帝都への旅路 05-13
ネグリは、鋭い眼差しで嫌そうな顔をするガタリを見つめる。
「むろん、ひとりのパイロットが戦況を左右するとは思わないがね。しかし、ずば抜けたパイロットが思わぬ事態を引き起こすことがあるのも、また事実だ。ガタリ大佐、むろん君はリスクヘッジを考えているのだろう。それを、聞かせてくれ」
「ああ、確か、そう。テラにはネイムドパイロットがいたはずだな、ベイユ中佐」
少し目を泳がせて問いかけたガタリを横目で見て、ベイユは冷静に答える。
「ええ、ご認識に間違いはありません、大佐。コードネームは、ウルフバート。記録上は、ムシャヒディン連合の戦艦二隻を、一機のミリタリーモジュールで沈めたことになってますね」
ネグリが、苦笑を浮かべる。
「それが本当ならガタリ大佐、君の艦隊を単身で全滅させかねないな」
「あー、その件なら、ご心配なく」
ガタリは、仕方がないというように口を開く。
「我が艦隊にも、同じことができるパイロットがいますからね」
「ああ、そうだったね」
ネグリは、頷く。
「君の艦隊に所属しているドルーズ中尉は、惑星トゥールーズ軌道上の戦いで君の艦隊に所属する船を二隻撃沈したのだったね」
ガタリは、あからさまに嫌な顔になる。
「ええ。あれのおかげで一週間で片づくはずの紛争が、収束に二年かかって一万人の死傷者がでた」
「なんだかまるで」
少し夢見るような調子で、ドルーズが口を挟む。
「僕があのとき戦死していれば、よかったと思っているような口調ですね、大佐」
あまりに規律を無視しきった発言にネグリは顔をしかめたが、ガタリは気にしたふうもなく平然と返答する。
「正直、そう思わないといったら嘘になるね」
あきれるばかりの無秩序な会話に、おもわずネグリは咳払いをする。
ドルーズは気にした風もなく、言葉を続けた。
「戦争だから仕方ないですよね、大佐」
ガタリは、仕方なく頷く。
「君のいうとおりだよ、ドルーズ君」
ドルーズは乙女のように薔薇色の唇に、少し笑みをのせる。
「戦場で死人を出すのがいやなら、そもそも戦争なんかしないでおんなの子とベッドにこもっていればいいんですよ、大佐」
ネグリはあまりの発言に目を剥いたが、ガタリは落ち着いて真面目な答えをした。
「ドルーズ中尉、君の言うとおりではある。だが残念ながら我らを戦場に繰り出す上級士官は皆、おんなの子には到底相手にしてもらえない、嫌みな老人なんだよ」
メス・デッキですら行われないような与太話を真面目に艦隊司令がしているという事実に、会議出席者は全員言葉を失う。空気が失われたように、場の雰囲気が凍り付いた。
ドルーズだけが平然と、夢見るような笑みを美しい瞳にのせて語る。
「いいよ、大佐。わかった。その嫌みな老人たちのために、僕はウルフバートと差し違えて死ぬことにする」
ドルーズは、寂しげにそっと肩を竦める。まるで、恋人に別れをつげるときのような、儚い笑みをみせていた。
「ウルフバートの技量は、この間把握した。墜とせはしないけれど、一緒に死ぬくらいならできるさ。まあ、戦争だからね。仕方ないよ」
カオスな空気に耐えきれず、ネグリが叱責しようと口を開いたが、ガタリのほうが先に答える。
それはガタリらしくない、真面目で沈痛な調子であった。
「ありがとう、ドルーズ中尉。君の連邦への忠誠に、深く感謝する」
ガタリは型にはまった敬礼を、ドルーズに送る。ドルーズは、笑みを消すと返礼した。
ネグリは少し牙をのぞかせたが、結局沈黙を選ぶ。
ベイユが、落ち着き払った声でネグリに語りかけた。
「今の一連の会話は、公式の議事録からは抹消しときますね」
ネグリは頷くと、ガタリの方を向いた。
「では、ガタリ大佐。勝利と鹵獲した堕天使を、わたしのもとに届けてくれたまえ」
ガタリは肉食獣じみた獰猛な笑みをその顔に乗せ、敬礼を返す。
「受諾しました、ネグリ准将」




