最初の接触 02-06
ケン・ブラックソードの指揮する攻撃部隊は、ケンの乗る隊長機を頂点として左右に四機ずつの編隊が展開する楔型をとっている。
ケンは、編隊全体をAEEP(対電子兵装粒子)で覆っていた。そうすることで、敵のレーダーに関知される可能性を下げることができるが、反対にこちらのレーダーも無効化され通信もできなくなる。
宇宙での高速機動戦を有視界で行うのは正気の沙汰ではないが、ケンの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。ケンは、網膜投影型スクリーンに映される敵編隊を確認する。
連邦軍編隊も九機から編成されており、数的には互角ということになった。けれど、機種は視認した限りではケンたちの乗るミリタリーモジュールより一世代進んだ機体であり、本来は相手になるものではない。さらにパイロットの練度は、ケン以外は素人同然のテラ側に連邦の正規軍パイロットが劣るとは思えない。
ケンはそれでも、こころの中で思う。
まあ、過去に経験した状況と比べると、最悪まではきていない。
ヴェリンダが、可愛らしい顔に凶暴な笑みを浮かべ、うふふと笑う。
「まあみた感じ、楽勝ってところかな」
「そうだな」
ケンは笑みを浮かべたまま、機体についている信号用トーチを点滅させ後ろの編隊にモールス信号を送る。
『本機ハ、コレヨリ単独で敵編隊ヘ攻撃ヲ行ウ。全員、現体勢ヲ維持シ墜トサレナイコトニ全力ヲ注ゲ』
後ろの各機は了解した印に、機体を少しゆらす。ケン・ブラックソードは静かに頷いた。
「ヴェリンダ、突撃をかますぞ」
ケンの言葉に、漆黒の肌をもつフェアリーはうなずく。
「バトルスラスタユニットの出力、全開にするよ」
がくん、とケンの身体に衝撃がはしり、ケンの搭乗するミリタリーモジュールは見えぬ巨人の手で殴られたように加速する。
「ヒィァ、ウィ、ゴォォォォオオオオ!」
ヴェリンダが、浮かれているかのような声で叫ぶ。
ケンの顔は、強烈な加速で歪んでいた。
ケンの機は編隊からはなれ、連邦軍の編隊にむかって突き進んだ。
ケンの意識はブラックアウトしそうになるが、身体を包むジェルの濃度が調整され手足の末端に血流が偏るのを阻止したため、かろうじて意識は保たれる。
人工生命体フェアリーのヴェリンダと精神はシンクロしているため、ケンがこころの中で思ったことをヴェリンダが読みとり機体をケンの思うがままに制御した。
攻撃指令は一般的には声に出して行うが、最大出力で加速中に声を出す余裕がないためケンはこころの中でヴェリンダへミサイル発射の指示を出す。
「はぁい、対スペースミサイル二機、発射するよ」
歌うようにヴェリンダが叫ぶと、バトルスラスタユニットのウエポンベイゲートを開き二機の対スペースミサイルを発射した。
ほぼ同時に、連邦軍のミリタリーモジュールがミサイルを発射したのをケンは視認する。
AEEP(対電子兵装粒子)で機体を覆っているためレーダーでは補足されていないはずだが、光学装置や熱源探知装置で追尾可能な距離にきたということだろう。ケンたちの搭乗している機体は光学迷彩をはじめステルス性能が低いので、連邦軍からすればイージーな標的になる。
「時限信管が、作動するよ」
ヴェリンダの声と同時に、ケンが放ったミサイルが爆発するのが確認できた。
漆黒の宇宙空間に、目映い光の花が開く。
ミサイルが爆発したポイントは、敵編隊の遙か手前である。
「AEEHE(対電子兵装榴弾)の、次元振動がくるよ。ちょっと消えるね」
ヴェリンダがそういうと同時に、ミリタリーモジュールのシステムがダウンしケンの視界が閉ざされ暗黒の中に放り出される。
ごん、と振動がありバトルスラスタユニットも停止し、ケンを苦しめていた加速も消えた。
しかし、暗黒に放り出されたのはほんの数秒であり、すぐに網膜投影型ディスプレイに映される視界がよみがえる。
バトルスラスタユニットも強制再起動され、どん、と加速がケンの全身を包む。
「いやあ、AEEHEは効くねぇ」
ヴェリンダが、あははと笑いながら復活した。
ケンの放ったミサイルAEEHE(対電子兵装榴弾)は、十次元振動を起こし情報エントロピーを狂わせ全ての電子的なシステムに動作不良を発生させる。
連邦軍の放ったミサイルも追尾装置が死んだため、ケンの機体から遠く離れたところで爆発した。
ミリタリーモジュールの世代差というのは結局のところ電子兵装の能力差なので、それを殺してしまえば差はなくなる。
そうはいっても宇宙空間の高速機動戦闘を電子機器のサポートなしで行うのは、自殺行為であった。だから、AEEHEをいきなり使うのは完全に宇宙戦のセオリーを、無視している。そのセオリーを無視した宇宙での有視界戦闘を、ケン・ブラックソードは行おうとしていた。
ケンは視界が暗くなるのを感じながら、連邦軍編隊の右翼を構成する四機に接近する。連邦軍のミリタリーモジュールはAEEHEによって光学迷彩を解かれ、純白の装甲を宇宙の闇に晒していた。
「そろそろ推進剤きれるよ、それと向こうのハンドキャノンの射程にあと十秒で入るから」
ケンはヴェリンダにバトルスラスタユニットを除装するように、こころの中で指示を出す。
前方で、ハンドキャノンのマズルフラッシュが四つ輝く。
曳光弾が光の矢となり、ケンのほうへ向かってきた。
突然、ケンは加速から解放されバトルスラスタユニットが除装されたことを、知る。
ケンは同時に慣性駆動システムを駆動し、連邦軍の射線から離れた。
推進力を失ったバトルスラスタユニットは、連邦軍のAPHE弾(徹甲榴弾)を受け爆発する。
爆発による閃光と爆煙は、一瞬ケンの機体を連邦軍の目から逸らす。
慣性駆動システムを使い高速旋回を行ったケンは、連邦軍編隊の側方に回り込んだ。
マニピュレータで保持したハンドキャノンを、ケンは短く撃つ。
装甲の薄い部分をAPHE弾で撃ち抜かれた連邦軍のミリタリーモジュールは、一瞬にして爆煙と閃光に包まれる。
ケン・ブラックソードは、狼の笑みを見せた。
「まずは、一機だ」




