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最後の希望 01-03

 慌てたように操作端末に指を走らせ、ガンマ線を切る。

 霧と船影が消えるのと同時に、天井の一部が爆発した。

 護衛員が一斉に臨戦態勢を、とる。

 岩盤が形成した天井の最頂点でおきた爆発が、爆煙と砂塵をまき散らす。

 一斉に護衛員のアンチマテリアル・ライフルが火を吹き、爆煙に突き刺さっていった。

 いきなり爆煙が切り裂かれ、巨大なデモノマニアが姿を現す。

 竜のような翼を大きく広げ、夜の色をした怪物が深紅の口を開いて咆哮する。

 咆哮と同時に、焔の固まりが噴き出され、護衛員の放ったロケット弾が火に包まれた。

 地下ドームが真昼の光に包まれ、炸裂したロケット弾が衝撃波を放ちティークは地面に打ち倒される。

 夜の肌に包まれたひとの姿をもつデモノマニアは、斉射されるアンチマテリアル・ライフルの二十ミリ弾をかわしながら接近してきた。

 デモノマニアは、数メートル先まで近づいている。

 ティークは、夜の闇色をしたデモノマニアの顔に深紅の花が咲くように口が広げられるのをみた。

 その喉から火焔弾を発射すべく、焔の輝きが立ち上ってくるのがみえる。

 高熱で空気が揺らぎ、デモノマニアの顔が歪んでゆく。

 二十ミリ弾が数発デモノマニアの身体に命中し、赤い血飛沫があがったがデモノマニアを止める力はない。

 ティークが思わず目を閉じたその瞬間、彼の後ろでロケットランチャーの発射音が炸裂する。

 衝撃波が、ティークの全身を揺さぶった。

 ティークが目を開いたときにみたものは、頭部を吹き飛ばされてクレーターの底へと墜ちてゆくデモノマニアだった。

 ティークは立ち上がり、振り向く。

 規格より一回り大きな強化外骨格アーマーを身につけたおとこが、ロケットランチャーをかまえている。

 その装甲には、赤いハートに黒い十字を組み合わせた紋章が描かれていた。

 王家の、紋章である。

 ティークは、思わず呻き声をあげた。


「陛下! いったいなぜ」


 バイザーがあがり、鋭い瞳をもったおとこの顔が現れる。

 鍛え上げられた鋼の強靱さが、その顔から見て取ることができた。

 そして、その外骨格アーマーに包まれた身体にも、並外れた頑強さが感じ取れる。

 彼が王と呼ばれるひとならば、これほど頼もしい君主はいないと思わせる風貌であった。


「あれほど安全が確認できてから、おいでくださいと」


 王は、少し苦笑を浮かべる。


「命を救われておいて言う台詞かね、ティーク君」


 ティークは返す言葉に困り、口を閉ざす。


「それにしても、見事な戦艦だな。パルシファルという名で、あったか」


 王の言葉と眼差しに気がつき、ティークは振り向いた。

 そこには、巨大な戦艦が姿を現している。

 驚愕のあまり、ティークは再び呻き声をあげた。

 そして、フランツもまた驚愕の声をあげる。


「なんてことだ、どうやっても次元の歪みから引き上げられなかったっていうのに。陛下、あなたなにをされましたか」


 王は、少し片方の眉をあげ首をふる。


「何もしてはいないよ、フェルディナンド博士。ただ、見ただけだ」


 フランツは、肩を竦める。


「フランツと呼んでください、陛下。どうも科学者を名乗る自信が、無くなってきましたよ」


 ティークは、あらためてその巨大な戦艦をみる。

 さっきまで何もなかったクレーターの中に、洋上戦艦の形をした巨大な宇宙戦艦が姿を現していた。

 全長は見たところ、五百メートルはあるようだ。

 ティークの知るどんな洋上艦よりも、いやおそらくどんな宇宙戦艦よりも大きい気がする。

 そしてその戦艦は、神話で語られる竜のようなシルエットを持つ。

 舷側には4機の大きな姿勢制御システムが装備されており、それが竜の四肢を思わせる。

 船体を覆う十二枚の可動式装甲板兼放熱板は、竜の翼のようであった。

 艦首から伸びる大きな二機のビーム砲は、竜の頭にみえる。

 その姿はまるで、鋼鉄製の双頭竜であった。

 王はその船、パルシファルを満足げに眺め頷く。


「フランツ君、君はこの船をどのように使うつもりかね」

「そうっすね」


 フランツは、王の言葉に軽い調子で応えた。


「この艦で銀河中心部をつっきって、銀河西部に居住可能な惑星を持つ星系をみつけます。後は、ひとをその星系へ移住させます」


 ティークは、唸って眉間に皺をよせた。

 フランツは軽くいってみせるが、テラのシェルターには一億のひとがまだ暮らしている。パルシファルが一度に五千人を運べたとしても、とうてい無理な話であった。

 王は問いかけるような眼差しを、フランツに投げている。

 フランツは王に、笑いかけた。


「地上のひとを、月面基地に引き上げます。パルシファルなら月ごと、量子テレポートすることができますよ」


 ティークの顔色は、さらに暗くなる。

 月ごと地球人類が、他星系へ移るなど。

 あまりに話が途方もなさすぎて、とても現実にできるなど想像ができない。

 たとえそれができたとしても、月面基地に収容可能なひとは一億を下回る。


「月面基地に収容可能なひとの数は、せいぜい四千五百万だろう」


 王の言葉に、フランツは笑顔で応えた。


「月の設備をフル稼働させれば、五千万のコールドスリープ装置が用意できます。五千万なら、月面基地を拡張して、ぎりぎり収容できます」


 王はうなり声を、あげる。

 理論的には、可能な計画なのかもしれなかった。

 予測不能なリスクが満載の、地球人類存亡をかけた一大プロジェクトになるのは間違いない。

 王は、外骨格アーマーのヘッドギアをはずし頭を出して顔を剥き出しにした。

 為政者というよりも、戦士が相応しい精悍な風貌である。

 しかし、その晴れやかに澄んだ瞳には、深い覚悟があった。

 王は、その瞳で真っ直ぐにティークを見つめる。

 ティークは、無意識のうちに表情を引き締め姿勢を正した。

 いつの間にか、ティークの瞳からも不安や迷いが消えていく。

 王は、ゆっくりと頷いた。


「ティーク君、君にこのパルシファルを使った地球人類移住プロジェクト、ラグナロク計画を推進してもらうこととする」


 ティークは一瞬、頬をふるわせ蒼ざめたがそれでもしっかりと頷いて見せた。


「あらゆる資源、人材を君の裁量で動かしてもかまわない。そしてフランツ君。君はティーク君の補佐として実行面をサポートしてもらう」

「ああ、いいっすよ」


 フランツは、軽く応え薄く笑う。

 王は、それを見て大きく破顔してみせる。


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