第四章:揺るぎないリックイの自信
リーベルクーン王宮の中央に聳え立つ塔の最上階から、リックイはリーベルクーンの街を見ていた。その傍には、宰相であるイダオの姿もある。こんな夜更けに、王と宰相が揃っているのだ。やはり、ただ事ではない。
後ろにヒノトが立った気配を感じて、ヒノトは僅かに視線を向けた。
「ヒノト王。来たか」
ヒノトは緊張の面持ちでリックイを見つめた。
「ヒノト王。私の隣に立て。そして、リーベルクーンの街を見るのだ」
言われる通り、ヒノトはリックイの隣からリーベルクーンの街を見渡した。そして、驚いた。
城壁の上には、兵士が隙間なく立ち並び、殺気だって街の外を監視している。城壁の下にも、続々とツェキータ兵が集結していた。
リーベルクーンの住民達は、慌ただしく荷物をまとめて、家の中へと入っていく。家の窓も扉も固く閉ざされて、殺気立つ兵士達以外には、無人の街となってしまった。
「さあこれで、戦争の準備は整った。民は家の中で害を避け、兵士達は、来たる敵に向かって闘志を燃やしている」
悠然と微笑みかけてくるリックイに向かって、ヒノトは表情を歪めた。
「戦争と、言われましたか?一体誰と、戦争を始める気なのです?」
リックイは、遊びを始める子供のように、楽しそうに空に向かって両手を伸ばした。
「感じないか?ヒノト王…。大気を覆い尽くす怒りを…。女神テセスが、怒っているのだ。人間に我が子を殺されて…。テセスはもうすぐ、リーベルクーンに攻め込んでくるだろう。この私を、そして、全てのツェキータ人の命を奪うために…」
笑顔のまま、リックイはヒノトを覗き込んできた。
「さあ、ヒノト王はどうするのだ?どちらの味方をする。娘を殺された、哀れな女神に同情するのか?それとも、我々と共に、神と戦ってみるか?」
するとヒノトは、きっぱりと言い放った。
「我々は、この戦いに参加するつもりはありません。これは、ツェキータ王国の問題です。ジュセノス王国とは関係のないことで、私の部下を危険な目に合わせるわけにはいきません」
リックイは、遊びの最中に水を差された子供のように、むっと真顔になった。
「…今夜は、いつになく強気なのだな。ヒノト王…」
だがすぐに、声を立てて笑った。
「まあ、よい。誰の力を借りずとも、テセスごとき、私一人の力で追い返してみせよう。今はイェナサも倒れ、神と同等の力を持つ人間は、私しかいない。それを知って、テセスも今夜を選んだのだろうが…。それでも私が負けることは、決してない。そなた達はここで、我が力の凄まじさを見物しておればよい」
リックイの態度からは、これから神と戦うことへの怖れも迷いも、微塵も感じられない。
リックイがまるで得体の知れない、同じ人間とは思えぬ生命体に思えて、ヒノトはそこに立っているだけで、息苦しさを感じた。