第四章:一ヶ月後の日
リックイとテセスの激闘から、一か月の月日が経った。壊滅的な被害を受けていたリーベルクーンの街は、驚異的な復興と遂げていた。街は、何事もなかったかのように再建され、元通りの活気を取り戻している。
ヒノト達はというと、ジュセノス王国に帰ることは叶わず、リーベルクーンに留まり続けていた。だがヒノトは、悲観して王宮内にこもるようなことはしなかった。積極的に街へ出て、ツェキータの民と触れあいをもった。街の復興にも身体を挺して協力したヒノトは、今ではすっかり街の人気者だ。王様らしくない王様だと、老若男女問わず、ヒノトに近づいてくる。リックイが独裁者として君臨するリーベルクーンでは、こんなにも気軽に街に現れるヒノトが、物珍しくて仕方ないのだろう。
その日も、日が暮れるまでリーベルクーンの街中で過ごしたヒノトは、子供達の歓声に見送られながら、王宮への帰路へ着いた。
振り返りながら、歓声に手を振って答えているヒノトを見て、思わずキベイが溜息をつく。
「すっかり、ツェキータの民と仲良くなられて…。楽しそうですな、ヒノト様」
不満そうな口調のキベイに、ヒノトは苦笑している。
「何がそんなにも不満なんだ」
「何が、ですと!?ヒノト様は、ジュセノス王国の王なのです!…他国の民の機嫌とりなどしている様子を毎日見せつけられて、いい気分になる筈がありません」
「…。そういうな、キベイ。俺だって何も、ジュセノス王国に帰ることを諦めたわけじゃない。俺がここにいれば、ジュセノス王国はリックイ王に睨まれることもなく、平穏なのだ。平穏でありさえすれば、政務はレダが取り仕切ってくれる。これが最良の策なのだ。ここにいなければならないのならば、ツェキータの民を手なずけておくことは、悪いことではないと思うが…」
「…分かっています。ですが、どうしても悔しくなるのです。ジュセノス王国では、民が今か今かとヒノト様のお帰りを待ちわびているというのに、実際にヒノト様の傍で歓声を上げているのは、ツェキータの民だということが…」
ヒノトはそれ以上何も言わなかった。キベイの悔しさは、そのままヒノトの悔しさだ。沈黙したヒノトに、キベイもヒノトの心の痛みを感じたらしく、自分の軽率な発言を恥じて、口を噤んだ。
ヒノトが王宮内の自室に戻ると、ミヨが泣きそうな顔をして出迎えた。
「ヒノト王様!」
ヒノトは訝しげに尋ねた。
「どうした。何かあったのか?」
「…ユノアがまた、リックイ王に呼ばれていってしまったんです。もう三時間以上経つのに、まだ戻ってきません」
ミヨの言葉を聞いて、ヒノトは声を荒げた。
「またか!…俺に断りなくユノアを連れていくなと、あれ程言っているのに!」
キベイも険しい表情でヒノトに詰め寄った。
「どう、されますか?これ以上ユノアの潜在能力を引き出されて、リックイ王の野望に利用されるのは、歓迎できることではありません」
「ああ…。俺だって、リックイ王にユノアを好き勝手使われるのは許せない!…ユノアを迎えにいく。キベイは俺についてこい!」
穏やかなヒノトが、ここまで怒りを顕わにするのは珍しいことだった。部屋に残されたミヨは、傍にいたオタジを不安そうに見上げた。
「…そんな顔されたって、俺にはどうしようも出来ねぇよ。まあ、ヒノト様が帰ってくるのを待とうぜ」
オタジは椅子に座ると、最近とんと使わなくなった剣の手入れを始めた。ミヨも所在なさげに、椅子にちょこんと腰を下ろした。
王宮の中に閉じ込められて、ミヨ達は毎日、こんな無駄な時間を過ごさざるを得ないのだ。