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星姫の詩  作者: tomoko!
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第一章:脅威的な能力

 三人の方に、遠くにあった大きな雲が流れてきた。

 一瞬にして、視界が真っ白になる。その雲は、あっという間に流れ去った。

 視界が開けたとき、そこに広がっていたのは、今まで雲が隠していた、草原の真の姿だった。

 三人がいる草原は、やはりとても高い場所にあるのだと判明した。一面緑色の下界から、天空に向かって幾つも山が突き出している。その山々には、いわゆる峰と呼ぶべきものがなく、どれも大地から垂直にそびえ立っている。その山の頂上に、三人は立っていた。

 それはあまりに壮大な自然の姿だった。その光景を見て、ダカンは確信した。やはりここは、本来人間が立ち入れる場所ではない。ここは、神の領地なのだ。


 何かに引き寄せられるように、ユノアが歩き始めた。ダカンとカヤも慌ててその後を追う。ユノアが向かう先には地面がなくなっていた。崖になっているのだろうか。だがユノアは構わず歩いていく。

 ユノアは崖の直前で足を止めた。背筋をぴんと伸ばして立ち、じっと前を見つめている。

 ダカンとカヤは身を屈めて抱き合いながら、そっと崖の下を覗いた。そのあまりの高さに、めまいがした。まさに垂直に、山肌が切り立っている。下に雲が見えたことから、この場所の高さが想像できた。

 カヤが気を失いかけて前のめりになったのを、ダカンが引き戻して、二人は後ろへ倒れこんだ。恐怖が二人を支配する。何という場所に来てしまったのだろう。

 擦れた声で、カヤがユノアを呼んだ。

「ユノア…」

 だが、ユノアは気付かない。カヤが手を伸ばそうとするのを、ダカンが止めた。カヤを抱きしめてやりながら、ユノアを見守ることにした。ユノアが何かを感じている。今はきっと、自分達のことなど忘れてしまっているのだろう。

 ユノアが無造作に、断崖に座った。足を崖の外に放り出している。だがユノアは、全く恐怖心を感じていないらしい。ゆっくりと景色を見渡したり、目をつぶたりして、何かを感じようとしている。

 ユノアは確かに自分自身の変化を感じていた。さっきからずっと、心臓がもの凄い勢いで脈打っている。身体が火照って、身体の中心で何かが、ずしりと重く存在をアピールしている。ユノアは身悶えた。身体の内側が膨張して、破裂してしまいそうだ。


 ユノアの瞳の色が変わっていく。これまでは、淡い茶色だった瞳が、鮮やかなエメラルドグリーンに変化した。


 突如、草原に突風が吹きぬけた。ユノアの銀色の髪の毛が、風に揺られてきらめいた。その瞬間、ぞくりとした感覚が、ユノアの足先から身体を縦断して、頭頂部から抜け出していった。ユノアは目を見開いて、その衝撃に耐えた。

 ユノアの身体から溢れ出したパワーは、風となり、辺りを駆け巡り始めた。風は渦となり、そして遂に、ユノアの身体がその風によって持ち上げられ、宙に浮いたのだ。

「ユ、ユノア…!」

 ダカンとカヤは強く抱き合って、お互いの身体を支えていた。強風に耐えるため、地面を踏みしめる足先が、地面に食い込み、それでもじりじりと押されて溝を造った。少しでも気を緩めれば、吹き飛ばされてしまうかもしれない。

 噴き出す力を制御できずに、宙に浮いたまま茫然自失としていたユノアが、はっとダカンとカヤの方を見た。今にも吹き飛ばされそうな二人に気付いて、手を伸ばしてくる。だが、この風を止めることはできないようだ。ユノアの顔が苦渋に歪む。

 その表情は、あどけない四歳児の顔に戻っている。今、自分に何が起きているのか、理解できずに不安におののいている。そんな表情だった。

 一瞬の風の緩みを感じて、カヤが立ち上がった。注意深く腰を曲げたままの体勢で強風に立ち向かい、ゆっくりとユノアに向かって行く。

「カヤ!」

 ダカンが制止しようとしたが、カヤは止まらなかった。ダカンは尚も強まる風に、身体を伏せることしか出来ない。

 何とかユノアに近付くと、カヤはユノアに向かって両手を伸ばした。

「ユノア、こちらにおいで」

 カヤの声に振り向いたユノアは、泣き顔になっていた。その瞳の色の変化に気付いて、カヤは目を見張った。だが今は、驚いている場合ではない。

 ユノアはカヤに抱きつきたいようなそぶりを見せるが、風が二人の間を邪魔していた。カヤは必死に手を伸ばして、何とかユノアの手を掴んだ。そのまま引き寄せ、胸に抱きとめた。

 その途端、風が止んだ。その反動で、カヤの身体は宙高く持ち上げられ、崖の外へと放りだされてしまった。

 悲鳴をあげる間さえなかった。カヤとユノアは、崖下へと落ちてしまうかに思われた。


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