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剣豪勇者~異世界に降り立つ  作者: 四条村正
8/25

サクヤ

「久我山さん、大変長らくお待たせ致しました。こちらがご注文の品です」


  ギルドの食堂で少女の声がするのでちらりと視線をやる。ただ、若い

 女性の声と言っても、実際はおばさんだったと言う落ちはちょくちょく

 ある。それでも毎回確認してしまうのが、♂の悲しい性である。


  久我山と呼ばれた男は長い布包みを手に取る。剣か何かかと一瞬

 思ったが、ロングソードとは形状も太さも長さも少し違う。少し反って

 いる。彼は袋の紐を解き、棒状の何かを取り出す。


「さすが本物の匠が作る日本刀は出来が違う、何より美しい」


  鞘から刀を抜き、むき出しにした刀身を色々な角度で眺める久我山。

 一通り確認した後、少し手持ち無沙汰にしている少女がいることを

 思いだし、重そうな袋包みを鞄から取り出す。


「これが、約束の金だ。前払い金とこれとで合わせて3000ゴールド

 で良かったんだな?」


  その金額を聞いてどん引きする俺。武器屋に置いてある鉄の剣の

 30倍の価格である。幾ら日本刀とは言えそこまでしないはずだが……。


「ありがとうございます。またごひいきに」


  そう言って少女は深々と頭を下げる。結び紐でまとめた髪も同時に

 揺れる。彼女がゆっくりと面をあげると、そこには柔らかな、まだ

 あどけない笑顔がたたえられていた。


  俺が一際目を惹かれたのは、その服装の異質さだ。アルタインでは

 まず見かけない和装。正確には洋装と和装が入り交じったような夏服だ。

 現代の日本でも存在してなさそうな特徴的なデザインの服だ。


  袖が無くノースリーブで帯があり、下位は袴スカートだった。

 まさに『大正桜に浪〇の嵐』とでも言い出しそうな出で立ちだ。


  彼女の腰には脇差しと打ち刀が挿し込まれている。


  見れば見るほど美少女だ。大和撫子と言ってもいい。ここは日本じゃ

 無いけど。彼女は長い袋包みを何本か持ってきていて、辺りをキョロ

 キョロ見渡していた。


  ここで待ち合わせの約束でもしていたのだろうか? 丁度ギルマスが

 現れたのでギルマスと話をしている。俺が働き始めて全く記憶になかった

 のだが、彼女はここに良く来るのだろうか?


  気さくに話し掛けている辺り常連という感じがする。


  そして彼女は何度かこちらをチラチラと見ている。俺に何か用なのか?

 まさか、あの美少女に一目惚れされたのか!? ……そんな訳ないか。

 多分、俺が武器を欲しがっている件についてだろう。


  正直冒険に行く気と行かないのと実は半々なのだ。エイルは最初俺を

 魔王討伐へ連れて行きたがったものの、段々変な方向に突き進みつつある。

 朱に交わればなんとやらである。


  ギルマスと一様に会話を交わした後、彼女は予想通りこちらにやって

 きた。


「こんにちは、あなたが勇者様ですか?」

「勇者にクラスチェンジできない雑魚冒険者ですよ~」


  もはやお決まりのようなやりとりを交わす。『勇者の腕輪』等と言う

 大層な物を所持してはいるものの俺はまだ冒険者LV1だ。勇者様と

 やらではない。


「そう言えば、勇者ってなるとレベルが1にリセットされるらしいですね」

「まじでか」

「だから、一概にそれがデメリットとも言い切れないですよー」


  なんだよ、エイル知ってたら最初から言ってくれれば良いのに。

 と言う事は冒険者99になってから勇者になればレベルがリセット

 されてステータスはある程度引き継がれた強い勇者のできあがりか。


  だるいな……。だるいが……それしかメリットがないのなら、

 そうするしかないんだろうな……。


「ふふふ、随分悩んでますね。他には武器が無くて困ってらっしゃる

 とか?」

「ここで金を貯めて武器を買おうかとも思ったんだけどねー、物理的に

 かなり無茶だという事に気づいてしまってな……」


  何しろ一月朝から晩まで働いて3ゴールドだからな。食事は賄いが

 出るからそこまで困らないし、酒はエイルが貢がれているのが結構

 貯まってきているのでそこまで困らない。


  あいつ色々な物貢がれてるもんな。服とかも暇があれば縫ってくれ

 るし、あんなに甲斐甲斐しく世話をされると何気に良心が痛む。


  彼女に報いるには、魔王を倒すか、結婚して子供を作るか、現状

 思いつく限りその二択だ。しかし3ゴールドの仕事で子育てまでと

 なると……。


  どっちにしても踏ん切りつかんよなー。


「私、こう見えても刀鍛冶なんです」

「まじで!?」


  あの立派な刀をこの子が打ったのか!? まさか? もしかして、

 この子ロリばばあって奴なのか? 見た目通りの年齢じゃないとか?

 くわばらくわばら!?


「ちょっと失礼な事考えてません?」


  いや、そんなこと無いよ!? どう見てもばばあじゃないよね!?

 ごめんね!? 君、普通に若い子だよね!?


「まぁ、先ほどの刀もこの刀もおじいさまが打った物なんですけどね。私は、

 刀鍛冶と言ってもまだまだ見習いです」


  悪戯な笑みが俺の心を締め付ける。これは恋という奴なのか?

 あざとい、あざといな畜生! かわい過ぎる!


「デレデレして嫌らしい……」


  とげとげしく嫌みを言い放ったのはカタリナだ。いたのかお前!

 同じ黒髪でもやはり顔立ちが違う。刀鍛冶の少女はやはり日本人顔だ。

 そして俺はこっちの顔立ちのが好みだ!


「そう言えば、土下座して踏みつけられてたとか? ふふふ」


  そう言いながらコロコロと笑う少女。なぜ知っている!? まぁ、

 皆見てたよなぁ……。くっそーさすがに二度目には抵抗がある。


「ですから、私が打ちましょうか? 刀はまだできませんけど。鉄の剣

 なら、武器屋に卸してますから」

「そりゃ……有り難い。有り難いが……」


  ただでくれる物ほど高い物はないというしな。見返りはなんだ?


「そうですね。私は鍛冶師の見習いであると同時に剣術も嗜んでおり

 まして。周辺のゴブリンは斬り飽きてしまったので、もう少し歯ごたえの

 あるモンスターと戦いたいのです」


  もしかしなくてもグリフォンとかグリフォンとかか!? ちょっと、

 この子のステータスを覗き見てみるか。エチケットに反するが……。


  『サクヤ』レベル5、クラスはサムライ。クラフトジョブは鍛冶師。

 ステータスはレベル5とは思えない位高い……。


  俺の所持する勇者の腕輪は魔法を掻き消したり詠唱したりする他に、

 瞬間的にだがステータスブーストが掛かる。通常時は冒険者レベル1だ。

 しかしブースト状態ではレベル30相当に跳ね上がる。


  しかも戦闘時は自動で回避したり剣術の動きのトレース機能が

 あったりと至れりつくせりだ。勇者にクラスチェンジすると同時に

 こういった機能は消えてしまうので、それまでに体に覚え込ませろと

 エイル様はおっしゃっていた。鬼である。


  話が逸れた。つまり彼女サクヤのステータスは30相当なのである。

 おかしい。たまにこういったステータスブーストされた特殊な個体が

 いるらしいが。彼女がそのレア枠なのだろう。これも『ギフト』の力

 と言う奴か。


「不安ですか? 大丈夫です。グリフォン程度になら後れは取りません。

 それに私には祖父直伝の魔導錬成が使えますので。まだ未熟で短時間

 しか使えませんけど」

  

  魔導錬成とは魔導錬金術の一種らしい。ここでの錬金術は大抵が

 魔導錬金術だ。魔法力を使って物を生成する技術で、触媒と魔法を

 組み合わせて作り出す。


  特に魔導器なる魔法の道具類は錬金術でしか基本作り出す事が

 出来ない。恐らく先ほど渡していたクソ高い刀も魔導錬金と鍛冶で

 作り出された物なのだろう。通りで高いわけだ。


「そして、魔導錬成『神器降臨の儀』を使えば、神代の時代より伝承

 される神々の武器をも一時的に作り出す事が可能なのです。私は、

 ものの数分しか維持できませんが、祖父ならば一時間弱は保持が可能です」


  おおう、とんでもないチートきたー! でも数分しか持たないのなら

 あんまり強すぎる敵は無理だな。


「ああ、いけません。名前を名乗るのを忘れていました。サクヤと申し

 ます。日本神話のコノハナサクヤビメが名前の由来です。桜のように

 美しく育ちますように、だそうです」


  彼女のご両親の願い通り、桜のように美しい少女に育っている。


「俺はキョウイチ。キョウイチと呼んでくれ」

「はい、キョウイチさんですね。これからよろしくお願いします」


  彼女が礼儀正しくぺこりとお辞儀をすると。同じく俺もぺこりと

 頭を下げる。他の人々には少し異様な光景にも映ったかもしれないが、

 日本人なのだからしょうがない。


  グリフォン包囲網が着々と構築されている気もするが……。

 まずは、剣を貰ったら周辺のゴブリン狩りだな……。

       

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