第一章:残酷な運命
集会場から外へと連れ出され、建物の前の広間に放り出されたダカンとカヤの周りに、続々と村人が集まり始めていた。皆、血走った眼で二人を見下ろしていた。
人の垣根を掻き分けて、ロザが姿を現した。ほんの二日間家に引きこもっていただけなのに、別人のように痩せ細っていた。髪は総白髪となり、顔には皺が刻まれている。
ロザはしわがれた声で怒鳴った。
「お前達の命運は尽きた。厄病神をこの村に連れ込んだ罪は重い。その命を持って、償ってもらおう」
ダカンとカヤはお互いの顔を見た。もうどうしようもない。自分達はここで殺されるのだろう。
無念だった。ユノアと共に三人で暮らすという夢は絶たれた。もう一度、ユノアに会いたかった。強く生きろと。お前は選ばれし者なのだから、胸を張って生きろと言ってやりたかった。
最後まで身体を寄り添わせようとしている二人の上に、容赦なく刀が振り上げられた。
村人の興奮は極限に達して、「殺せ。殺せ」と大歓声が起きている。ゾラは最後尾で瞬きもせず、ダカンとカヤを見ていた。その目は赤く腫れ、涙が浮かんでいる。
二人の首めがけて、刀が振り下ろされた。
ようやく山から出たユノアは、見覚えのある景色にほっと胸を撫で下ろしていた。
ファド村の家の屋根が見える。もう少しで、ダカンとカヤに会える。そう思うと、これまでの疲れも、心の痛みも忘れるようだった。
村に入ると、ユノアは慎重に辺りを窺いながら進んだ。他の村人に見つかる前に、ダカンとカヤに会いたかった。
村の外れにある我が家には、簡単に入ることが出来た。だがそこに、ダカン達はいなかった。どこかに捉えられているのだろう。
二人を探すために家を出ようとしたユノアは、ふとある物に気付いた。それは、カヤがいつもつけていた、鮮やかな緑色の石で作られたイヤリングだった。いつもの保管場所に置かれたままになっていた。
混乱の中で、つける暇さえなかったのだろう。貧乏な暮らしの中で、ダカンからカヤに贈られた唯一のアクセサリーで、カヤはとても大切にしていた。
カヤに会えたら、渡してあげよう。ユノアは失くさないように、自分の耳にイヤリングを付けた。
外に出たユノアは村の中を彷徨った。だが、一人の村人にも出くわさなかった。村全体が静まり返っている。
ようやくユノアの耳に、人の声が聞こえてきた。あれは、集会場の方だろうか。かなり盛り上がっているようだ。
ユノアは足音を忍ばせて、声のする方へと向かった。
集会場の建物の影に隠れて、ユノアはそっと様子を窺った。
建物の前の広場に、多くの村人が集まっている。百人はいるだろうか…。村人は何かを囲んでいるようだ。村人は興奮し、「遂にやったぞ」「これで村は元通りになる」と、互いに声を掛け合っている。
堅い人垣がほどけ始めた。ようやく、人垣の中心が見えた。
そこにあるものを見て、ユノアは思わず悲鳴をあげそうになった。
そこには、首と胴体が離れた一組の男女の死体があった。二人の顔は、ユノアとは反対の方向を向いていて、誰なのかを確認をすることは出来なかった。
だが、胴体の衣服に見覚えがあった。まさか、まさか、あれは…。
ふらりとユノアは建物の影から姿を現した。ふらふらしながら、ゆっくりと死体の方へと歩いていく。
ユノアの存在に気付いた村人達は、一斉に口を閉じた。髪の毛の色が違うので、すぐにユノアとは気付かなかったようだ。
まるで時が止まってしまったかのように、村人達は静止していた。その中をただ一人ユノアだけが、ゆっくりと進んでいく。
ユノアは膝をつくと、丸い塊となってしまった人間の頭を持った。頭を回して、顔が見えるようにした。
それは紛れもなく、あれ程会いたいと願っていた、ダカンとカヤだった。
変わり果てた二人を見ても、ユノアは取り乱さなかった。妙に心が静かだった。
二人はもう、何も言ってはくれなかい。抱き締めてくれない。だって、死んでしまったのだから。私は、一人ぼっちになったんだ。