第三章:嬉しい再会
とぼとぼと部屋へ戻っていたユノアに、後ろから声をかけるものがいた。
「ユノア!」
またユノアに近付こうとする兵士の一人だろうか。
さすがにまともに相手をする気分にはなれなくて、ユノアは早足になって、無視しようとした。
だが、その声は、しつこく食い下がってくる。
「お、おい。待てよ。ユノア!」
走ってきた男に無理やり肩を掴まれて、思わずユノアは怒鳴ってしまった。
「何よ!しつこいわね!」
すると男は、驚いた顔をして、しょんぼりしてしまった。
「な、何だよ。ひでぇな…。まさか俺のこと、もう忘れたのか?」
そう言われて、ユノアはようやく男の顔をしっかり見た。
ユノアの顔に、驚きが広がる。
「ま、まさか。ラピ?」
それは、スラムにいたラピだった。ラピはにかっと笑ってみせた。
「ああ、そうさ!」
ユノアも喜びの笑顔になった。
「本当に、ラピ?どうしたの?こんなところで…。その格好。まさか、あなたも兵士に?」
「ああ。もう軍に入って三ヶ月にもなるのに、ユノアは全然気付かないんだもんな。ユノアはいつでもどこでも目立つから、俺はずっと見てたのに」
「ご、ごめんなさい…」
「それに、スラムにももう一年以上来てくれてないだろう。ちび達がずっと寂しがってるんだぜ」
「…ごめんなさい」
ユノアは謝るばかりだ。
そんなユノアを見て、ラピは面白そうに笑っている。ラピの笑顔を見て、ユノアも笑顔になった。
ユノアとラピは、近くにあった長椅子に腰掛けた。
「それにしても…。あなたが兵士になるなんて、夢にも思ってなかったわ。商人になりたいって言ってたのに」
ユノアの問いかけに、ラピは頭をかいた。
「その夢はもちろん諦めてないけど…。商人になるにしても、何にしても、まずは金がいるだろ!兵士の給料って、めちゃくちゃいいからさ」
「そ、そんな理由で?」
「あ。今馬鹿にした?大事なことなんだぜ。俺達が普通に働いたら、一年かかる給料を、兵士になれば一ヶ月で貰えるんだ。それに、俺って結構兵士に向いてるらしくてさ。見込みがあるって、期待されてるんだぜ」
確かに、スラムで一緒に遊んだとき、子供達、特にラピの動きの良さには驚かされたものだ。あれほどの運動神経を持つ者は、そうそういないだろう。
「もちろん、俺の夢は商人になって、世界中を飛び回ることさ!そのために今は、兵士として活躍して、金を溜めるんだ。それに兵士として働けば、俺達に目をかけてくれたヒノト王様に恩返しをすることにもなるしな。一石二鳥。俺って頭いいだろ?」
スラムにいたときと同じで、ラピの目はきらきら輝いている。夢を持っているからだろうか。
ラピの目が、ユノアはとても好きだった。ラピと話をしていると、ユノアの心も晴れやかになった。
ふとラピが、眉をしかめてみせた。
「ところでさ。ユノアこそ何で兵士なんてやってるわけ?お前、女なんだぜ。女の兵士なんて、聞いたことねぇよ」
ユノアは困ったような笑みを浮かべた。
「…私にも、目標があるの。そのために、手柄を立てて、出世したいのよ。お金のためだっていうラピとは違うけど、私も兵士になることに、夢を託してるの」
「ふーん…?」
ユノアの言葉を追求しようとしたラピの口は、ばさりという羽音に遮られた。音のしたすぐ後に、ユノアの肩にずしりと重い何かがのってきた。
ユノアの顔が、優しい笑顔に変わる。
「チュチ!」
ラピも驚いた顔をした。
「え。あれ、こいつ、もしかして、ユノアが連れて帰った、あの雛か?」
「うん。そうよ。飛べるようになってからは、こうやって私を見つけて飛んでくるの」
「へぇー。驚いたなぁ。大きくなったなぁ!チビ達がさ、雛どうしてるかなって、ずっと気にしてたんだぜ。こいつを連れて、また遊びにきてくれよな」
「そうね。ぜひ行きたいわ!」
二人の会話は、スラムでの思い出話や、子供達の近況に変わっていった。