帝都への旅路 05-03
フランツは、微笑みながら頷く。
「ええ。パルシファルのベースとなったのは、第三帝国と同盟を結んでいた海洋帝国フソウが寄贈したマホロバ級と呼ばれる戦艦だったと聞きます」
「それを、改造したわけね」
フランツは、頷く。
「マホロバ級の戦艦が埋め込まれた天使の卵は、第三帝国の崩壊とともに失われました。けれど実際には、アセファルと名乗る秘密結社が手に入れていたのです。ハイゼンベルグ博士の研究成果と、共に」
シルビアは、物思いに耽るような顔でつぶやく。
「アセファル、無頭人という意味だったかしら」
フランツは、にやりとする。
「よくご存じで。秘密結社の主催者ジョルジュ・エドワルドは、無頭人こそが人類の最後の敵となると予言しています。アセファルの本当の名は、アセファル・コントラ・アタック、つまり無頭人に反撃し戦いを挑むものたちという意味だったのです。そしてその無頭人は頭を持たないのではなく、実は無限に頭を持ち千変万化に変化するがゆえに、ひとはその頭を認識できないのだといいます」
ロキが皮肉な笑みをみせつつ、口をはさんだ。
「たしか、ナイア・ラ・ト・ホテプ皇帝陛下も、幾千の顔を持つ帝王と言われてますな」
護衛官がうんざりしたような、ため息をつく。
「帝都で陛下と会えば、ふつうにひとつの顔と頭しかないことにがっかりするよ。そいつはよくある、比喩的な称号だね」
ロキと護衛官のやりとを気にした様子もなく、フランツは話を続ける。
「アセファルは、千年の時をかけ聖なる愚者パルシファルという船を造り上げました。パルシファルを造り上げる為に使用したテクノロジーは秘密結社の秘儀として隠匿され、そしてその秘儀はアーカム星系の学園惑星ミスカトニックに引き継がれます」
「ミスカトニックですって!」
シルビアは、驚きの声をあげた。
「銀河系内であそこだけは、帝国も手をだせない。なるほど、帝国の中央調査局も情報を持っていないわけね」
フランツは、にっと口の端を歪める。
「ミスカトニックは、暗黒種族とも不可侵の密約を結んでいるそうですからね。銀河内で、唯一帝国の庇護を必要としない場所です。僕はそこで、三年間学びました」
シルビアは、感心したように微笑む。
「そしてもしかすると、王族種はその天使の卵をコントロールするためにカール・ハインツ・シュトラウス博士が生み出したというんじゃあないわよね」
フランツは困ったような顔をして、ロキを見る。
ロキは、笑みを浮かべ肩を竦める。
「現存しているシュトラウス博士の論文に、そんなことは書かれていない」
フランツは、頷く。
「そもそもパルシファルとシンクロ関係を王陛下が築かれたのも、王族種であることが関係しているのか断定できるほどのデータがありません」
むう、とシルビアは唸った。
「まあ、確かにテラ王家は、最後の王族種ですものね。再現性確認をとれないわ」
フランツは、苦笑する。
「色々でたらめですからね、王陛下もパルシファルも。両方とも、唯一無二である可能性が捨てきれない」
シルビアは、首をかしげる。
「でも、そのパルシファルという呼び名で、よく判らないことがあるのよね」
ロキが、片方の眉をあげる。
「ほう。なんですかな」
「パルシファルは、聖なる愚者なんでしょう。でも、天から墜ちた輝けるもの、ルシフェルでもある。神話では、ルシフェルが聖なる愚者を誘惑して知恵の実を食べさせ聖なる愚者ではなくしたんじゃあないの?」
ロキは、ふむと頷く。
「まあ、それには異譚がありテラではそちらが、一般的だ。つまりルシフェルが知恵の実、すなわちグノーシスを授けたことにより造物主が与えた偽りの知恵が失われ、聖なる愚者が生まれたと」
「へぇ、そうなんですの」
シルビアは、感心したように目を丸くした。
護衛官は、少し咳払いをする。
「神話談義もけっこうなのだが、我々はもう少し実のある話をしてもいいのではないかね。調査局長」
「あら」
シルビアは、驚いた顔で護衛官を見る。
「わたし的には、とても実のある話ができたと思っているわよ。多分、ブロディ護衛官あなたの言ってるのは、これからの航海計画とかそんなのよね。わたし、はなから聞く気はないの」
護衛官は、呆れたように唸る。
「聞く気が、無いって?」
シルビアは、なぜか上機嫌に頷く。
「帝都への旅については、元々全て王陛下たちにおまかせするつもりだから、聞いてもしょうがないわ」
護衛官は、やれやれと首を振った。
ロキは、満足げに笑みを浮かべて頷く。
「では、シルビア調査局長。あなたにはご満足をいただけたということで、話は終わりでよろしいか?」
シルビアは取り澄ました艶やかな笑みで、頷く。
「ええ。けれど、興味本位の質問をひとつするわね。この船はエンシエント・ロードを使わなくても、量子化と再実在化ができるのでアクセスポイントは必要としない。けれど一応わたしの読みでは、木星のアクセスポイントを使ってエンシエント・ロードに入りそこを辿って帝都へと向かう。そうですわよね」
ロキは、少しフランツに目を向ける。フランツは、澄ました顔で応えた。
「残念ながら、そのとおりです。わたしたちは、十次元を伸張した空間を航海をするだけのノウハウがないですからね。十次元空間から再実在化したときに、そこが恒星のど真ん中だとかいう事態は避けないといけない。エンシエント・ロードとアクセスポイントを使えば、そのリスクは無くすことが出来ます」
シルビアは、満足そうに微笑みながら頷く。
「でも、木星のアクセスポイントからのびているエンシエント・ロードは銀河中心部、つまり暗黒種族の領域へ向かう。はたして、暗黒種族はこの船を見逃してくれるかしら?」
ロキは、獰猛な笑みで応える。
「もし暗黒種族がこの船に手をだせば、われわれひとという種がもう黙って滅ぼされるだけの存在ではないということを知らしめるだけですよ、シルビア調査局長」
シルビアは、少し口笛をふくと上機嫌に笑った。
「楽しみにしてますわ、そのときを」
護衛官はおいおいという顔をしてシルビアをみたが、シルビアは気にせず笑っている。
そしてその笑いに、ロキの豪快な笑い声が重なった。




