第四章:危険な予感
心からはくつろげないリーベルクーン王宮の一室で、ミヨと同じベッドで眠りについていたユノアは、けたたましい警鐘の音で目を覚ました。
身体を起こしたユノアの隣で、ミヨも目を覚ましたようで、不安そうな声を上げた。
「な、何…?ユノア…」
「…様子を見てくるわ。ミヨは、ここにいて」
部屋の扉をそっと開けて、外の様子を窺おうとしたユノアだったが、扉が強引に勢いよく開かれたので、悲鳴を上げた。
「お、おい!落ちつけ、ユノア!」
扉の先にいたのは、オタジだった。
「オ、オタジ将軍…?も、もう。驚かさないでください!」
「あ、ああ。すまない…。いや、そんなことより!ユノア。すぐに着替えて、ヒノト様の部屋に来い!ミヨも一緒にだぞ」
「こんな、夜中にですか…?何かあったのですか?」
オタジは珍しく、緊張した様子で表情を引き締めた。
「ああ、これから一騒動ありそうだ。ジュセノス王国の全員が、一か所に集まっていたほうがいいとヒノト様が判断された。いいか、すぐに支度するんだぞ!」
慌ただしく、目の前の扉が閉められた。ユノアは茫然と、立ちすくんでいた。
これからきっと、大変なことが起きる。身体に突き刺さるような緊迫した空気が、王宮を、いや、リーベルクーン全体を覆っているのが分かる。
怖い、と思った。出来るならば、逃げ出してしまいたかった。でも…。
ユノアは唇を噛みしめて、ぎゅっと拳を握った。
(私は逃げない。逃げても、何も解決しないもの。頑張ろう。そうしたらきっと、いいことがあるわ)
ユノアは振り返って、ミヨのいるベッドに駆け寄った。
「ミヨ!オタジ将軍の言ったこと、聞こえたでしょ?急いで着替えて、ヒノト様のところに行こう!」
だがミヨは、パニック状態に陥っていた。
「ユノア…。何なの?今から、何が起こるの?」
「それは、私にも分からない…。でもきっと、とても大変な事態になる気がするの。…ヒノト様もきっとそう思ってる。だから、みんなを一つの場所に集めようとしているんだわ。みんなが力を合わせれば、どんなことが起きても、きっと何とかなる。そうでしょ?」
ミヨの顔から不安は消えないが、それでも頷いた。
「そうだね…。きっと、乗り越えられるよね」
「そうだよ!さあ、ミヨ!早く起きて」
ユノアに急かされて、ミヨも着替えを始めた。慌ただしく、二人は部屋から飛び出していった。
ユノアとミヨが部屋に入っていくと、ヒノトが待ちかねた様子で立ちあがった。
「来たか、ユノア!」
「ヒノト様…。一体、何があったのですか?」
ヒノトは、緊張した面持ちで答えた。
「ユノアが危惧していたことが、起きるのかもしれない。ユノアは今、テセスの怒りを感じているんじゃなのか?」
ヒノトの言葉に、ユノアははっと身体を強張らせた。
「はい、感じます…。まさか、ヒノト様!テセスが攻めてくるというのですか?」
「…ユノアがそう思うのなら、そうなのだろう。リックイ王はもっと早く、テセスの気配に気付いている筈だ。だから王宮内がこんなに慌ただしいのだろう」
ヒノトは険しい表情で一同を見渡した。
「いいか、みんな!どんな事態が起ころうとも、すべきことは一つだけだ。決して、死ぬな。戦いに進んで参加などするな。今回の戦いは、あくまでもツェキータ王国の問題なんだ。国王と国民が、自らの行いの結果として招いたものだ。俺達には、何の関係もない。激しい戦いが予想されるが、その結果としてこの中の誰かが命を落としでもしたら、それ程悲しいことはない。…分かったか?」
「はい!ヒノト様!」
そう叫んだキベイに続いて、他のメンバーも力強く頷いた。
ノックの音がしたすぐ後に、勢いよく部屋の扉を開けて、中に入ってきた人物がいた。エミレイだった。
ヒノトの部屋に集まっていたジュセノス王国の一団をじろりと見渡すと、エミレイはヒノトに近づいていった。
「リックイ王がお呼びです。一緒にお越しください」
ジュセノス王に対して有無を言わさぬ言い方に、むっとしたキベイがエミレイに詰め寄ろうとした。それをヒノトは目で制す。
「分かりました。さあ、みんな。着いて来るんだ」
ヒノトの後ろに従って、ジュセノス王国の一団全員が歩きだす。エミレイは訝しげな顔をしながらも、それを止めようとはしなかった。