帝都への旅路 05-07
ケンの言葉に応えるようにフランツは、優雅に一礼をする。
「これは失礼をした、ケン・ブラックソード君。それと、僕のことはフランツと呼ぶといいよ!」
フランツはまた、パーティ会場にいるような朗らかさを取り戻す。そして美しい顔に笑みをのせて、ユーリを見つめた。
「さて、ユーリ君。君は、ベテランをメインパイロットにすべきだという。それはとても常識的な見解だといえるのだがね、残念ながら間違ってる」
ユーリは、ごくりと唾を飲む。
「間違って、いますか?」
ユーリの言葉に、フランツは頷く。
「間違ってるね、ユーリ君。僕らの乗る船の積み荷にはね、常識はふくまれていない。それは、古い感傷と一緒に月の裏側にでも置いてきたまえ」
はぁ? という顔でユーリはフランツを見る。フランツは気にした様子もなく言葉を続けた。
「僕らが乗り込んで帝都をめざすこのパルシファルは、あらゆる点で従来の戦艦が持つ規格からはずれている。何よりこの船には、デーモンが存在しない。君たちパイロットはデーモンではなく、パルシファルそのものとシンクロして操艦しなければいけないんだ」
ユーリは、驚愕のあまり言葉を失う。船とシンクロして操縦するなんて、想像することさえできない。
「そういうわけでね、ベテランはおそらく経験がじゃまをして適応に時間がかかるとみている。僕らが必要としているのは、君たち経験はないが優秀なパイロットなんだよ」
ユーリはあまりのことに、言葉を出すことができない。そのユーリに、追い打ちをかけるようにダーナが優しい口調で語りかける。
「ねえ、ユーリ。わかったでしょう。あなたがいかにこの船のパイロットに、適しているかということを」
ユーリは顔をひきつらせて、うなり声をあげる。ケンは、そのユーリの肩を軽く叩く。
「ユーリ、おまえには当然拒否する権利がある。あんまり、姫様やフランツ博士の言うことを気にすることはないぜ」
ケンの、野性味のある笑顔を見ている内にユーリは少し落ち着いた。
「ただな」
ケンは、笑みを浮かべたまま言葉を重ねる。
「ユーリ。おまえはいつか兄貴と再会したときに、胸をはって語れるような選択をしたほうがいいと思う。おまえのために、な」
ああ、とユーリは思った。
ユーリは、彼の兄であるルーイ・ノヴァーリスの顔を思い浮かべた。
ルーイは、ユーリにノヴァーリスであることを望んだ。そしてユーリ自身も、ノヴァーリスとして生きることを選択した。
ノヴァーリスとして、生きる。
それであれば、答えは自ずから決まっていた。そして、いつかルーイと再会するのであれば、ノヴァーリスであり続けなければならない。ユーリは、そう思う。
「姫様、僕はパルシファルのメインパイロットの役を引き受けたいと、思います」
ダーナは、微笑むと頷く。
「心配しなくてもいいよ、ユーリ。あなたなら、ちゃんとやれるわ。わたしが、保証してあげる」
ユーリは頷くと、敬礼を返した。
そのとき、突然後ろから声がかけられる。
「ケン・ブラックソード隊長!」
ユーリはふりむき、そこに笑みを浮かべる大男をみる。
ブリュンヒルドでケンの補佐をしていた、カール・グスタフであった。
「また一緒の船に乗れて、光栄ですよ。隊長」
ケンは、苦笑を浮かべる。
「カール・グスタフ隊長、こちらこそだ。というより、もう同格の隊長なんだから、敬語はやめようぜ」
グスタフは、にやりと笑う。
「いやいや、同格というか。ケン隊長、あなたは先任で戦歴も長い。過去にあげた戦果は、おれとは比較にならないほど凄いんだから同格たぁ恐れ多いですぜ」
ケンは、鼻で笑った。
「よくいうぜ、グスタフ隊長。で、誰をつれてきたんだ?」
ケンは、グスタフの後ろに続くふたりのひとに目をむける。
「よお、坊主。元気に、してたか?」
山羊のような髭をはやし、太った丸顔に冷徹な鋭い瞳が埋め込まれた年嵩のおとこが、笑みを浮かべながらケンに声をかける。
「おお、これは驚いた。フッサールの伯父貴じゃあ、ないか。あんたも、パルシファルに乗るのかよ」
くぐり抜けた激戦の証であるかのような無数の傷が残った顔を、フッサールは笑いで崩す。
豪快で磊落な、笑い声がメス・デッキに響く。
「まさか。おれみたいな老人は、長旅にむかない。木星軌道まで、おまえたちを送ったらムーンベースに帰るぜ」
ケンは、頷く。
「ブリュンヒルドが木星まで随伴すると聞いたが、そいつで帰るんだな。で、伯父貴の隣にいるのは誰だ?」
フッサールは、ふふっと笑い隣に佇む鋭い目をしたおんなに目を向ける。
「なあ、キルケゴール戦闘班長。このケン・ブラックソードは、見た目はクソガキだがな。こいつムシャヒディン連合がムーンベースを占拠したときに、戦艦二隻を撃沈してのけたんだぜ。しかも、ジャンク品を寄せ集めて作った、ハンドメイドのミリタリーモジュールに乗ってそいつをやってのけた」
フッサールは、丸い腹を震わせくっくと喉の奥で笑う。
「おれだったら、こんなおっそろしいガキの指揮をとるなんざあ、ごめんこうむるね」




