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星姫の詩  作者: tomoko!
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第三章:女戦士

大好きなヒノトが他の女性のものになってしまい、深く落胆するユノア。これから生きていくために、新たな目標を見つけようとする。ユノアが選んだのは、女の身でありながら、兵士として生きる道だった。

この選択は、ジュセノス王国とグアヌイ王国の、長年の因縁に決着をつけるきっかけとなるのだろうか?

そして、ヒノトへの愛に目覚めたユノアは、愛することの苦しみを感じていくことになる。ユノアの想いが報われる日はくるのか?


 ジュセノス軍の兵士達が、訓練が終わったというのに、軍事練習場に留まっている。

 兵士達は円をつくって座り込むと、大声を張り上げ、身体を揺らしている。かなり興奮しているようだ。

 円の中心には、二人の人間がいた。その一人はユノアだ。もう一人は、ユノアよりも二、三歳年上の兵士のようだ。

 二人は訓練用の甲冑を身につけ、手には竹刀を持っている。

 二人は今、決闘の最中なのだった。決闘とはいっても、もちろん訓練の延長だ。

 訓練の腕試しとして、こうした決闘はよく行われる。勝者は認められ、賛辞を受ける。敗者は蔑まれ、惨めな思いをすることになる。勝者となるために、兵士達はより一層訓練に励むのだ。

 いつ起こるか分からない戦争よりも、こうした決闘の方が、兵士の腕前を上達させるのに役立っていた。

 周りを囲む兵士も、日頃の鬱憤を晴らすかのように、声を張り上げ、どちらともなく声援を送っている。

「いけー!そこだ!」

「ああ、絶好のチャンスだったのに…。馬鹿やろう!そこで怯むな!」


 ユノアがジュセノス軍の一兵士として訓練に参加してから、半年が経とうとしていた。

 始めは、剣や弓など持ったこともなかったユノアだったが、その上達ぶりは凄まじく、今や軍の中でもトップクラスの達人になっていた。

 訓練後の決闘を、最近ユノアはよく申し込まれていた。

 大抵ユノアは勝利するので、ユノアに対する評価は確実にあがっていた。

 最初は面白半分に決闘を申し込んでいた兵士達も、今では自分の実力向上のために、ユノアと対決するようになっていた。


 今日の決闘にも、決着が着こうとしていた。

 相手の兵士の竹刀が弾き飛ばされ、尻餅をつきながら倒れこんだ。その首元に、ユノアが竹刀をつきつけた。

 荒い息をつきながら、兵士はうな垂れた。

「参りました…」

 ユノアがにっこりと笑うと、周囲で観戦していた兵士達がどよめいた。ユノアに対する賛辞の声が溢れる。

 服の裾で汗を拭うユノアに、タオルや水筒を持った兵士が駆け寄ってきた。

「ユノア。この水を飲みなよ」

「俺のタオルを使って」

 ユノアは素直にそれらを受け取った。

「ありがとう…」

 ユノアの周りには、二十人以上の兵士の人垣ができていた。

 ユノアが美味しそうに水を飲むのを、兵士達は頬を緩めて見守っている。

「凄いなぁ、ユノアは…。また上達したんじゃないのか?どうやったらそんなに上達できるのか、練習の方法を教えてくれよ」

 ユノアは笑って言った。

「私はただ、将軍が指導される通りにやっているだけよ」

「…俺達とやってることは変わらない筈なのになぁ…。やっぱり、元々の運動能力が違うんだろうなぁ。」

 兵士達は溜息をつくばかりだ。


 だが、実際には、ユノアはここにいる兵士達の何倍もの練習を積んでいるのだ。他の兵士が、訓練が終わって飲みに行っている間にも、ユノアは剣を振るい、弓を引いた。手に出来た豆も、すっかり手の一部になっている。

 だが、ユノアの地道な努力を知る者は少ない。派手な外見のせいもあって、ユノアの武芸の上達は、生まれ持った才能のせいにされることが多かった。

 ここまで急激な上達をされれば、兵士が才能のせいにしたくなる気持ちも分かる。

 だがユノアには、早く上達しなければならない理由があるのだ。ユノアは早く認められなかった。ヒノトの寵愛を受けていた可愛い女の子ではなく、一人前の人間として見られたいのだ。

 軍の中で出世したら、またいつかヒノトの側にいけるかもしれない。そんな想いも、もちろんあるのだろうが…。


 取り囲む兵士達の輪から何とか抜け出して、部屋へ戻ろうと歩き出したユノアだったが、兵士達は尚も追いすがってくる。

「なあ、ユノア。今夜一緒に飲みに出ないか?」

 こんな誘いも何度も受けてはいるが、ユノアは愛想笑いをして断ろうとする。

「ううん、私はいいわ…。みんなで楽しんできて」

「何でだよ!行こうよ。結局一度も来てくれたことがないじゃないか」

「俺達と飲みに出るのが、そんなに嫌なのか?」

「そ、そういうわけじゃないけど…」

 最初のうちはすぐに引き下がっていた兵士達だが、こう何度も断られると、だんだんと意固地になってしまうらしい。今日はなかなか引き下がる様子がない。

(どうしよう…)

 断る口実を思いつけずに、ユノアは途方にくれた。




 その時、その場の雰囲気に似合わぬ鋭い声が聞こえてきた。

「おい、お前達」

 慌てて振り返った兵士達の視線の先には、ガイリがいた。

 ガイリは不機嫌そうな表情をして、睨みを利かせている。

「訓練が終わったなら、さっさと部屋へ戻れ。馬鹿のようにはしゃいでるその姿を王宮の他の人間が見たらどう思うか。軍の威厳など形無しだぞ」

「は、はい!ガイリ将軍!」

 不機嫌なときのガイリは、殺気にも似た冷気を漂わせる。兵士達はすっかり凍り付いて、ぶるぶると震えている。

 一刻も早くガイリの側から離れようと、一目散に去っていった兵士を見送りながら、ガイリはじろりとユノアを睨んできた。

 ユノアもたじろいで、そっとガイリから目を逸らした。

 実は今ユノアは、ガイリから直接、訓練指導を受けるの部隊の一員なのだ。不機嫌な目をした上司が、ユノアに近付いてきた。

「…兵士達を誘惑するな。軍の中に女がいるというだけで、浮き足立つ馬鹿者もいるんだ。お前のせいで軍の統率が乱れるようなことは許されない」

 ガイリの言い草に、ユノアもかちんと来た。

「誘惑だなんて、そんなことしてません!今だって、決闘をしてただけで…」

「純粋に腕試しをしたいのではなく、お前に近付きたいという兵士達の魂胆に全く気付いてないと言うつもりか?…まあいい。兵士達の誘いに乗らなかったことは褒めてやろう。…新しい輩が来る前に、さっさと部屋へ戻れ。」

 そんなセリフを残して、ガイリは立ち去ってしまった。


 確かに、軍の中には、美しいユノアに本気で惚れ込んでいる兵士もいるのだ。ユノアは純粋に、一兵士として頑張りたいと思っているのだが、兵士を訓練、監督する任務のあるガイリは、ユノアの女としての魅力が、兵士の心を乱すのを極度に警戒しているらしい。

(私が女なのは、仕方のないことじゃない!)

 ガイリの態度に腹を立てながら、ユノアは落ち込んでしまった。


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