最初の接触 02-10
「敵艦に再び高エネルギー反応、次撃がくるわよ」
スクルドの声が、ブリッジに響く。
「次撃の予想時間は、六十秒後」
スクルドの声に、ヴェルザンディの声が重なった。
「主砲、エネルギーチャージ完了。いつでも発射できます」
ダーナは、ターゲットスコープを見つめる。
こちらもまだ、敵艦が有効射程にはいっていない。
敵艦とほぼ同時に、有効射程にはいることになりぞうだ。
スコープ上の敵艦は、映像が時折歪む。
電磁的ジャミングと光学的ジャミング、熱センサー向けアクティブデコイを使用しているらしく、敵艦との間に存在する索敵ドローンの送る情報が幾度も狂わされる。
ダーナは、不敵に口を歪め笑った。
(なめてるんじゃあ、ないわよ)
ダーナは虚像が二重三重に浮かび上がる中で、はきっりと敵艦の動きをつかんでいた。
本物の敵艦を、スコープのレティクル(十字線)中央にしっかりとらえる。
それは、獲物を狙う野獣の勘に近いものがあった。
(こんな小細工したって、無駄無駄!)
ダーナはこころの中で雄叫びをあげ、コントローラーの撃鉄を引いた。
それと同時に、スクルドが叫ぶ。
「次撃、きたぁぁあ!」
ごん、という主砲発射の衝撃が走った直後に、艦体が鷲掴みにされシェイクされたような振動がおこる。
ずううんと、艦が震え全ての照明が落ちた。
ブリッジは液体のように濃い闇に満たされ、ユーザーインターフェースたちの姿も消える。
まず、非常灯が回復しブリッジ内を赤く照らす。
アラート音が鳴り響き、全天周型スクリーンに赤い警告メッセージが並んでゆく。
突然、照明が復活しユーザーインターフェースたちも姿を現した。
ヴェルザンディがダメージの対処をしながら、報告する。
「敵ビーム砲撃は、バリアに直撃。電磁パルスの七パーセントを艦体に受けました。戦闘システムのクラスター基盤ユニット二十パーセントが被弾した影響で破損。現在は、システム復旧済みです」
ワルターは、落ち着いた声でヴェルザンディに問いかける。
「艦の機能低下は、どの程度だ?」
ヴェルザンディが、慌ただしく動きながら応える。
「予備系起動済みなので、現時点での機能低下はありません」
ワルターは、静かに頷いた。
まあ、悪くはない。
スクルドが、声をあげる。
「本艦、敵艦とも主砲の使用可能域からはずれました」
ワルターは、頷く。
主砲は距離が近くなると、艦の動きに照準を合わせることが出来ない。
ミドルレンジの戦闘では、メインビーム砲と違う武器を使うことになる。
敵艦の分析結果を終えたウルズが、報告の声をあげた。
「敵艦が受けた電磁パルスの量は、本艦の倍と予測されるわ。敵のダメージは本艦より、多きい。姫様のコントロールは敵の砲手より、上回ったわね」
なぜかアグネスが得意げな顔をしてみせたが、ダーナは首を振る。
「まあでも、敵艦の機能低下はなさそうだから互角とかわらないよ」
ワルターは、笑みをみせる。
「互角なら、上出来だ。姫様、礼をいわせてもらう」
ダーナは、優雅にお辞儀をした。アグネスが得意げな笑みを浮かべ、拍手する。
ワルターは、宣告するような声をあげる。
「本艦は、これより機動戦に入る」
宇宙戦艦の戦闘は一般的にはロングレンジからのビーム砲撃ち合いからはじまり、ミドルレンジでの機動戦、そして最終的にはショートレンジでの近接戦となる。スペックが互角なら、大体は近接戦までもつれ込むことが多い。
「敵艦から、飛翔体が発射されたわ。数は二十。本艦到着まで、約200秒!」
スクルドの叫びに、ウルズの言葉が重なる。
「形状からすると、戦術核を搭載したスペースミサイルのようね」
ワルターは、鼻をならす。
どうやら連邦のヴリトラクラスは、こちらがまともにミドルレンジでの戦闘ができないとふんでいるようだ。
そしてそれは、あたっていた。
アグネスが、ワルターに声をかける。
「艦長、迎撃用クラスタミサイルを撃ちますか?」
ワルターは、首を振った。
「迎撃はするが、クラスタミサイルじゃあない。AEEHE(対電子兵装榴弾)を使え」
「ラジャー」
アグネスが、ヴァーチュアル・コンソールを操作しミサイルの発射準備にはいる。
ダーナが、ひゅうと口笛をふいた。
「ワルター艦長、海賊戦法でいくわけね」
海賊戦法とは、ロングレンジやミドルレンジの戦闘をとばしていきなり近接戦に持ち込むやりかただ。
ワルターは、憮然とした声で応える。
「残念ながら、本艦はまっとうなミサイル戦をできるほどの装備がない」
ブリュンヒルドは調査目的の練習艦であり、ミサイルでの殴り合いをすれば勝ち目はない。
まだ、至近距離でスペースキャノンを撃ち合ったほうがましだ。
ダーナ王女は、なぜか猫科の肉食獣じみた笑みを口元に浮かべる。
「足を止めて、真っ向からどつきあう。戦艦バトルの醍醐味、ってやつね」
ワルターはうんざりしたような、ため息をついた。
近接戦は、おそろしく原始的な戦いだ。
技術もくそもなく、艦の耐久力と火力だけでかたがつく。
ただ、今の素人が操艦するブリュンヒルドがとれる選択肢は、それしかない。
どんと、ブリッジに衝撃がきた。
「AEEHE(対電子兵装榴弾)が、炸裂。十次元波動がきます」
ヴェルザンディが声を上げると同時に、その姿が一瞬消える。
ブリッジの照明が落ちるところまではいかないが、全天周型スクリーンの映像が幾度か乱れた。
UIたちの姿も点滅するように、揺らめく。
「敵艦の発射したスペースミサイルは、制御を失い本艦の後方へ逸れていきます」
ワルターは、うなずく。
もう、敵艦は目の前に近づいていた。
「本艦は、これより近接戦にはいる」
そして、ふてぶてしく口元をゆがめた。
「姫様のいうところの、どつきあいだ」
ユーリ・ノヴァーリスは、ごくりと喉をならせた。




