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星姫の詩  作者: tomoko!
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第一章:勇気を出して

 村の男達が引き上げるのを見届けて、ダカンは家の中へと入った。そこには、抱き合って座り込んでいるカヤとユノアがいた。

「あなた…。」

 不安に揺れる二人の眼を直視できずに、ダカンも腰を下ろした。思わず深い溜息をついてしまう。

「まさか、ハドクとはな…。あの夜、俺を襲い、ユノアを連れ去ろうとしたのも、ハドクの指図だったんだ」

「あなた…。これから、どうするの?」

「この村でこれからも暮らしていくなら、ハドクの命令には従わなければならない。だけど、俺は従う気なんてない。それならば、取るべき道は一つだ。この村から出て行く」

 カヤは思わず顔を覆った。

「…やっぱりそれしか方法はないのかしら。村の皆を説得することは出来ないの?」

「…それは無理だ。俺も今までは、皆がいつかはユノアを受け入れてくれることを期待していた。その希望は、今打ち砕かれたよ。まるでゾラも、性格が変わってしまったみたいだ。あんな恐ろしいこと、口に出来るような奴じゃなかったのに」

「…私のせいだわ。私がゾラに酷いことを言ったから。そのことをゾラは恨んでいるのよ」

 ダカンは考え込んだ。まるで何者かが仕組んでいるかのように、些細な出来事が積み重なって、ダカン達と村人との隙間を広げていく。強い流れに抵抗できずに流されて、行き着く場所にはどんな結果が待っているのだろうか。

「カヤ。愚痴を言うのは後だ。ゾラは、俺達三人で考える猶予をやると言った。猶予がいつまであるのか分からない。村人の気持ち次第で、明日になるかもしれない。とにかく、一刻も早く村から脱出しよう」

 カヤは自分を奮い立たせるように、何度も頷いた。

「ええ。ええ。分かったわ。すぐに荷物を整理しましょう。ユノア、手伝って…」


 ふとカヤが目を向けると、ユノアは顔を強張らせていた。

「ユノア…?」

「…お父さん、お母さん…。それでいいの?この村を出て行くなんて、そんなに簡単に決めていいの?私がハドクっていう男の人の所に行けば、村の人達とまた仲良く出来るんでしょう?」

「……っ!」

 ダカンはユノアの肩を掴み、目を覗き込んだ。

「ユノア。絶対にそんなことはさせない。お前にはまだ分からないだろうが、ハドクという男は本当に卑劣な奴なんだ。奴のところに行ってしまえば、お前のその純粋な心も、人を信じる心も、打ち砕かれてしまうだろう。お前が不幸になると分かっていて、そんなことは決して出来ない」

「でも…。ゾラさんだって、村の人達だって、私が来る前は、お父さん達ととても仲良くしてたんでしょう?私さえいなければ…、皆幸せになれるんでしょう?」

 ユノアの目に涙が溢れた。

「ごめんなさい。お父さん、お母さん。私がいるせいで、迷惑ばかりかけて…。もういいよ。私はたくさん愛してもらったから。もう、私を手放していいよ」

 ダカンとカヤは絶句した。ユノアの涙は真珠の玉のように透き通って、床へと転がり落ちていく。

 カヤはユノアを強く抱きしめた。

「あなたがそう言っても、私達は絶対に離さないわよ。こんなに優しくて、健気な子を、どうして手放したり出来るかしら。…ああ、ユノア。私達がどれだけあなたを愛しているかを、どうやったら伝えられるのかしら。ゾラは確かに大切な友人だけど、あなたは家族なのよ。この世に家族以上に大切なものなんてないわ。あなたがいなくなれば、私達の人生は終わったも同じこと」

 カヤはユノアの涙を拭ってやった。ユノアは顔を上げて、じっとカヤを見つめている。

「ユノア。私達に聞かせて。これからもずっと共に生きると。どんな困難にも、三人で力を合わせて立ち向かって行くと。あなたのその言葉が、私達に勇気と希望をくれるわ」

 ユノアの頬を、再び涙が伝った。ユノアは躊躇っていた。

 もちろん言いたい。胸を張ってそう言えたらどんなにいいか。ユノアは、ダカンとカヤに幸せでいて欲しいのだ。自分が二人にとっての足枷になるなら、消えてしまいたいと心から思っている。

 だけど、三人で生きていけるというのなら、ユノアにとってそれ以上の望みはなかった。

 ユノアはダカンを見た。ダカンは穏やかに微笑みながら、ユノアに力強く頷いて見せた。

 ユノアは深呼吸した。幸せを自分の力で掴み取ろうとするのは、とても恐ろしい。希望を持っていた分、叶わなかったときの落胆を想像すると、身が竦んでしまう。

 だから自分は最初から諦めて、楽な道を行こうとしていたことに、ユノアは今気付いた。

 踏み出してみようか。自分の意志で、自分の責任で。

「私、お父さんとお母さんが大好き。ずっと一緒にいたい。そのために、どんなこともするわ。怖いことにも、頑張って立ち向かうわ」

 カヤは顔を輝かせて、ユノアを強く抱いた。

「ユノア。よく言ってくれたわね」

 ダカンもユノアの頭を撫でた。

「ユノア。偉いぞ。大丈夫。三人一緒なら、きっと何とかなるさ。一緒に頑張ろうな」

 ユノアの顔にも、ようやく笑みが戻った。

「うん!」


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