聖愚者の旅立ち 04-15
ごうん、と鈍い衝撃がエイリークにはしる。
突然全天周スクリーンが甦り、ヴァーハナクラスの姿が映し出された。
鋼鉄のリヴァイアサンを思わせる流線型の船は、もう手をのばせば届くのではないかと思えるほど近くにいる。
そのヴァーハナクラスに向かい、エイリークの艦首から放たれた掘削ドリルが飛翔していく。
ワイヤーでエイリーク本体と繋がったドリルは、バーニアで加速しつつ方向を制御して宇宙の闇を貫いていった。
プラズマロケットを噴射するその姿は、凶事を告げるという彗星の姿を思わせる。
ヴァーハナクラスの艦体のあちこちが、光り輝く。
鋼鉄の巨獣は姿勢制御のバーニアを使って転舵し、ドリルをかわそうとしている。
ホフマンが、嘲りの笑い声をあげた。
「今更、逃げられるかよ」
クラウスは銃把のようなコントローラを使い、巧みにドリルの制御をしている。
一瞬ドリルがいっそう眩いプラズマの輝きを放ち、最後の加速を行う。
ドリルは、ヴァーハナクラスの装甲板にくい込んだ。
「掘削ドリル、敵装甲板に命中、回転を開始します」
焔の花が宇宙空間に咲き開いたかのように、ドリルがヴァーハナクラスの装甲板を輝く花びらのような火花を撒き散らしながら引き裂いていく。
アステロイドの岩盤を掘削するためのドリルは、光り輝く焔の花を散らしながらヴァーハナクラスの胴体へと食い込んでいった。
額に汗を浮かべていたクラウスが、ようやく薄く笑う。
「掘削ドリルが、ヴァーハナクラスの装甲板を破りました。ビーム砲を、撃ちます」
「おう、フリードリッヒ司令の弔いだ、派手にいっとけ」
小さな太陽が炸裂したかのような輝きが、ヴァーハナクラスの胴体でおきる。
エイリーク本体から切り離されたドリルのビーム砲は、それほど強力な力を持つわけではない。
しかし装甲板をドリルでくい破り、その内側へ直接電磁パルスを浴びせたのだ。
電子兵装が全滅していても、おかしくはない。
ルーイは、とんでもない攻撃だと舌をまく。
ヴァーハナクラスは、メインブラストをはじめ全てのバーニア、全ての攻撃用兵装が沈黙する。
まるで、切り取られた影のように闇に包まれた鋼鉄の屍を、宇宙の海に晒す。
それを見届けたホフマンが、声をあげる。
「全員、対衝撃防御をとれ!」
ルーイが、え? と思った瞬間もの凄い衝撃が彼の身体をシートにたたきつける。
ルーイは視界が暗くなり、呻き声をあげた。
しばらく、全身が海の底に沈んだように重くなる。
突然、Gが失われ体が軽くなった。
ルーイは、全天周スクリーンを見て何が起きたのかを理解する。
エイリークはドリルに繋がったワイヤーを使い弧を描くようにヴァーハナクラスの周りを移動して、艦体を反転させていた。
そして、ドリルのケーブルに引っ張られる形で、急激な減速をしたのだ。
ケーブルが限界まで延び、エイリーク本体から切り離されたため今は減速が終わっている。
「ルーイ、メインブラスト、全開だ!」
ルーイはエイリークの機能が四十パーセントを越えて死んでいるのに気がついていたが、どうやらメインエンジンはまだ動いていることを知る。
「メインブラスト全開、減速します」
再び、全身がシートに押さえつけられ、ルーイは目の前が暗くなる。
さっきの無茶な減速で骨折まではしていないようだが、全身に痣ができるくらいのダメージがあるようだ。苦痛で、全身が悲鳴をあげている。
メインブラストの噴射でエイリークは減速してゆき、核融合反応弾による無茶な加速から立ち直ってゆく。
ルーイは、全てが無茶苦茶だと思う。
まるで巡洋艦をミリタリーモジュールのように、扱っている。
自分ひとりだと、絶対にしないし思いつくこともない操艦であった。
「よし、メインブラストの出力を通常に戻せ」
ホフマンは身体にかかる負荷をまったく感じていないように、普通の口調で指示をだす。
ルーイは、とても復唱する余裕がない。
身体にかかるGに耐えながらコンソールを操作し、1Gの減速にする。
ブリッジに、疑似的な重力が戻ってきた。




