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星姫の詩  作者: tomoko!
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第二章:希望の光

 キサクの後に続いて、ユノアはスラムの区域内に足を踏み入れた。

 入った途端、スラムの雰囲気が、以前とは全く違うことに気付いた。

 キサクの姿を認めて、スラムの人々が駆け寄ってきた。

「キサク先生!ようこそおいでくださいました!」

 人々の明るい笑顔に、キサクも戸惑っている。

「おお、みんな。今日はどうしたんだ。表情が明るいようだが」

「はい!先生。こちらへ来てください。ぜひ見ていただきたいものがあるんです」

 人々に手を引かれて、キサクは小走りで進み始めた。ユノアも急いでその後を追った。


 キサクとユノアは、朽ち果てた建物の中でも比較的綺麗な部屋へと案内された。

 一人の男が、誇らしげな顔で、部屋の隅に整理して置かれた荷物の上にかけられた布をめくった。

 そこには、たくさんの食料品と衣類があった。

 驚くキサクに、男は言った。

「ヒノト王ですよ!王様が、俺達にくださったんです。昨日のことです。俺達が苦しい生活をしているだろうと、兵士達が持ってきてくれたんです!」

「見てください!服も新しいものに着替えました。みんな着替えても、まだ余っているんです」

 確かに、前に来たときはぼろぼろだった服も、穴の開いていない綺麗なものに変わっている。

「薬はキサク先生にいつも頂いていましたが、それも王宮からいただけることになりました。足りない物があれば、いつでも訴えでていいそうです」

 キサクは尋ねた。

「このスラムだけでなく、マティピにある全てのスラムに、王はこのような物資をくださったのか?」

「はい、そうですよ!」

 人々は感激の涙を流し、口々にヒノトを褒め称えた。

「ヒノト王は、俺達を見捨てなかった。マティピの街の裏に追いやられていた俺達を、きちんと気に掛けていてくださったんです」

「ヒノト王こそ、真の王者だ。民のことを思いやってくださる、素晴らしい王様です」

「ヒノト王様は、こうも言われたそうです。俺達に働く場所をくださると。スラムに住んでいるというだけでろくな仕事にも就けなかった俺達ですが、生きる希望が沸いてきました。一刻も早く働いて、ヒノト王様にご恩返しをしたいものです」

 人々の顔は輝いていた。人々がヒノトを称える声に、ユノアは圧倒された。ヒノトは、これ程まで多くの人に希望を与えることが出来るのだ。ヒノトがとてつもなく大きく、遠い存在に思えて、ユノアは恐ろしささえ感じていた。


 後ろから、ユノアの手を引っ張る者がいた。それは、ラピだった。ラピはユノアに外に行くようにと合図している。

 部屋の中の熱気にのぼせかけていたユノアは、逃げ出すように部屋から飛び出していった。




 ユノアが篭の中からチュチを取り出して見せると、子供達は一斉に歓声を上げた。

「うわぁ!可愛い!良かったぁ。すっかり元気になったね」

「ねえ!私にも触らせて!」

 子供達に触りまくられている間も、賢いチュチは大人しくしている。だが、ようやく子供達の手から解放されて篭の中に戻ったときには、疲れたらしくすぐに目を閉じてしまった。

 子供達は嬉しそうに、チュチの寝顔に見入っている。

「良かった。ユノアの側にいれば、チュチは幸せだね。…ねえ、ずっと聞きたかったの。ユノアはどこに住んでいるの?チュチを元気に出来るくらいだから、やっぱり、お金持ちの家なの?」

 その問いに、ユノアは答えることが出来なかった。まさか王宮と言うわけにはいかないからだ。

 ユノアが困っているのに気付いたのか、ラピが助け舟を出してくれた。

「いいじゃんか。ユノアが金持ちの家の子だとしても。俺達の友達には違いないだろ」

「そう、だけど…」

 その子は寂しそうな顔で言った。

「やっぱり、羨ましいよ。私だって、チュチを自分で育ててあげたかったから」


「なら、自分で金持ちになればいいじゃんか」

 子供達は一斉に、「えっ!」と声をあげた。ユノアも、じっとラピに注目した。

「俺はなるぜ。絶対に。…確かに、今までは絶望してたよ。俺は一生、今の暮らしから抜け出せないんだろうって。だけど…。ヒノト様が、俺達を援助してくれたじゃないか!俺は嬉しかったよ。未来への希望の光が見えた気がした。俺達は、この世の中でいらない存在じゃないんだってな」

 ここでも出てきたヒノトの名に、ユノアの心はまた震えた。

「でも…。どうやってお金持ちになる気なの?」

「それはまだ考えてないけど…。でも、そうだな。商人がいいかな。世界中の国を飛び回って、このジュセノス王国に珍しいものを運んできてやる。それを王宮にも売って、俺はいつか、ヒノト王に会うんだ!」

 熱く語るラピだったが、子供達は白けた顔だ。

「ラピ兄ちゃん…。あんまり大きなこと言って大丈夫?俺、今ラピ兄ちゃんが言ったこと、大人になっても覚えてるからね」

「おお、いいぞ。金持ちになった俺が、お前達に好きなだけ美味いものを食べさせてやるからな」

 やはり不審顔の子供達だが、その表情に、ラピが本当に実現するんじゃないかという期待が含まれていることを、ユノアは見逃さなかった。


 未来への希望を、スラムの人々は見出したのだ。それを与えたのは、他ならぬヒノトだ。話に夢中になっている子供達を見ながら、ユノアの頭の中はヒノトのことでいっぱいになっていた。

 ドゼの店に来た、派手な三人の男達。あの男達は、ヒノトに対して酷い不満を持っていた。だが、ここではヒノトは絶賛され、人々の生きる目的そのものにさえなっている。

 王であるということがどんなに大変なことか、ユノアは今ようやく理解した気がした。ヒノトが言っていた、全ての国民を幸せにするという夢も、果てしなく遠い夢のように思えた。

 それでもヒノトは挑み続けるのだろう。王としてすべきことを模索し続けながら。それは苦悩の多い人生となるのだろう。


(ヒノト様のために、私は何が出来るのだろう)

 ユノアはふと、そんなことを考えていた。


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