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プロローグ

僕は部屋の隅で泣いていた。

クラスの男子で逆上がりが出来ないのは、自分だけだったからだ。

当然周囲からは馬鹿にされる。


いつもそうだ。

何をやっても上手くいかない。

頑張って運動してもクラスのかけっこではいつもビリ。

勉強だって、家で復習しても直ぐに頭から抜けて行って、テストは散々な結果だった。


そして無能な僕は、いつも皆に笑われ馬鹿にされる。


1番になりたいなんて言わない。

せめて普通になりたかった。

だから努力し続けた。


でもその先に待っていたのは、何の結果も伴わない――自分がどうしようもない無能だと言う真実。


僕は現実に打ちのめされ、ただ泣く事しかできなかった。

こんな事、両親には話せない。

だって悲しませるだけだから。


だから僕はわが身を呪ってベッドに潜り込み、声を殺して只々一人で枕を濡らす。


「どうして泣いているの?」


不意に声を掛けられ、顔を上げる。


布団を被っていた筈なのに、それはいつの間にかなくなっていた。

涙でぼやけた視界には、耳の長い、金髪で、大きな金の瞳の少女が写る。

僕は慌てて涙を袖で拭った。


「泣いてなんか……泣いてなんかないよ」


「……」


少女は無言で僕の顔を見つめる。

気恥ずかしくなった僕は顔をそらし、話題を変えた。


「それより、ここはどこ?」


気付けばそこはお花畑だった。

鼻の甘い匂いが鼻腔を擽る。


「ここはね、たぶん夢の世界」


「夢の世界?」


突拍子もない返事に、思わず目を見開く。


「そう、夢の世界よ」


夢の世界……普通に考えれば荒唐無稽だ。

でも何故だろう。

その言葉は僕の胸の中にすっと入り込み、彼女の言葉を信じる事が出来た。


「じゃあ、君は夢の妖精さんなの?」


それなら……凄く可愛いのにも納得できた。


「うふふ、違うわ。私もあなたと同じで、この場所に迷い込んでいるだけよ」


少女がにっこりと笑う。

凄く、凄く綺麗な笑顔だ。

胸がドキドキして顔が熱くなる。


これはいったい何なんだろう?


「お顔が真っ赤よ?大丈夫?熱があるんじゃない?」


「だ、大丈夫!何でもないよ!」


声を掛けられドキンと心臓が跳ね上がる。

慌てた僕は、わたわたと顔の前で手を振って誤魔化した。


「本当に?」


「うん……本当に大丈夫」


「そう、良かった」


そう言うと再び彼女は微笑んだ。

その太陽の様な眩しい笑顔を直視できず、再び僕は目を逸らした。


「それで?何で泣いていたの?」


「!?……別に……泣いていたわけじゃないよ……」


痛い所を付いてくる。

女の子に泣いている所を見られたなんて……早く忘れてしまいたいのに……


「お父さんとお母さんがね、泣いてる子を見たら話しを聞いてあげなさいって」


少女は僕の前でしゃがみ込み、僕の目を真っすぐに見つめる。


「だから教えて、貴方の事。好きな事。嫌いな事。そして何故泣いていたのかを……」


視界が霞む。

瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちた。


彼女は、僕の事を知りたいと言ってくれた。

こんな僕の事を。

それが嬉しくて……嬉しくて……


「う……うわああぁぁぁぁぁぁぁ……」


僕は恥も外聞もなく大声を上げて涙を流した。

そんな僕を、彼女は優しく抱きしめてくれる。


この日、初めて僕に友達が出来た。

それは夢の中の美しい少女。

所詮夢なのかもしれない。

でも彼女がいてくれたから、僕は最後まで諦めず頑張る事が出来た。


僕にとって彼女は女神だ。

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