷の斉藤家では、この像に入っていた巻紙によって、二人の命が失われた事を反省して、巻紙の内容を隠さずに寺に掲示して、一般公開する事にした。
勢至菩薩像は、六厩の住民と協議の上で、清澄寺に戻されても、もはやお守りする人もいないので、そのまま早月中学校に置いておく事になった。
加東を逮捕した時に、美結と正宗が、気配を消して行動したと知った春彦と安子は、二人に頼んで気配を消す稽古を受けた。
その基本は呼吸法だと言う事で、細く長く鼻から息を吸い、そのまま長く止めて、ゆっくりと吐く練習をしてみたが、当然の様に二人には、気配を消して動く事などとても出来なかった。
しかし、美結らと一緒に森の中で、木に持たれかかり、地面に伏せてした本物の忍者の稽古は新鮮で、得がたいものだった。
早月村の子供たちの夏休みは、こうして終わった。