聖愚者の旅立ち 04-08
「ヴァーハナクラス、百二十秒後に本艦主砲の射程に入ります」
オペレータの報告を聞き、フリードリッヒは笑みを浮かべる。
それはとても満ち足りて、穏やかな笑みであった。
「これより、最後の命令を伝える」
オペレータは、驚いて振り向くとフリードリッヒをみた。
フリードリッヒは気にせず、冷静な声で命令を伝える。
「全乗組員は直ちに艦載ランチへ移動し、本艦より脱出。百秒でやれ」
オペレータが立ち上がり、目を見開いてフリードリッヒをみる。
フリードリッヒは鋭い瞳で、前をみていた。
そして、峻烈な声をだす。
「時間がないぞ、直ちに行動にうつれ!」
オペレータは、少しだけ何かをいいたげに口を開いたがフリードリッヒの目を見て、すぐに閉じる。そして素早く敬礼すると、ブリッジの出口に向かった。
フリードリッヒは、オペレータが立ち去ったブリッジをみる。
そこに残っているのは、ひとではなくAIのユーザインターフェースたちであった。
ひとと同じようにヴァーチャルコンソールを操作してるが、その顔を覆う皮膚はひとでない証としてメタリックシルバーに輝いている。
戦艦の操作は、ほぼ無人でも可能だ。ただ、デーモンとのシンクロが失われるので慣性駆動はできない。それと、指示するものがいなければAIが自身の判断で攻撃を行うことは、決して無かった。
今フリードリッヒは、デーモンと精神のシンクロを行っている。
フリードリッヒはこころの奥底、静まりかえったところに金属の固まりのような異物を感じていた。フリードリッヒは、その異物を自分のこころの熱で覆いとりこんでゆく。
「ヴァーハナクラス、五十秒後に本艦の主砲射程に入ります」
UIの報告が、あがる。その声は、ひとと変わらぬものだ。
フリードリッヒは、頷く。
「グリムゲルデから、入電しました」
フリードリッヒが指示を出す前に、ウインドウが開きクリス・ローゼンクロイツの顔が映し出される。
深紅の薔薇が輝く顔を怒りで曇らせたクリスが、口を開いた。
「フリードリッヒ艦長、いったい何を考えているの! シュレーゲル君のたてた作戦を、無視する気なの!?」
フリードリッヒは、落ち着いた顔でクリスをみる。
「無視は、しない。少し、やりやすくするだけだ」
「ああもぉ、わたしに艦隊運用をまかせる気なのね」
フリードリッヒは、頭を下げる。
「元々、君の艦隊だ。お返しする。後は、頼んだ」
クリスは、切り刻むように鋭い眼差しでフリードリッヒを睨んだがあきらめたようにため息をつく。
「いいよ、好きにしなさい。あなたの旅路に、幸大からんことを」
クリスの画像が消え去り、フリードリッヒはもう一度深く頭を下げる。




