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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:ユノアの加勢

 驚異的な速さで走り続けていたユノアは、ようやく足を止めた。その目に飛び込んできたのは、ワニの姿をした怪物に囲まれているヒノトの姿だった。鋭い牙を剥きだしにした怪物に、ヒノトは死さえも覚悟して、剣を向けている。

(ヒノト様が、危ない!)

 そう思った瞬間、心が燃え上がった。理性は一瞬で吹き飛んでしまった。

 ヒノトに危害を加えようとする者は、それが誰であろうと、許すことなど出来なかった。それが例え、身体の中に青い珠を持つ同士だとしても。

 ユノアの傍にいたチュチが、悲鳴のような鳴き声をあげて、ユノアから離れた。ユノアの放つ強烈なパワーから、本能的に逃げたのだ。

 ユノアの瞳が、鮮やかなエメラルドグリーンに変わっていく。ユノアが剣を抜くと、その剣も淡いグリーンを帯びていく。




 剣を左手に握り、ユノアは高く飛び上がった。ヒノト達までの距離は百メートル程あったが、一飛びでヒノト達のいる場所に到達してしまった。

 ユノアが降り立った瞬間、剣先が一匹のツァタカの身体に突き刺さった。その一突きで、ツァタカは絶命した。

 突如として現れた新たな敵に、それまでヒノト達に向かっていたツァタカは、一斉にユノアに向かって攻撃態勢を布いた。

 最初の攻撃目標であるツァタカが死んだことを確認したユノアは、視線をあげ、他のツァタカ達を睨みつけた。そのエメラルドグリーンの色の目を初めて見たヒノトは息を飲み、信じられないといった表情で、唖然としてユノアを見守るしかなかった。


 ツァタカと対峙するユノアの耳に、聞き覚えのない声が聞こえてきた。いや、耳にではない。頭の中に直接響いてくる声だった。

(お前は、何者だ!何故我々の邪魔をする!…青い珠を持つ者よ。お前は、我らの同士ではないのか!)

 ユノアは驚き、動きを止めた。周りから見ているヒノト達には、もちろんこの声は聞こえていない。驚いた表情で止まっているユノアを、不思議そうに見つめている。

 ユノアは、頭の中に響いてくる声に答えた。

(…あなた達こそ、何故ヒノト様に危害を加えようとするの。ヒノト様に手出しをする者は、誰であろうと許さないわ)

(…ヒノトとは、このよそ者の男のことか。我々が狙っているのは、この者ではない。憎きツェキータ人共だけだ!だがもし、お前達がその男と共にツェキータ人を庇おうとするならば、お前達も敵だ!ツェキータ人の仲間でないならば、早々にこの場から立ち去れ!)

 ユノアは沈黙し、剣をツァタカに向けて構えた。今のユノアには、このツァタカ達がどういう存在なのか、敵なのか味方なのかさえも、知る術はない。だが、ヒノトを無事に救い出すためには、ツァタカと戦うしかない。そう判断したのだった。

 ツァタカは唸り声をあげた。

(…青い珠を持つ者よ。我らと戦う気か!)


 一匹のツァタカがユノアに飛びかかってきた。それを合図に、十数匹のツァタカが、一斉にユノアに向かって攻撃をかけた。ツァタカの巨体に、ユノアの身体は完全に覆い隠されて、見えなくなってしまった。

「ユノア!」

 ヒノトは叫んで、傍に掛け寄ろうとした。だがその行く手を、別のツァタカが阻む。




 ヒノトに向かって襲いかかってきたツァタカの牙から、一人のツェキータ兵が身体を挺してヒノトを守った。牙に引き裂かれた兵士の身体から、真っ赤な血が溢れだす。エミレイがヒノトを庇い、ツァタカと戦い始めた。ユノアの登場により、ヒノト達を囲むツァタカの数は半減し、エミレイ達でも充分互角に戦える状況となっていた。


 ヒノトは咄嗟に、倒れる兵士の身体を抱きとめた。兵士の身体から溢れだした血が、ヒノトの服を染めていく。

「しっかりしろ!…すまない。私のために…!」

 真っ青な顔をしながらも、兵士はヒノトに向かって笑ってみせた。

「私なら、大丈夫です…。どうか、心配なさらぬよう…」

 だがその後すぐに、兵士はがっくりと頭を垂れた。その身体は冷たく、ぴくりとも動かない。

 兵士が死んだと思い、ヒノトは愕然とした。


 だが、次の瞬間、驚くべきことが起こった。真っ青だった兵士の顔に、赤みが射したのだ。あれ程激しく流れ出していた血はいつの間にか止まり、心臓が大きく脈打つ振動が、兵士の身体を通してヒノトにも伝わってくる。

 兵士がぱっちりと目を開けた。そして、何事もなかったかのように立ちあがったのだ。

 ヒノトも、キベイも唖然とするしかなかった。

 声もなく見上げるヒノトとキベイの視線を受け、兵士は困ったように笑った。まだあどけなさの残る、少年兵だった。

「言ったでしょう?大丈夫だと…。我々は特別に選ばれ、鍛え抜かれた兵士なのです。これしきのことで、死んだりはしません」

 少年兵は再び剣を持ち、ツァタカに挑みかかっていく。その様子を、ヒノトは茫然と見つめていた。

「…どういうことだ?キベイ。俺は確かに、あの兵士が俺の腕の中で絶命したのを感じたんだ。俺は、夢を見ているのか?」

 キベイはヒノトの肩を掴んだ。

「…いいえ。これは夢ではありません。現実です。ですが、我々にはとても理解できない現実なのです。…この戦いに、我々は参加することは出来ません。エミレイ将軍達の邪魔にならぬよう、成り行きを見守りましょう」


 ヒノトははっとした。

「そうだ!ユノアはどうなった?無事なのか!?」

 ヒノトが視線を向けたその先に、ツァタカの巨体を跳ね飛ばして悠然と立ち上がるユノアの姿があった。




 弾き飛ばされたツァタカの身体からは、血が溢れだしている。ユノアに襲いかかってきた全てのツァタカが、絶命していた。

 ツァタカの血を被って荒々しく息をするユノアは、鬼人のようで恐ろしくもあり、気高く美しくもあった。

 平凡な人間など寄せ付けないような高貴さを持って佇むユノアは、ヒノトとは遠い世界の人のように思えた。ヒノトの心の中を、寂しさが吹きぬけていく。

(ユノア…)

 ヒノトの呼びかける眼差しにも気付かず、ユノアは残るツァタカに狙いを定め、飛びかかっていった。




 ユノアとエミレイを中心にして、次々とツァタカは倒されていく。特にユノアの勢いは凄まじく、ツァタカは防戦一方となっていた。


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