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星姫の詩  作者: tomoko!
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第二章:神は実在する

 ユノアの目からは、大粒の涙がこぼれ落ちた。自分が人間ではない、化け物なのだという事実に、今更ながら打ちのめされていた。

「お父さんとお母さんは、満天の星空の夜、巨大な光が空から降ってきて、その後私を拾ったと言いました。そして、私がまだ赤ん坊の頃、ミモリという仙人様が私に会いに来て、こう言ったそうです。山の上から見ていたら、大きな光が目の前を横切って地上に落ちていったと…。その光の中に赤ん坊がいた。それが、私だと…」

 ヒノトは思わず頭に手を当てた。頭痛を覚えたからだ。あまりに衝撃的なユノアの発言が続くので、頭が混乱しているのは確かだった。

 椅子の背もたれに寄りかかって黙り込んでしまったヒノトを見て、ユノアも口をつぐんだ。自分が、王様でも理解に苦しむ存在なのだと思うと、また悲しさが込み上げてきた。ヒノトに対する信頼が芽生えかけていただけに、悲しみも大きかった。

 レダとティサも、唖然として立ち尽くしていた。すぐに理解しろと言われても、無理な話だった。ユノアは今まで二人が出会ったことのない、未知なる存在だからだ。どう対処していいのか分からず、次の行動が出来なかった。


 時間が止まってしまったかのような室内で、最初に動いたのはヒノトだった。

「ユノア、すまない…。すぐには頭の整理が出来そうにない。だがこれだけは確認させてくれ。お前が今言ったことは全て、真実だと誓えるな」

 ユノアは黙って頷いた。

「そうか、分かった…。だが俺には今、お前をどう扱うべきなのか決めることが出来ない。お前がジュセノス王国にとって邪悪な存在なのかどうか…。しっかりと考えなければならない。しばらく、時間をくれ」

 レダとティサに目で合図をし、二人を伴ってヒノトは部屋を出て行った。一人残されたユノアは、虚ろな目で椅子に座ったまま、ぴくりとも動かなかった。




 部屋の外に出たヒノトは、部屋から離れた庭で立ち止まった。その顔は険しい。周りに誰も人がいないのを確認して、レダを見た。

「…レダ。今のユノアの話、どう思う?俺の常識ではとても信じることが出来ない。突拍子もない話だ」

「それは私も同じ思いです。だが、ユノアの話の中に出てきたミモリという仙人…。その名を聞いてから私の中で、ユノアの話は信憑性を帯び始めました。ミモリという名を、ヒノト様は聞いたことがありませんか?」

 ヒノトは困惑げだ。

「いや、ないが…」

「ミモリとは、見守る者…。我々が生きるこの大地が生まれたときからこの世に存在し、以来ずっとこの世の歴史を見守り続けてきたという、伝説の存在です。神、と呼んでもいいのかもしれませんが…。ミモリは自身では何もせず、ただ世の流れを見守っているだけだと言われています。…ミモリはやはり、実在するのですね」

 またもや出てきた現実離れした話に、ヒノトは顔を歪めた。

「お前までそんなことを…。俺が理解出来ない話ばかりしないでくれ!」

 レダは落ち着いた目でヒノトを見据えた。

「ヒノト様…。この世には、我々人間の力など遥かに凌駕する存在が確かにあるのです。それは神と呼ばれて崇められています。ヒノト様は、神が人間とは全く違う世界の存在だと思われているのですか?それは違います。神は常に、我々のすぐ側におられる。我々人間が気付いていないだけなのです。だがある時突然に、神はその力を人間にお示しになる。生きているうちにそれを目撃出来るのは、極わずかな人間だけなのかもしれませんが…」

「で、では、お前は…。ユノアが神だというのか?」

 するとレダは眉をしかめてヒノトから目を逸らした。

「それが、分からないのです。今の話から予想出来たユノアの行動は、とても神とは思えないものばかりでした。あまりに未熟なのです。確かに不思議な力を持っているようですが、力に振り回されて人を殺してしまうなど、あってはならないことです。そんな神がいるでしょうか。それと、…空から光とともに降ってきたということも気になります。それが本当なら、ユノアは元々この地上のものではない、侵入者だということになります。何の目的があってこの地上へとやってきたのか…。ユノアは何も知らないようですが、それが芝居なのかどうかも、私には判断できません」

 ヒノトは髪の毛を掻きむしった。ヒノトがこれ程までに苛立ちを顕にするのは珍しかった。

「では、俺はどうすればいいんだ!ユノアに対して、どんな罰を与えればいい!」

 レダも声を荒げた。

「ヒノト様!焦ってはなりません。これは我々の能力で今すぐに決断できるようなことではありません。ユノアを我々の監視下におき、見定めるのです。ユノアが強力な力の持ち主であることは間違いない。その力をどうすれば、ジュセノス王国にとって有意義なものと出来るか。それとも、抹殺するしかないのか。それを見定めるのが、王たるあなたの役目です」

「何も罰を与えずに、ということか?そんなことで、民が納得するのか?」

「幸いにも、ディティ市とファド村の民にしか、ユノアの存在は知られていません。彼らとて、ユノアが王宮にいるとは夢にも思っておらぬ筈。今はユノアの存在を隠すのです。ユノアはファド村から逃げた後、行方知れずになったことにするのです。…ここにユノアのことを知る者は、誰がいますか?」

「キベイと、オタジと…。キベイからの報告を聞くのに、大臣達が数人いたが…」

「ではその全ての者達に厳重に緘口令を敷くのです。外に漏らした者は、厳罰に処すと」

 ヒノトは頷くしかなかった。レダの提案以外に、ヒノト自身でよい案が思い浮かばないからだ。

「分かった。レダの言う通りにしよう。…だが、これだけは確証が欲しい。ユノアは、邪悪な存在ではないのだな?」

「力に弄ばれている様子からして、その心配はないとは思いますが…。…ヒノト様は、どう思われるのですか?ザバダ山で、父母を呼びながら流したユノアの涙が、作り物であったと?」

 ヒノトは目を瞑った。あの時のユノアの慟哭。思わず抱き締めた腕から伝わった身体の振るえが嘘だとは思えなかった。

「いや…。そうは思えないな…。ユノアはやはり哀れな少女だ。愛する両親を失い、絶望の底にいる。今はあの子が元気になることだけを願おう」


 ヒノトはティサの方へと顔を向けた。ティサはヒノトとレダの会話を聞いていて、すっかり身が竦んでしまったらしい。手を組み合わせ、不安そうにしている。

「ティサ。聞いていた通りだ。俺はユノアに何の罰も与えない。お前は今まで通り、ユノアが元気になるよう、世話してやってくれ」

「は、はい…。分かりました」

「…ユノアも心細い筈だ。お前がユノアにとって心から信頼できる存在になるよう、努力してくれ。俺もそうなれるよう、こまめにユノアに会いに行こう」

「はい、分かりました…。では、失礼いたします」

 去っていくティサの後姿が、今までにない程小さく見えて、ヒノトは溜息をついた。

「あのティサがあれ程衝撃を受けているんだ。俺も動揺するわけだな。…果たして、俺の手に負えるのだろうか」

 するとレダがふふっと笑った。

「いつも大らかで前向きなヒノト様らしくもない。私はあなたのその、あまりに肯定的な考え方を危惧していたのですぞ」

 そう言われて、やっとヒノトの顔にも笑顔が戻った。

「そうだったな。能天気なところが、俺の一番の強みだと、父上にも言われたことがある。こんなに頭を使って悩んだりするからいけないんだ」

 ヒノトはレダに向かってにやりと笑ってみせた。

「今日はお前に助けられた。礼を言う。これからも俺の相談に乗ってくれ」

「…承りました。ヒノト王様」

 レダは深々とヒノトに礼をした。


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